頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症の診断と痛みを改善する治療
頸椎症の症状は多岐にわたり、重症度によって治療法も異なります。病院を受診した際にどのような治療の選択肢があるのか気になっている方も多いと思います。
ここでは頸椎症の検査と診断、そしてその先の治療について解説します。自分や家族が頸椎症かな?と思われる方は受診の際の参考にしていただければと思います。
目次
頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症
頚椎症には頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症があります。脊髄と神経根では障害されたときの症状の出方や治りやすさが異なります。
脊髄と神経根の違い
まずは脊髄と神経根について、どのように違うのか解説しましょう。
脊髄というのは脳から体の各部分へと情報伝達する神経がまとまっている塊のようなものです。脊髄自体は、軟膜、くも膜、硬膜という3種類の膜に覆われています。このうち、軟膜とクモ膜の間には脳脊髄液という液が蓄えられていて、脊髄はその中に浮いている状態になっています。
脊髄は、体のそれぞれ必要な高さで、左右に神経を出しています。これが脊髄神経です。神経は脊髄から離れた後、硬膜を貫いて骨と骨の隙間を通って、体の各部分に行き渡ります。この脊髄神経が出た根元のことを神経根と言います。
いずれが圧迫されても、神経症状は出現します。しかし、それぞれに症状の特徴がある程度決まっています。また、決定的に異なるのは、障害された時に治りやすいか治りにくいかということです。
脊髄は神経の大元になりますから、非常に密度高く神経線維が通っています。血管も入り込みにくいような構造をしていますから、損傷した時には修復するための血流がなかなか維持されず、治りにくい構造をしています。
一方で脊髄神経は、1本1本は細く弱々しいものですが、圧迫されてもそれが致命傷となることは少なく、圧迫が解除されると症状も改善することが多いです。
治療するかどうかの判断も大きく異なってきますから、脊髄が原因なのか、神経根が原因なのかを見極めることは、非常に重要なポイントです。
頚椎症性脊髄症の症状の特徴
頚椎症性脊髄症ではどのような症状が出るのでしょうか。
まずは首の痛みです。首の後ろの部分に痛みが出ます。また、首を後ろにそらした時や、荷物を持って手や首に負担がかかった時に痛みが生じてきます。
神経の障害として、手や足の麻痺やしびれが出てきます。特にしびれはよく出てくる症状です。頚椎症性脊髄症の場合には、両側に症状が出てくる時もあります。また、手だけではなく、足にも症状が出てくると脊髄に損傷が起こってる可能性を考えます。
感覚障害も出現します。何も触れていないのに痛みが走ったり、反対に触った感覚や、温度に関する知覚が麻痺したりします。
手足の運動障害や、歩行障害などが出現することもありますし、膀胱直腸障害と言って、尿や便を出す機能が失われることもあります。
頚椎症性神経根症の症状の特徴
頚椎症性神経根症でも、首の痛みは出現します。しかしそれ以外の神経症状に関しては、頚椎症性脊髄症と大きく異なってきます。
まずしびれや感覚障害は、片側に出るのが基本です。また、手だけであり、足に症状は出てきません。
運動障害があるとしても片方の手だけです。膀胱直腸障害も生じません。
首の痛みに関しては、頚椎症性脊髄症が首を動かさなくても痛い、動かしたら痛くなることもある、程度であるのに対し、頚椎症性神経根症は首を動かした時の痛みが比較的強いです。そのため、上を見たり、うがいをしたりといった行動が不自由になります。
痛みの程度は、人それぞれです。軽いものから耐えられないような痛みまであります。
頸椎症の検査と診断
頸椎症は頸椎の骨自体や、骨と骨の間にある椎間板が変性することで引き起こされます。
病院を受診すると、どのような状況で症状が出現するのか問診し、身体所見を確認することで頸椎症の有無を調べます。
例えばスパーリングテストと言って首を横に曲げて頭部を押すと上腕に痛みが走るかどうか確認したり、ジャクソン検査と言って首を軽く後方へ曲げて頭部を押すと上腕に痛みが走るか確認したりすることで、頸椎症かどうかを判断します。
身体所見だけだと原因ははっきり分からないことが多いですから、多くの場合画像検査を行います。
画像検査
画像検査としてはレントゲンやCT、MRIを利用します。
レントゲンは簡易ですぐに撮影できますが、頸椎症の診断としては骨の並びかたや大まかな構造が分かる程度で詳細に原因を特定できることは少ないです。
CT検査は骨の状態を確認することに適していますが、椎間板や脊髄の状態を把握するのは苦手です。
一方でMRIは骨の状態はある程度確認できる一方、椎間板や脊髄の状態を把握するのに優れています。
それぞれの検査にはこうした特徴があります。症状にあわせて、あるいは手術をするかどうか、どのような手術をするのかを判断するために詳細に調べたい、などの状況に応じて画像検査を組み合わせていきます。
さまざまな身体所見や画像検査の結果を総合して、頸椎症であるかどうか、頸椎症ならばどこに原因があるのかを診断していきます。
頸椎症の保存療法
頸椎症は手術を行っても症状が劇的に改善することは意外と少なく、むしろ手術による悪い影響が出ることもあるため、軽症であればまずは手術を行わず保存療法を行います。
頸椎カラーの装着
首を曲げることで症状が強くなる場合は、頸椎カラーを装着することで首が曲がらないようにして脊髄を保護することがあります。
ただし、原因が可逆性(安静にすることで原因の改善が認められること)ではなく、生涯にわたり頸椎カラーを装着することになると大変です。
多くの場合は症状の進行を抑えるためか、もしくは原因の改善が認められるまでの間、首をサポートするために使用されます。
筋肉痛の対策
頸椎症の症状が起こらないような姿勢を維持しようとすると首に力が入り、筋肉痛を引き起こします。
筋肉痛が継続するとそのせいで頸椎症が増悪することがあるため、薬の服用で痛みを和らげる治療を行います。
その際、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)に分類される鎮痛薬が用いられます。よく使われるNSAIDsにはロキソニンなどがあります。また、筋肉の緊張を緩和するために筋弛緩作用のある薬剤も使用されることがあります。
神経障害性疼痛の対策
「ビリビリ」「じんじん」と表現される、神経が障害を受けることによる痛みを神経障害性疼痛といいます。
神経障害性疼痛は頸椎症でよく起こりますが、通常の鎮痛薬はあまり効きません。そのため、神経障害性疼痛がある場合には専用の治療薬を使用して痛みの緩和を図ります。また、損傷した神経の回復を目的にビタミン剤などの内服も行われます。
漢方薬の使用
頸椎症の症状緩和や治療のために漢方薬も使用されます。漢方では気血の流れが妨げられることで症状が出ていると考えます。そのため、気血の流れを整えることを目標とします。症状に応じてさまざまな漢方薬が使用されます。
その他
頸椎のズレや椎間板に対する負荷が原因の場合もあり、それらの改善のために首を引っ張る牽引療法や、血流を改善して治癒を助けるための温熱療法、筋力を回復させたり正しい姿勢を維持するためのリハビリテーションも行われます。
自宅でできる運動もありますが、これらは必ず整形外科医や理学療法士などの専門家の指示に従って行うことが大切です。
頸椎症の手術
頸椎に対する手術は、手術に伴う脊髄や体への負担も大きいため、生活に大きな影響があったり、手術でなければ治せないような明らかな骨や椎間板の異常があったりといった場合に選択されます。
頸椎症の原因や骨の状態によって次のような手術が選択されます。
- 椎弓形成術:頸椎の後ろから椎弓を切り開くことで脊髄の圧迫を解除する
- 頸椎固定術:頸椎がずれないように骨と骨を金属で固定する
- 椎間板摘出術:椎間板の中の神経を圧迫している部分を除去する
- 前方固定術:首の前方から神経を圧迫している骨を削ったり、ズレを修正して固定する
いずれの手術も神経自体を治療するわけではなく、今以上に神経が圧迫されないようにするための手術です。神経自体を治療するわけではありませんから、手術によって症状が完全に元通りに治るとは限りません。術後も神経の修復を助けるためにさまざまな治療を組み合わせて、症状が改善してくるのを待ちます。
手術をするかどうかで迷ったり、不安を感じたりする方もいらっしゃると思います。担当医に質問したり、セカンドオピニオンを求めたりと、専門家の意見を聞くことをおすすめします。
頸椎症の神経ブロック療法
神経ブロック療法とは、神経の周りに局所麻酔薬を散布することで神経が感じている痛みを緩和することで、さまざまな効果を得るための治療です。
頸椎症の場合は痛みを感じることで筋肉がこわばり、そのせいで痛みを強く感じたり頸椎症が悪化したりと悪循環を来しています。
神経ブロックを行うと、その悪循環を断つことで頸椎症の一時的な症状緩和はもちろん、長期的な頸椎症の症状改善にもつながります。
また、神経ブロックを行うと周囲の血流が改善されますから、神経自体の修復による症状の改善も期待できます。
神経ブロックはペインクリニックの専門医が得意とする治療です。整形外科にかかっている間に症状が強くなってきたと感じた場合には、担当医に相談し、ペインクリニックに紹介してもらうとよいでしょう。