脳梗塞の原因に?首の動脈硬化で生じる頸動脈狭窄症の症状と治療

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心臓から脳に血液を送る頸部の動脈が狭くなることを頸動脈狭窄症といいます。頸動脈狭窄症は動脈硬化によって引き起こされ、脳血流の低下や脳梗塞の原因になります。ここでは頸動脈狭窄症を取り上げ、症状や治療法について解説します。

頸動脈の場所と働き

頸動脈は、脊椎動物の頸部の左右にあって顔や頭へ血液を送りこむ動脈です。総頸動脈にはじまり、気管、食道にそって上行し、頸部のほぼ中央で内外の頸動脈に分かれています。

頸動脈をはじめとする動脈血管というものは内側から順番に内膜、中膜、外膜の3層構造で構成されており、内膜組織は血液が固まることを防ぎ血管を拡張させる機能を始めとして動脈硬化を予防するのに重要な役割を担っている血管内皮細胞に覆われています。

頸動脈の検査

頸動脈エコー検査では、首に走行している動脈に対して超音波装置を用いて観察することで頚動脈壁の厚みを測定して、血管に狭窄部位や閉塞病変がないかどうか、あるいは動脈硬化の進行と共に形成されるプラークの有無や浮遊性などを評価できます。

この超音波検査では、頚部に検査用のゼリーを塗布して器具を首に密着させて頚動脈を観察し、万が一動脈硬化が進行している場合にはコレステロールなどによって形成された塊が視認できて動脈が実際に狭窄している様子が認められます。

頸動脈狭窄症とは

心臓から脳に血液を送る主要な通り道である頸部の動脈が狭くなることを「頸動脈狭窄症」と呼称します。

頸動脈狭窄症の原因となるアテローム動脈硬化は、中型血管や大型動脈の内腔に向かって形成されて貯留する内膜プラークを特徴としており、そのプラークの内部には脂質、炎症細胞、結合組織などが存在することが知られています。

頸動脈のアテローム性動脈硬化を引き起こすリスク因子としては、脂質異常症、糖尿病、喫煙歴、肥満、高血圧などが挙げられます。

従来であれば動脈硬化というものは血管の壁に脂質成分のみが沈着して引き起こされる変化であると捉えられてきましたが、近年では血管内に存在する細胞と病態によって生じる新生物質との複雑な相互反応によって動脈硬化が起こってくると検討されています。

高血圧症などを背景に頸動脈の血管内膜を覆っている血管内皮細胞が傷つくと、内皮細胞の中に悪玉コレステロールが入り込んで酸化されると同時に、白血球の一種であるマクロファージが内膜部に染み込んだコレステロール成分を取り込んで粥状硬化巣を形成します。

動脈硬化巣であるプラーク内部に脂質コア群が形成されるのみならず、さらに血管内皮の傷ついた箇所を補修して治すために血液を凝固させる働きを有する血小板が集簇(しゅうぞく)して、ますます内膜が肥厚する結果、頸動脈の血管の内腔が狭くなることに繋がります。

アテロームが大きくなればなるほど血管表面の膜が薄くなって破れ、そうした変化によって血栓成分が自然に形成されることを繰り返しながら動脈硬化がさらに進行して、最悪の場合には頸動脈の血管が閉塞して血流が滞ってしまいます。

脳梗塞の原因に?頸動脈狭窄症の症状

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頸動脈狭窄症が原因で脳血流の低下をきたす、もしくは狭窄部からの脂肪や血栓などの飛散により脳梗塞の原因となる可能性があります。

動脈硬化に伴う頸動脈狭窄症は、喫煙歴や運動不足などの危険因子が重なることによって発症し、なおかつ肥満、高血圧、脂質異常、糖尿病などのリスク要素によって動脈硬化の病状は進行します。

頸動脈は主に脳の前頭葉、側頭葉、頭頂葉という重要な部分を栄養している血管であり、その根元の部分である起始部の狭窄は将来的に大変広範囲な脳を損傷させて、重篤な脳梗塞を引き起こす潜在的な危険性があります。

頸動脈狭窄症の内科的治療

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一度病状が進行した動脈硬化は完全に治癒させることは難しいですが、動脈硬化を進行させる危険因子を理解して対策を講じることで一定程度の予防ができて、病状の進行を抑えることが可能となります。

頸動脈狭窄症の対応策の一つとして内科的治療が挙げられ、食事や運動など日常的な生活習慣の改善、生活習慣病に対する積極的な治療を実行することで動脈硬化に関連する危険因子を除去して動脈硬化の治療や予防に繋げます。

食事療法

コレステロールを多く含む肉などの食品、あるいは卵やバターなどを多量に用いて動物性脂肪成分が多い揚げ物を過剰に摂取するなど暴飲暴食をしないように十分に注意しましょう。

また、過度な塩分の摂りすぎは高血圧の発症リスク因子となりますし、糖分の過多摂取は糖尿病を発症する原因となるために一定の注意が必要です。

普段の生活の中で、血液中のコレステロールを低下させる働きを有する食物繊維が含まれる食品、抗酸化作用のあるビタミン群が含有される野菜や果物は適度に取り入れるように努めましょう。

運動療法

運動療法としては、常日頃からラジオ体操、水中歩行、ウォーキングや過剰な負担とならない程度の軽いジョギングなどの有酸素運動を15分~30分程度かけて定期的に実践するように心がけましょう。

高齢者など足腰の弱い人の場合は、椅子に座って簡単に実行できるストレッチ体操などを行うことも出来ますし、もともと基礎疾患を有しており、現在治療中の場合は、それぞれの主治医や担当医と相談して無理をしない範囲で運動習慣を保つように工夫しましょう。

適度な運動を実践することで、中性脂肪成分が減って善玉コレステロールが増え、動脈硬化に対する予防に一定の効果が期待できますし、筋肉量を増加させて基礎代謝を上げることで、糖分や脂肪分の代謝効率を改善させることに繋がります。

薬物療法

動脈硬化の進展を予防する薬物療法としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを始めとする生活習慣病に関する投薬治療を行います。

頸動脈狭窄症の外科的治療

頸動脈狭窄症の外科的治療としては、頸動脈内膜剥離術(CEA)と頸動脈ステント留置術(CAS)が挙げられます。

頸動脈内膜剥離術(CEA)

頸動脈内膜剥離術は、全身麻酔下に頸部皮膚を切開して頸動脈を露出した後、手術顕微鏡を用いてプラークそのものを摘出して、頸動脈の狭窄を解除する治療方法です。

手術に伴う脳梗塞の発症率は低く、柔らかいプラークや全身血管の蛇行が強い場合にも施行可能というメリットがある一方で、全身麻酔の負担があること、首に多少手術の痕が残るなどのデメリットがあります。

頸動脈ステント留置術(CAS)

頚動脈狭窄症に対するステント留置術は、動脈硬化によって細くなってしまった頚動脈を、風船のついたカテーテルで押し広げた後に、ステントという形状記憶合金でできた筒を内張のように留置する治療です。

頸動脈ステント留置術では、ステントという金属メッシュを円筒状にした機材を留置して狭窄を解除するために、足の付け根から(血管形状によっては腕から)カテーテルという管を挿入します。

治療中にプラークが飛散しないように工夫をした上で狭窄部を風船状のカテーテルで拡張した後、ステントを展開します。

局所麻酔で施行可能なこと、首に傷が残らないメリットがある一方で、頸動脈内膜剥離術と比較して術後脳梗塞が発症しやすい、造影剤を使用するため腎臓の悪い患者さんには注意が必要である、抗血小板薬をしばらく継続しなくてはいけないといったデメリットがあります。

まとめ

これまで、脳梗塞の原因になり得る首の動脈硬化で生じる頸動脈狭窄症の症状と治療などを中心に解説してきました。

頸動脈狭窄症に対しては、高血圧、糖質代謝異常、脂質異常などの動脈硬化の危険因子となっている疾患の治療を行い、必要に応じて禁煙・禁酒などの生活指導を実施します。

また、プラーク安定化(脂肪を飛散させにくくすること)を図るための脂質異常症に対する治療薬や、必要に応じて抗血小板薬(血液をさらさらにしてプラーク表面に血栓が付着しにくくする薬剤)を内服します。

頸動脈狭窄症の狭窄率が高い場合には脳梗塞予防として外科治療を検討した方が良い場合があります。

一般的に、脂質異常症や高血圧などを背景にして動脈硬化は様々な形で進行して血管を傷つけて頸動脈狭窄症を発症させることに繋がりますので、発症リスクとなる慢性疾患を抱えている際には専門医に相談しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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