大腸がん検診の種類と特徴…一次検診と精密検査の違いとは?
早期の大腸がんでは、目立った自覚症状が乏しいことが往々にしてあります。大腸がん検診はそうした大腸がんを発見する機会となります。ここでは大腸がん検診の目的や、さまざまな検査方法について解説します。
目次
検診の対象者と受けられる場所
一般的に、大腸がん検診が推奨される年齢層は40歳以上の健常者であるといわれており、毎年1年に1回は定期的に受診して検査することが勧められています。
大腸がん検診は市区町村や日本対がん協会の地域支部が中心となって実施しています。集団用の検診会場で検体提出をする、あるいは個別の医療機関に委託して行われるなど実施する形態は多種多様です。
また、所属先の企業や健康保険組合などが提携してその従業員と家族団体向けに大腸がんにおける検診を提供することもありますし、人間ドックの検査項目に大腸がん検診が一緒に含まれるケースもあります。
一次検診の目的
大腸がんの一次検診は、通常であれば「便潜血検査化学法」、「便潜血検査免疫法」、「直腸指診」などが代表例として挙げられます。
2005年に発出された「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」によれば、一次検診は対象集団の大腸がんによる死亡率減少という検診目的に合致するとされています。
一方で、「実施することを明らかに推奨する」と明記されたのは、「便潜血検査化学法」、および「便潜血検査免疫法」だけであり、直腸指診の内容そのものは個々のケースで選択されるべきものであると認識されています。
精密検査の目的
大腸がんの検診場面で、「異常あり」という判定を認めた際には、精密検査を受けるように心がけましょう。
大腸がん検診における広く普及している精密検査としては、全大腸内視鏡検査、あるいは全大腸の観察が困難な場合には大腸内視鏡検査と大腸X線検査を併用する、または後述する大腸CT検査が挙げられます。
誤解されやすいのですが、便潜血検査を再度検査することは精密検査には該当しませんので、適切に定められた精密検査を受診するようにしましょう。
便潜血検査
前述したように、大腸がんによる死亡率を減少させると考えられている検診方法のひとつに便潜血検査が挙げられます。
この検査では、2日分に渡って自分の便を検体として採取して、便に血液が混入されているかどうかを検出します。例えば大腸がんなど悪性腫瘍やポリープなどの病変が存在すると大腸内に出血所見を呈することがあり、その血液成分が検出されることで陽性反応が認められます。
便潜血検査の長所と短所
便潜血検査は、便に潜む血液成分があるかどうかを調査する検査であり、いわゆる検便を行う必要があります。
実際に、自分で便の表面をスティックで採取し、保存液に検体を浸した状態で提出することが求められます。
連続する2日分にかけて提出を必要とする検査手段であり、赤血球中のヘモグロビンを便検体から検出できるのが便潜血検査の長所です。
検査自体に強い痛みを伴わずに、時間もあまりかからず、食事制限をする必要もないので、検診する上で負担が少ない点がメリットといえます。
その一方で、早期のがん病変の場合は平坦な所見を呈することが多く見受けられるため、悪性病巣部があっても陰性になる可能性が指摘されています。
また、小腸部分にがん病変部を認める際には、柔らかい便が病変部を通過する際に出血を引き起こさないため本来陽性所見であっても陰性として判定されるケースが稀にあります。
便潜血検査にて微量の血液が混じり陽性と検出されるのは、大腸がんを始めとする悪性疾患のみならず、潰瘍性病変や痔核などでも認められることがあり、実際に陽性と判定されたケースでも、治療の必要性が乏しい病変である可能性も考えられます。
直腸指診
日本人の罹患数・死亡数上位の大腸がんに関する検診で要精密検査となった経験がある方も少なからずいらっしゃると思います。
直腸指診は、消化器内科や外科などの専門医師が指を肛門から直腸内に挿し込み、直腸内のしこりや異常の有無を指の感触で調べる検査であり、肛門から直腸内に指を挿入して、指の感触でしこりや異常の有無を調べます。
直腸指診の検査は数分で終わり、肛門に近い直腸に発生したがんやポリープなどがわかる場合があります。
肛門から指を入れて、直腸にポリープやがんがないかを触って確かめる検査であり、直腸だけでなく、前立腺など、直腸周囲の臓器に異常がないかも調べることができます。
腫瘍マーカー検査
大腸がんは、日本人の罹患数・死亡数ともに上位に位置するがんであり、男女ともに、40代から罹患率が上昇する傾向にありますので、二次検診が重要となります。
二次検査のひとつである、腫瘍マーカー検査は、がんの診断の補助、診断後の経過や治療の効果を評価することを目的に行われます。
腫瘍マーカーとは、がんの種類によって特徴的に作られるタンパク質などの物質です。
主に、がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られますが、腫瘍マーカーの数値変化だけでは、がんの有無やがんが進行しているかどうかは確定できませんし、仮にがんがあっても腫瘍マーカーの数値が高くならない場合も想定されます。
大腸がんでは、手術後の再発や薬物療法の効果判定の補助のために、血液中のCEA、CA19-9と呼ばれる腫瘍マーカーを測定します。
がんが存在すると、血液中の腫瘍マーカーが異常値を示しますが、がんの早期段階で異常値を示すことは現実的には少なく、一般的に進行したがんで異常値になります。
また、進行したがんであっても異常を示さない人も一定の割合で存在し、また正常な人でも少し高めの異常値を示すことがあるので、結果の解釈には注意が必要です。
がんの有無やがんが存在する具体的な部位は、腫瘍マーカーの値だけでは確定できないため、CTやMRIなど他の画像検査などの結果も合わせて、専門医師が総合的に判断します。
大腸内視鏡検査
がん検診の一次部門で陽性と判定されて、精密検査を必要とした場合に、多くのケースで第一選択となるのは全大腸内視鏡検査です。
本検査では、下剤を服用して大腸を食べ物などの食物残渣を残さずに空っぽにした準備を行ったうえで、内視鏡と呼ばれる専用機器を肛門部から挿入し、直腸から盲腸にかけて大腸の全ての部位を観察します。
この検査を通じて、がん病変や良性ポリープなどの病変が認められるか否かを確認することができますし、必要に応じて病変部から組織を採取して病理組織学的検査を実施することで悪性所見かどうかを確定的に診断することができます。
大腸内視鏡検の長所と短所
全大腸内視鏡検査の長所は、病変部を直接的に内視鏡下に観察することができ、モニター画面で病変部を拡大することや画像を強調して閲覧することなどが可能である点です。
さらに、検査中に万が一にも疑わしい病変部を認めた際には、患部の細胞を生検鉗子によって採取して正確な診断をつけることが最大のメリットと考えられます。
一方で、それぞれのケースで腸管の構造などが異なるために検査手技の難易度が多様であり、病変部位や病変が及ぶ範囲などの客観的評価が難しい点が短所として挙げられます。
昨今では、医療機器の開発進化や鎮静剤を使用しながら行う専門医の挿入技術が向上していることなどによって、従来と比べるとかなり苦痛が少ない検査になってきています。
大腸カプセル内視鏡検査
近年になって新たな大腸疾患に対する検査診断の専用機器として「大腸カプセル内視鏡検査」が2014年から保険適用で実施できるようになりました。
一般的によく見る薬のカプセルと類似した形状をした小型カメラ備え付けの内視鏡検査であり、水と共に飲み込まれたあと、腸管内部を自動的に進みながら内蔵カメラで各部位の腸管を写真撮影していくことができます。
大腸内部で実際に撮像された画像写真は、事前に患者さんに貼付されたセンサーを経由して記録装置に転送されて、専門医によってポリープやがん病変の有無などを確認することになります。
大腸カプセル内視鏡検査の長所と短所
通常であれば麻酔も必要なく実施が可能であり、放射線被ばくの心配もありませんので安心して受けることができる点が長所と言えます。
また、内視鏡検査と異なって、鎮静剤を使用する必要が無く、消化管を通過する際の腹部の痛みや違和感などを自覚せずに検査することができるという利点もあります。
ただし、大腸内視鏡検査と同じように、検査前に下剤を服用して大腸をクリーンな状態にしておき、カプセル内視鏡を効率よく進めて排出を促すためにも追加で検査後に下剤を飲む必要があります。
検査時間はおよそ3時間から9時間程度と個々のケースで若干異なり、検査している際中は院内で経過観察のためにとどまっていることが求められます。
ポリープの有無は確認できるものの、内視鏡検査のように同時に切除処置などはできませんし、生検をして確定診断に導くことも基本的にはできないところが欠点となります。
また、腸管に狭窄所見を認める場合などには、検査を受けることができない点も留意しておく必要があるでしょう。
大腸CT検査
大腸CT検査は、内視鏡を利用することなく簡便に大腸がんなどの悪性疾患や良性ポリープなどを発見できる比較的新しい大腸検査法として知られています。
この検査では、肛門部から二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を注入して大腸を拡張させておき、X線で撮影することで得られた大腸における3次元構築画像をもとにして、病変の有無を調査できます。
注入した炭酸ガスは速やかに体内で吸収されますので、検査後に腹部違和感や腹痛を自覚することもほとんど無いとされています。
検査前日には検査食を食べ、検査当日は絶食となります。検査前日と検査当日に下剤を飲んで腸管内をきれいな状態に仕上げて、検査精度をできるだけ高い状況にしておきます。
大腸CT検査の長所と短所
大腸CT検査の長所としては、大腸に直接的に内視鏡を挿入することなく、大腸内部を評価できる点です。
検査自体も短時間で完了しますし、内視鏡検査と比較して前処置や検査そのものの負担が少ないと考えられています。
また、大腸内視鏡検査では検査精度の観点から限界がある腸管が癒着している場合、あるいは腸管が長いケースでも大腸CT検査であれば比較的スムーズに対応可能です。
一方で、短所としては病変部位の組織を採取することができない点です。
仮に、本検査で病変が疑われた際には、大腸内視鏡検査もセットで受診し、それらの病変組織が良性か悪性かの病理組織的な正確診断に繋げる必要があります。
また、平坦を呈する腫瘍性病変、あるいは5mm以下の小さなポリープを検出する点においては、大腸内視鏡検査と比べて劣りますし、多少なりともCT撮影に伴って被曝のリスクがありますので、妊娠中の方は基本的に本検査を受けることができません。
注腸造影検査
注腸造影検査とは、バリウムと空気を肛門から注入し、X線を当てる検査であり、この検査でがんの正確な位置や大きさ、形、腸の狭さの程度などがある程度分かります。
注腸造影検査を実施する前には、正確で安全な検査を行うために腸管内をきれいにする必要があるため、検査を行う前日から検査食や下剤を服用し、当日に多量(通常約2L)の下剤(腸管洗浄液)を服用します。
大腸内視鏡検査と同様、下剤で大腸の中をきれいにしてから、検査を受けます。
注腸造影検査にかかる時間は15分程度であり、がんの位置や大きさ、大腸の状態などをある程度詳しく確かめることができます。
まとめ
これまで大腸がん検診の一次検診と精密検査、各検査方法の長所と短所を中心に解説してきました。
大腸がんは早期的に発見して治療対応すれば治癒が可能な疾患です。心配な人は一度地域の自治体などを通して一次検診を受けるようにしましょう。
一方で、血便や腹痛症状、異常な性状の便、あるいは便回数が変化したなどの症状を認める際には検診ではなく、すぐに消化器内科など専門医療機関を受診することをおすすめします。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。