肺がんの症状の特徴は? 胸の痛み、息切れ、かすれ声など
胸の痛みを感じることがあります。そんなとき、肺がんかもしれないと心配になるかもしれません。肺がんに痛みの症状はあるのでしょうか?
ここでは、肺がんに伴う痛みを取り上げ、どのような場合に痛みが生じるのか、また、痛みに対してどのような治療が行われるのかを詳しく解説します。
目次
肺がんとは
肺がんは、気管支や肺胞を覆っている細胞ががん化することで発生します。肺がんは大きく4種類に分けられます。
腺がん
最も多いのが、腺がんと呼ばれるタイプです。腺がんは肺がんの中でも半分ほどを占めています。腺がんは、肺の中でも色々な物質を分泌する細胞から発生するといわれています。
この癌は肺の中でもより末梢、すなわち心臓から遠い部分にできやすいがんです。比較的女性に多く、喫煙との関連はあまりないといわれています。がんの発育はややゆっくりで、他の病気を探すためにCTなどを撮影したときに偶然見つかることもあります。
扁平上皮がん
扁平上皮がんと呼ばれるタイプは、喫煙者に多いがんです。男性にも多いです。肺がんのうち約30%を占めます。気管や気管支などを構成する扁平上皮細胞から発生するがんです。
より中枢、すなわち心臓に近いあたりに発症するがんです。中心部に近いので、リンパ節などへの転移が早期におこり、見つかった際にはすでに進行している場合が多いがんになります。
大細胞がん
大細胞がんは、腺がん、扁平上皮がん、そして後述の小細胞がんを除いたがんが全てまとめて呼ばれるがんです。肺がんの中では比較的少なく、数パーセント程度といわれています。肺の末梢にできることが多いのですが、あまり特徴がはっきりしないがんです。
小細胞がん
小細胞がんは最も悪性度が高い肺がんといえます。肺がんに占める割合は少なく、喫煙者に多く見られるのが特徴です。増大スピードが非常に早く、転移を起こすことが非常に多いがんです。そのため、診断がついた場合は手術をしても効果が無いことが多く、手術を選択せずに化学療法と放射線療法から始めます。
小細胞がんを除き、他のがんは転移がなければ手術による治療が行われます。その上で、状態に応じて化学療法や放射線療法を組み合わせていきます。
胸の痛みは肺がんを疑うべき?
胸が痛い、というと肺がんかな、と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際に肺がんで痛みを感じている方はあまりいないのです。実は肺自体には痛みを感じる機能はありません。そのため、肺の中にがんや、異物があっても痛みを感じないのです。
初期の肺がんで感じる症状としては、咳や痰、体重減少などが認められる場合がありますが、あまりはっきりしたものはありません。進行すると痛みや血痰、呼吸困難などが認められる場合があります。
ですから、症状が出た頃には進行していることが多く、普段からの検診が重要とされているのです。
肺がんに伴う苦痛や不快感
肺がんになるとどのような症状が出てくるのでしょうか。 初期の頃にはほとんど症状が出てきませんが 、腫瘍が大きくなってくるとだんだんと様々な症状が出てきます。
肺がんや、肺がんの治療に伴う苦痛や不快感には次のようなものがあります。
咳・痰
肺がんで最も多く見られる症状は咳とタンです。特に中心部近くの肺がんの場合、咳と痰がよく見られるようになってきます。風邪をひいてるわけでもないのに2週間以上咳と痰が続いたり、痰に血が混じっていたりする場合や、熱が5日以上続くような場合には、癌による咳や痰ではないかと疑って病院を受診するといいでしょう。
息切れ・呼吸困難
息切れや呼吸困難も、肺がんの時に時々見られてくる症状になります。この症状もがんが中心部近くにできた場合によくおこってくる症状です。というのも、癌ができるだけでは息切れや呼吸困難が起こってくることはあまりありません。
がんが気管支の近くにできて気管支が狭くなることによって、息切れや呼吸困難の症状が出てきます。特に気管支が狭くなると、息を吸うのよりも息を吐く方が難しいという症状が出てきます。喘鳴と言って、ヒューヒュー、ゼーゼーいうような症状が特徴です。
こちらの症状も、一過性のものであれば特に心配することはありません。ただ症状がずっと続いたり、ひどくなっている場合には一度病院を受診してみてもらった方がいいでしょう。
胸の痛み
肺がんが進行すると胸の痛みを感じることがあります。肺は胸膜という膜に包まれています。痛みを感じるセンサーは肺自体にはありませんが胸膜にはあります。肺がんが増大して胸膜まで至った場合には、胸膜が刺激されて痛みを感じるようになります。
胸水
ここで胸膜についてもう少し詳しく説明しましょう。胸膜には2種類あります。1つ目は、先ほど登場した肺を包む胸膜です。この胸膜を臓側胸膜といいます。もう1つの胸膜は、胸を構成する骨や筋肉の内側に張り付いている壁側胸膜と呼ばれる胸膜です。
壁側胸膜と臓側胸膜は接していますが、その間には空間があり、少量の水分が貯留しています。その水分のことを胸水といいます。
胸水が少量たまっていることで、壁側胸膜と臓側胸膜は離れることなく、しかしべったりとくっつくこともなくスムーズに動くことができ、呼吸運動によって肺が広がったりしぼんだりしやすくしています。
しかし、胸水の量が増えすぎると肺が膨らみにくくなって息苦しさを感じることがあります。また、貯留する液体が血液である場合、胸膜を刺激して痛みを感じることがあります。この場合、血液の移動によって痛みの場所が移動するため、体を動かしたときに痛みが移動することになります。
肺がんが増大して胸膜にまで浸潤した場合、反応性胸水が増加することが多いです。また、がんが増大しすぎて破裂した場合は、血液が流れ出して血液が貯留することになります。このような場合に痛みや呼吸の苦しさを感じます。
パンコースト症候群
パンコースト症候群というのは、肺の上の方に癌ができた時に起こってくる症状になります。肺の上の方に癌ができると、がんが腕に行く神経に浸潤し、腕の痛みやしびれ、麻痺、 筋力低下などの症状を起こしてきます。
またパンコースト症候群が起こった時には、ホルネル症候群という症状も起こってくることが多いです。これは首にある交感神経に浸潤して、交感神経の機能が落ちてくることによって起こってくる症状で、まぶたが下がったり、瞳孔が小さくなったり、一部分の汗が出にくくなったりといった症状が出てくることがあります。
ただし、これらはがんが比較的進行した時に起こってくる症状です。
かすれ声
肺がんが原因で、声がかすれてくることもあります。
声を出すために声帯を支配する神経は、脳から出た後、一度声帯の横を通過して、胸の中に入ります。そして右側は鎖骨下動脈の、左側は大動脈の場所で反転して声帯に向かいます。 この神経のことを、反回神経と言います。
この反回神経が通る場所は、リンパ節が多くある場所です。そのため肺がんがリンパ節へ転移すると、リンパ節が大きくなり、神経を圧迫します。すると、神経の働きが落ちてしまい、うまく声を出すことができなくなります。その結果として、かすれ声として自覚するようになるのです。
こちらも一過性のものであれば心配ありませんが、急にかすれ声が出てなかなか治らない場合には病院を受診しておくとよいでしょう。
転移によるその他の症状
肺がんは進行すると、血流に乗って体の他の場所に転移します。転移を起こした場合、転移先で増大し、痛みを感じる場合があります。肺がんは骨や脳、肝臓、副腎に転移しやすいといわれています。骨に転移した場合は転移した骨の辺りを動かしたときに強い痛みを感じます。脳に転移をした場合は頭痛を感じる場合があります。
術後の痛み
肺がんが転移を起こしていない場合は、手術を選択する場合が多くなります。以前は肺がんの手術は肋骨を切断し、大きく胸を開けて肺を切除することがほとんどで、術後は大きな痛みを伴いました。
しかし、近年肺がんの手術は低侵襲化が進み、胸腔鏡を使用することで数センチの傷が数箇所残るだけで手術が可能になりました。さらに条件がそろえば数センチの傷1か所だけで手術できる場合もあります。
しかし、数センチの傷とはいえ、胸の傷は呼吸をすることで痛みを感じやすい傷です。そのため、術後の痛み止めとしてさまざまな方法がとられます。
硬膜外麻酔といって、背中から脊髄の近くに痛み止めのチューブを入れ、そこから痛み止めの薬を持続的に流す方法は最も強く痛みをおさえます。開胸手術や傷が大きい場合などに使用されることが多くなります。
肋間神経ブロックは、壁側胸膜や筋肉、骨、皮膚の痛みを伝える神経の根元あたりに局所麻酔薬を注射することで痛みを伝えにくくし、鎮痛効果を得る方法です。しかしこの場合、内臓の痛みを伝える神経はブロックできませんから、他の痛み止めを併用します。
医療用麻薬の持続静注や、その他の痛み止めの使用は上記の鎮痛法に合わせて使用されます。一種類の薬剤だけでは十分に痛みを取れず、副作用が多く出てくることがあるため、複数の痛み止めを併用します。
胸腔鏡を使用した手術の場合、術後1~2日程度で痛みはある程度治まってきます。しかし稀に、術後数週間経っても痛みが続く場合があります。これは開胸術後疼痛症候群と呼ばれ、神経損傷に伴い、神経が修復されるときの痛みや、誤った修復がされたことによる痛みと考えられています。
この場合、通常の痛み止めではなかなか抑えられない痛みが数週間にわたって持続しますから、必要に応じてさまざまな鎮痛法を選択します。疼痛コントロールが困難なときの対応はペインクリニックの専門分野です。種々の薬剤や、神経ブロックなどの手技を駆使して痛みを抑えていきます。
肺がんの緩和ケア
肺がんは前述の通り、胸壁に浸潤したり、転移したりしなければあまり痛みはなく、症状が少ないため、緩和ケアを必要とする場合は少ないです。一方で、浸潤や転移を起こすと手術の適応とはならず、化学療法や放射線療法を行いつつ、現れる症状ひとつひとつに対応していくケアが必要になります。
痛みがある場合は、痛み止めの使用はもちろん、放射線療法や神経ブロックが使用されます。痛み止めは一般的な鎮痛薬だけではなく、医療用麻薬を使用して痛みのコントロールを行います。
骨や脳などへの転移巣に対しては放射線療法が行われます。放射線によって転移巣を完全になくしてしまうことは難しいですが、増大を抑え、少しでも縮小させることで痛みを抑えることができます。脳転移に対しては麻痺などの症状が出現している場合には摘出手術を行う場合もあります。
胸水が貯留して呼吸の苦しさが出現している場合は、胸腔ドレナージを行います。胸水が貯留している場所に針を刺し、体外へ排出します。
胸水のコントロールが困難だったり、がんが増大して肺が正常に働かなくなったりするなどして呼吸が苦しい場合は、処置によって改善させることは難しくなりますから、医療用麻薬を使用して症状を取り除く治療も行われます。