動脈硬化に用いる薬の種類…脂質異常症や高血圧、糖尿病の予防・改善に

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血管壁が硬くなる動脈硬化が悪化すると、心筋梗塞や脳卒中などの病気の発症リスクが高くなることが知られています。

動脈硬化を予防・改善するために、脂質異常症治療薬、高血圧治療薬、糖尿病治療薬といった薬が処方されることがあります。ここでは動脈硬化に用いる薬の種類について解説します。

動脈硬化に伴うさまざまな異常

動脈硬化の進行は脂質異常症や高血圧、糖尿病との関連が指摘されています。

脂質異常症との関係

脂質異常症は、血液中に存在する脂肪分が多すぎる、あるいは少なすぎる状態を指しています。

従来は高脂血症と呼ばれていましたが病態を適切に表現していない理由から、2007年に日本動脈硬化学会が診断名を「脂質異常症」に修正した経緯があります。

血中の中性脂肪やLDLコレステロールが基準値より高すぎる、またはHDLコレステロールの値が正常値より低すぎることでも動脈硬化を引き起こすリスク因子になることが判明してきたためです。

脂質異常症の多くは、不規則な生活習慣によって起こると言われており、ほとんどが日々における運動不足、油物など過剰に摂取する偏った食事、肥満体形などが主たる原因とされています。

高血圧との関係

高血圧というのは、その名の通り血圧が高い状態を指しています。

たまたま測った血圧が高いだけでは高血圧症とは言い切れず、繰り返して測定しても血圧が正常値より高い場合を意味しています。

高血圧症が長期的に持続することで動脈硬化が知らぬ間に進行し、脳卒中や心筋梗塞が引き起こされる、あるいは心機能が低下して心不全に罹患しやすいと考えられています。

糖尿病との関係

糖尿病は、血糖値を降下させる作用のあるインスリンと呼ばれるホルモンの分泌量が低下したり、働きが悪くなったりすることで発症すると言われています。

日本では糖尿病患者さんの約9割以上が2型糖尿病と言われています。

いわゆる「ストレス」、「肥満」、「運動不足」、「暴飲暴食」などの日々の生活習慣の乱れが主な原因となってインスリンが相対的に効きにくくなることでブドウ糖が細胞に十分に取り込まれなくなります。

インスリンの分泌量やその機能に異常が生じる原因として多いのは、高脂肪、高カロリー、食物繊維不足などの食生活習慣です。

糖質成分の取り過ぎや運動不足が続くとインスリンの抵抗性が増して徐々に血糖値が上昇します。 

糖尿病が悪化すると、血管壁が損傷して動脈硬化が悪化して心筋梗塞や脳卒中などの病気の発症リスクも高くなります。

血糖値が高い状態が続くと血液中に多量に存在するブドウ糖が血管の壁を傷つけることで目や腎臓、神経領域にも十分な血液が供給されにくくなることで網膜症や腎機能傷害、そして末梢神経障害などいわゆる糖尿病の三大合併症を引き起こすことが知られています。

末期レベルまで糖尿病の病状が進行すると最悪の場合には失明、人工透析、足の切断など日常生活に極めて大きな支障をきたす状態に陥ります。

動脈硬化の人が用いる薬の種類

動脈硬化の予防や改善に役立つ薬としては、脂質異常症治療薬、高血圧治療薬、糖尿病治療薬が挙げられます。

脂質異常症治療薬

日本心臓財団によれば、コレステロール値が高い場合や脂質異常症と診断された際には、動脈硬化に関連する疾患を予防するために日々の生活習慣の改善をすることが推奨されています。

具体的には、禁煙する、過食に注意する、適正体重を維持する、魚や緑黄色野菜、海藻、大豆製品などの摂取量を増やす、アルコールの過剰摂取を控える、毎日合計30分以上を目標に有酸素運動を実践するなどが勧められます。

脂質異常症の治療は、このような生活習慣の改善が基本となりますが、それで十分な改善が認められないケースでは、薬物治療が検討されることになります。

薬物治療には大きく分けて2種類の薬が存在します。

ひとつはスタチン系薬と呼ばれているコレステロール値を下げる作用を発揮する薬であり、もうひとつはフィブラート系と呼ばれる中性脂肪値を下げる効果を有する薬剤です。

高血圧治療薬

高血圧症では、合併症の出現に細心の注意を払うことが重要であり、心臓や腎臓の機能が徐々に低下して心不全や腎不全に陥ってしまうと呼吸困難や全身浮腫、不整脈、貧血症状などを生じて最悪の場合には死亡することも考えられます。

最近の研究では、収縮期血圧(最高血圧)が10mmHg上昇すると後遺症が残存して長期リハビリを要する脳卒中疾患を発症するリスクが男性で約20%、女性では約15%程度高くなることが判明してきています。

高血圧は多くの場合には不規則な日常生活習慣が主たる原因となっているため、基本的な生活スタイルを見直して出来る限りの是正をすることが肝要であると考えられています。

それに加えて、適度な運動を実践する、塩分をできるだけ控えた食事内容を摂取する、あるいは禁煙する、適正体重を維持することが必要です。

特に、高血圧の実際の治療環境においては食塩制限が重要な要素であり、日本高血圧学会によれば高血圧症を患っている成人で1日6g未満の塩分摂取量を推奨しています。

生活習慣の見直しだけで血圧値の改善が認められないケースでは、降圧剤を用いた薬物治療を実施して血圧管理を実行する必要があります。

一般的に広く用いられている降圧剤の種類には、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、カルシウム拮抗薬、利尿剤などが挙げられます。

糖尿病治療薬

日本人の糖尿病の大多数を占める2型糖尿病は食事療法と運動療法が治療の基本です。

そして、国立国際医療研究所の糖尿病情報センターによれば、糖尿病の飲み薬は基本的には作用機序の観点から大きく3つに分類することができます。

一つ目は、インスリンを分泌しやすくする薬で、膵臓に働きかけてインスリンを分泌させてインスリンの分泌低下を補助する薬効を有しています。

例えば、商品名でスルホニル尿素薬としてオイグルコン、アマリールなどが該当します。

同様に、速効型インスリン分泌促進薬としてファスティック、グルファスト、シュアポストなどが挙げられますし、DPP-4阻害薬としてジャヌビア、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、オングリザなどが知られています。

二つ目は、インスリン効果をより効きやすくする薬であり、インスリン抵抗性を改善する作用機序が認められています。

例として、ビグアナイド薬の範疇に入るジベトスやメトグルコ、あるいはチアゾリジン薬の一種であるアクトスなどが挙げられます。

三つ目は、糖分の吸収や排泄を体内で調節する機序を有した薬剤であり、食べ物を摂取後に糖分の吸収を緩徐にして急激な血糖上昇を抑制する効果が期待されています。

例えば、α-グルコシダーゼ阻害薬としてグルコバイ、ベイスン、セイブルなどが周知されていますし、SGLT2阻害薬としてフォシーガやジャディアンスが一般的に広く普及している薬剤となります。 

これらの血糖値を下げる効果を有する糖尿病薬を使用する場合には、副作用として低血糖になる可能性が懸念されますので、いざという時の緊急時対応ができるように心がける必要があります。

また、近年注目されている糖尿病の新薬としてGLP-1受容体作動薬が挙げられます。

血糖値を下げる働きのあるGLP-1は元々体内に存在しているホルモンです。GLP-1受容体作動薬はこのGLP-1を補う糖尿病薬であり、空腹時には働かずに食事を摂取後に血糖値が高くなったときに作用する機序を有しているため、低血糖症状を引き起こしにくいと言われています。

まとめ

これまで、脂質異常症や高血圧、糖尿病の予防・改善に用いる動脈硬化に関連する薬の種類などを中心に解説してきました。

動脈硬化が進行すると、血管に多大な負担がかかって血管内壁が傷ついて、高血圧症や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病を引き起こす病気の直接的な発症原因にもなります。

日々の生活習慣の乱れが発症に大きく関与している動脈硬化では、原因となっている食生活や運動習慣の乱れを正す生活指導が行われ、それだけでは思うように状態を改善できないときには薬物療法が行われます。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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