在宅酸素療法の注意点は?COPDによる低酸素血症の治療法

お悩み

COPDは長年の喫煙などによって肺や気管支に永続的なダメージが生じ、重篤な呼吸苦や全身状態の悪化などをきたす病気です。

ここではCOPDにおける低酸素血症を取り上げ、在宅酸素療法などの治療法について解説します。

COPDと低酸素血症

COPDでは酸素を取り込む能力が低下することで、低酸素血症と呼ばれる状態になることがあります。低酸素血症とはどのようなものなのかを確認しておきましょう。

COPDとは

COPDというのは慢性閉塞性肺疾患の略で、長年の有害物質の暴露によって肺や気管支が強いダメージを受けてしまっている状態をいいます。多くの場合は喫煙が原因です。

肺はもともと肺胞という小さな袋が集まった構造をしています。肺胞の壁には毛細血管があって肺胞の中の空気から酸素を体に取り込み、二酸化炭素を体から排出する仕事を行っています。また、肺胞の壁には弾性線維という線維があります。弾性繊維は引き延ばされたら自分で縮む力を持っており、肺が膨らんだ後、しぼむときの力となっています。

長年にわたって有害物質へ暴露し続けると肺胞では炎症が起こり、肺胞壁が破壊されます。すると複数の肺胞が一つの肺胞になってしまいます。その結果、肺胞壁の表面積が圧倒的に少なくなってしまい、酸素の取り込みの能力が落ちてしまいます。

また、肺胞壁の減少は、弾性線維の減少を来たし、肺がしぼむ力を弱めます。

気管支では長年の有害物質への暴露によって表面の粘膜で常に炎症が起こっている状態となってしまいます。慢性的に炎症が起こると気管支粘膜は分厚く硬くなってしまい、気管支の内腔が狭くなってしまいます。

このように、COPDでは酸素の取り込み能力が低下するため血液中では酸素の量が不足し、少し動いただけでも息苦しさを感じます。また、肺がしぼめないうえに気管支が狭くなるので、息を吐き出すことが難しくなり、苦しさを感じてしまうのです。

低酸素血症とは

人は肺で酸素を血液中に取り込みます。血液は心臓に送られ、心臓から全身へ動脈を通して送られます。全身のさまざまな場所で酸素が消費され、エネルギーを産生します。そしてその産物として二酸化炭素が産生され、静脈を通して心臓へと戻り、肺へと送られます。肺では二酸化炭素が排出され、再度酸素が取り込まれます。

低酸素血症というのは、動脈血液中の酸素の量が少ない状態をいいます。元々酸素の運搬は、血液中の赤血球という細胞が担います。赤血球にはヘモグロビンという物質が溶けており、ヘモグロビンは酸素に非常に結合しやすいという特徴を持っています。

若い人であれば、普通に呼吸をしていると、肺を通過した全てのヘモグロビンに酸素が結合します。しかし、加齢によってだんだんと酸素の取り込みは低下し、安静時の呼吸ではだいたい95%ぐらいのヘモグロビンに酸素が結合する程度になります。

病院では指先にセンサーをつけて値を計っている人を見かけることがあります。この検査は動脈血のなかでどれだけのヘモグロビンに酸素が結合しているか調べ、SpO2という値で示します。一般に、SpO2が92%を下回ると病的で、低酸素血症といわれます。

低酸素血症の症状

低酸素血症では息苦しさの症状を感じます。また、全身のさまざまな場所で酸素が不足し、酸素が無い状態でエネルギーを産生しなくてはならなくなります。このような場合、乳酸などのいわゆる疲労物質が多く産生され、少し動いただけでもかなりの疲労を感じるようになります。

体を動かしたり、入浴したり、体に負担がかかることを行うと体の中で必要な酸素の量が増加します。このような場合でも、酸素の取り込みが増加しなければ全身のさまざまな場所で酸素が不足してしまいますから、息苦しさや疲労感を感じるようになります。

つまり、低酸素血症の症状としては息苦しさや倦怠感があり、体を動かした際により強くなるという特徴があります。

低酸素血症の治療

低酸素血症に対する治療は、基本的には低酸素に至ってしまった原因となる疾患の治療が先決です。しかし、COPDの場合はすでに肺や気管支が正常ではない状態になってしまい、修復は困難な状態です。

そのため体に取り込まれる酸素を増やすために、肺に届く酸素の量を増やす治療を行います。

在宅酸素療法

人が吸っている酸素は空気のうち約21%の濃度になっています。酸素を吸入すると、その濃度が増加し、肺胞の中の酸素が増加します。肺胞の中の酸素が増加すれば、それだけ血液中に溶け込む酸素の量が増加しますから、動脈血中の酸素濃度が増加します。

COPDの患者さんは酸素の取り込みが低下していますから、酸素を吸って補助しなくてはなりません。低酸素血症の症状が起こってくる状態によって酸素を吸わなくてはならないときが人によって変わってきます。

例えば、歩いたり入浴したりといった酸素の必要量が増加するときだけ低酸素血症の症状が出現する人はそのようなときに酸素を吸います。一方で、安静にしていても呼吸苦があり、低酸素血症となっているような人は、常に酸素を吸い続けます。

このように、日常生活で常に酸素を吸入し続けるようにする治療を在宅酸素療法といいます。この在宅酸素療法は、安静時のSpO2の値が88%未満の場合に保険適応となります。

自宅に酸素を産生する機械を設置し、そこからチューブで酸素を送り、鼻や口から吸い込みます。

外出する際にはボンベに詰めた酸素を使うか、携帯用の酸素産生装置を持ち歩くことで酸素を吸い続けることもできます。

換気補助療法

COPDが進行した場合、酸素の取り込みはだんだんと低下しますが、二酸化炭素の排出が阻害されることはあまりありません。酸素よりも二酸化炭素の方が肺胞で血液中と肺胞の中の空気との間で出入りがしやすいためです。

しかし、COPDの患者さんの場合、肺炎や無気肺などさまざまな呼吸器疾患を合併しやすくなります。このような場合、二酸化炭素の排出が阻害されてしまい、血液中の二酸化炭素濃度が上昇してしまい、さまざまな症状が出現します。

また、COPDがかなり進行してしまった場合は、日常的に二酸化炭素排出が阻害されてしまうこともあります。

血液中の二酸化炭素濃度が増加してしまった際には人工呼吸器を利用して呼吸を補助します。以前は気管の中にチューブを挿入し、人工呼吸をする必要がありました。永続的に人工呼吸が必要であれば、口からの人工呼吸チューブを長期間続けると肺炎を引き起こすため、気管切開を行って首から人工呼吸のチューブを挿入し、人工呼吸を行っていました。

しかし現在では、顔に密着するマスクを利用して、口や鼻、気管から人工呼吸用のチューブを入れることなく換気補助をすることができる非侵襲的陽圧呼吸療法が行えるようになりました。気道に持続的に陽圧をかけて気管支や肺が広がりやすくして、呼吸をサポートします。

基本的には急激に症状が増悪したときに入院で使用する治療法ですが、在宅で持続して治療を行う選択肢もあります。

呼吸リハビリテーション

さまざまな呼吸のアシスト法がありますが、やはり自分自身の力で呼吸をする能力を向上させるのが最も重要です。呼吸リハビリテーションによって、息苦しさや低酸素血症を起こしにくい呼吸法を身につけるほか、普段から積極的に運動を行い、呼吸をしやすくすることができます。

呼吸に関わる筋肉を鍛えることで、普段から呼吸の能力を向上させ、また痰を排出しやすくすることで無気肺や肺炎などの合併を極力減らすことができます。

低酸素を引き起こす人がいきなり運動を始めるとすぐに低酸素となってしまい、危険です。専門家の指示のもと、徐々に行っていくことになります。

在宅酸素療法の注意点

在宅酸素療法をする場合には、どのような注意点があるのでしょうか。

決められた酸素流量を守る

まず大事なことは、酸素流量は決められた流量を守る必要があるということです。ついつい息苦しくなると流量を増やしたくなると思いますが、そのようなことはしてはいけません。

在宅酸素療法を処方されている人は、普段から流す流量と、体を多く動かして酸素が必要になる時に流す流量とが医師から指定されています。体を動かしてしんどい時には、その流量以上にはしないように気をつけて流量を増やすといいでしょう。

必要以上に高い濃度の酸素が吸入されてると、何がいけないのでしょうか。

もともと人の体は呼吸回数を調節するための因子として、血液中の二酸化炭素濃度を指標にしています。息を止めると、血液中の二酸化炭素の濃度がだんだんと上昇してくることによって、呼吸中枢が呼吸をしなければならないという命令を下し、息苦しさを感じてくるとともに、呼吸を活性化させます。

しかし、慢性閉塞性肺疾患のように在宅酸素を必要としている人は、慢性的に二酸化炭素の濃度が高くなっています。二酸化炭素濃度が上昇してもあまり差がなく、体は二酸化炭素を指標にして呼吸を調節することをやめてしまっています。

このような時には、吸入する酸素濃度が呼吸中枢をコントロールするトリガーになっているのです。つまり、酸素を十分に吸えていない時には、呼吸が多くなるようになっています。反対に、酸素が必要以上に吸えている状態になると、体は酸素が十分に足りていると判断して、呼吸を止めてしまいます。

このような状態のことを二酸化炭素ナルコーシスと言い、慢性閉塞性肺疾患の時になぜ高濃度の酸素に吸入してはならないのかの説明になっています。つまり、慢性閉塞性肺疾患の人は、必要以上に高濃度の酸素を吸入してしまうと呼吸が止まってしまうので、してはならないのです。

医師から指定された酸素濃度以上の流量は設定しないようにしましょう。

入浴の仕方

入浴は体の負担になります。水圧によって体が押されるのに加え、体を多く動かすことによって酸素消費量は急上昇します。さらに、湿度の高い空気によって、呼吸が苦しくなるということもあるでしょう。

ですので、在宅酸素療法をしている人は、入浴する時には必ず酸素を吸入しながらというのが原則になります。

できるだけ体の負担を減らすために、いくつかのポイントがあります。まずは、肩までお湯に浸かるのではなく、みぞおちの上まで程度の入浴に留めるのがいいでしょう。また、お湯の温度は暑すぎず、だいたい40度前後に設定し、入浴時間も15分以内に留める、浴室や脱衣場を前もって温めておく、着替えのために椅子を用意しておくなども大切です。

火災事故に注意する

酸素には物を燃えやすくする性質があります。例えば、酸素吸入中にタバコを吸うとチューブなどに引火する可能性があります。タバコだけではなく、ガスコンロなどの火も危険です。酸素濃縮装置には、周囲2m以内に火気を置かないという注意点があります。料理をするのであれば、IHクッキングヒーターに変えるなどの工夫が考えられます。

しかし、実際には喫煙による火災事故が発生してます。そもそも肺の病気で在宅酸素療法をしていることがほとんどですから、喫煙は病気の状態を悪くすることにもつながります。事故防止のためにも禁煙が必要です。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

プロフィール

関連記事