【生薬解説】蘇葉(そよう)とは
別名:紫蘇葉(しそよう)/しそ(紫蘇)
中国原産のシソ科の1年草、シソ(㊥尖紫蘇Perillafrutescensvar.acuta)やチリメンジソ(㊥皺紫蘇P.frutescensvar.crispa)の葉を用います。
シソの種子は紫蘇子(しそし)、茎は紫蘇梗(しそこう)といいます。
日本にも古くに伝わり、野草化しているものもあります。
シソには特有のペリラアルデヒドのにおいがあり、香りが強いものほど良品です。
シソはアントシアン系の赤い色素、シアニンの有無によって赤ジソ系と青ジソ系に分けられ、青ジソは大葉ともいわれて刺身のつまや薬味として、赤ジソの葉は梅干しの着色などに利用されています。
薬用には赤ジソを用い、とくにシソの変種で葉の縁がギザギザでシワの多いチリメンジソが用いられます。
シソの紫色の葉に含まれるアントシアン色素は梅のクエン酸などで酸化されると赤紅色に変化しますが、梅干しが赤色なのはこのためです。
ちなみに梅とシソを漬けた梅干しは日本独特の保存食です。
葉の成分にはアントシアン色素や精油のぺリラアルデヒド、ピネン、リモネン、ペリラケトンなどが含まれ、抗菌・解熱作用や鎮静作用が知られています。
また、シソの葉エキスにはロスマリン酸などが含まれ、免疫を活性化させるTNFを抑制し、ヒスタミンの遊離を抑制する作用があり、花粉症などのアレルギー症状に対する効果が認められています。
漢方では解表・理気・解魚毒・安胎の効能があり、感冒や咳嗽、喘息、腹満、流早産、魚毒による症状などに用います。
蘇葉の発汗作用は麻黄や桂皮に比べると弱いですが、理気作用、つまり胸の痞えや悪心、嘔吐などを改善する作用もあり、胃腸型の感冒にしばしば応用されます。
蘇葉の理気作用は食欲不振のほか妊娠悪阻にも効果があります。
また魚介類による中毒や蕁麻疹に効果があり、このため刺し身のつまに青ジソが添えられているといわれています。
また陰囊湿疹に蘇葉の煎じた液を外用すると効果があります。→紫蘇梗・紫蘇子(紫蘇・シソ油)
①発散作用
感冒とくに胃腸型の感冒に用います。
蘇葉の発汗作用は弱いので荊芥・防風・生姜などと配合します。
高齢者などで軽い風邪症状を反復するときには人参・葛根などと配合します(参蘇飮)。
胃腸型の感冒で嘔吐・下痢のみられるときには藿香・白朮などと配合します(藿香正気散)。
感冒などで気分がすぐれない、耳の閉塞感といった症状に香附子などを加えます(香蘇散)。
②理気作用
心身症、神経症の諸症状に用います。咽の閉塞感、悪心、食欲不振などの症状に半夏などと配合します(半夏厚朴湯)。
ストレスなどによる精神・神経症状に陳皮や腹皮などと配合します(分心気飲)。
便秘や腹満感を伴う腰痛などの症状に沈香、大腹皮などと配合して用います。(三和散)。
③解毒作用
魚介類による食中毒や蕁麻疹に用います。
食中毒による嘔吐、下痢、腹痛に蘇葉を単独で、あるいは生姜と配合して用います。
蕁麻疹、特に魚による蕁麻疹に香蘇散が有効です。
④安胎作用
妊娠中毒症、胎動不安などに用います。
食欲がなく、腹部が張って痛み、胎児が下がってきそうな状態に当帰・芍薬などと配合します(紫蘇和気飲)。
処方用名
紫蘇・紫蘇葉・蘇葉・蘇梗・老蘇梗·ソヨウ
基原
シソ科LabiataeのシソPerillafrutescensBrittonvar.acutaKudo、またはその他近縁植物の葉で、ときに枝先を混じります。
保存により気味が減じやすいので、新しいものが良品です。
蘇梗はシソ茎枝のことです。
性味
辛・温
帰経
肺・脾・胃
効能と応用
方剤例
散寒解表
①加味香蘇散
風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・無汗などの症候に、荊芥・防風などと用います。
②香蘇散
胸苦しい・痞え・食欲不振など気滞の症候を伴うときは、香附子・陳皮などを配合します。
③杏蘇散
咳嗽・息苦しいなど肺気不降の症状を伴うときは、杏仁・前胡・桔梗などと使用します。
理気寛中
①藿香正気散
脾胃気滞による腹満・悪心・嘔吐などには、藿香・半夏・生姜などと使用します。
②半夏厚朴湯
痰凝気滞の梅核気による咽喉の梗塞感には、半夏・厚朴を配合して用います。
行気安胎
黄連蘇葉湯
気滞・気鬱による胎動不安(切迫流産)や妊娠悪阻に、黄連あるいは縮砂・木香・陳皮などと用います。
解魚蟹毒
魚介類の中毒で悪心・嘔吐・下痢・腹痛を呈するときに、単味を煎服するか藿香・陳皮・半夏・生姜などと配合して使用します。
臨床使用の要点
紫蘇は辛温芳香で気分を紛らわせ、発散風寒するとともに行気寬中かつ安胎に働くので、外感風寒の悪寒発熱・無汗の表証、脾肺気滞の咳嗽胸悶・悪心嘔吐に用い、特に風寒表証に胸悶嘔悪をともなうときに適します。
このほか、魚蟹中毒による腹痛吐瀉にも有効です。
参考
①蘇葉は発散風寒に、蘇梗は理気解鬱・安胎に、それぞれ優れています。
一般には葉・梗をまとめて紫蘇として用います。
②紫蘇は麻黄・桂枝ほどの発汗力はないので、表寒の軽症に用います。
蘇梗は理気解鬱に働くので気鬱や梅核気にも有効であり、性質が緩やかであるから虚弱者にもよいでしょう。
③気滞による胎動不安に対し、気機を通暢することによって効果をあらわします。
血熱や気虛の胎元不固で生じる胎動不安には用いるべきではありません。
用量
6~12g、魚蟹中毒には30~60g、煎服。
使用上の注意
①長時間煎じてはなりません。
②辛散耗気するので、気虛・表虚には用いません。