熱が出ない肺炎の特徴は?高齢者の誤嚥性肺炎や子どもの呼吸器疾患

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肺炎にかかると咳や痰が多く出て、息苦しくて、熱が出るという印象をお持ちの方も多いと思います。

しかし肺炎は必ず熱が出るというわけではありません。特に高齢者や小児にはしばしば熱を伴わない肺炎が見られます。

ここでは熱が出ない肺炎や高齢者の誤嚥性肺炎、肺炎と症状のよく似た呼吸器疾患について解説します。

肺炎で熱が出る仕組み

肺炎というのは、その名の通り肺で炎症が起こる病気です。炎症は体の中でさまざまな原因によって起こる反応のことで、主に体に異物が入ってきたときに起こる防衛反応のことをさします。

では、炎症がおこるとなぜ熱が出るのでしょうか。

発熱のメカニズム

肺炎の場合、間質性肺炎という特殊な肺炎を除くと、ほとんどの場合は口や鼻から気管を通って、肺の中に感染症の原因となる微生物や異物が入ってくることによって起こります。

肺は肺胞という小さな袋がいくつも集まった構造をしていますから、その肺胞の中に微生物や異物が入ってきます。そしてそれらに対して肺胞の中で体の免疫が反応することで炎症が起こります。

炎症は、白血球がその場所に集まってくることから始まります。微生物や異物の侵入を検知すると、肺を構成する細胞のうち一部の細胞は、サイトカインという物質を血液中に放出します。サイトカインはタンパク質の一種で、免疫細胞のスイッチを入れる役割をしています。

サイトカインによって刺激された白血球をはじめとする免疫細胞はその場所に続々と集合します。この時点では異物があるのは血液中ではなく肺胞の中ですから、血液中から肺胞の中に白血球が出てきます。そして、微生物を排除したり、痛んだ組織を修復したりするためにさまざまな反応が起こってきます。これらの反応を全てひっくるめて炎症反応といいます。

そして、これらの細胞の反応は体温よりやや高い温度のもとで最も強くなります。炎症反応が起こったときには、白血球からまた別の種類のサイトカインが血中に放出され、このサイトカインが脳に届くと脳が体の熱を上げるよう指令を出します。この指令によって体の各所で熱が産生され、体温が上昇します。

このメカニズムによって体温が上昇し、より炎症反応が起こりやすくなった結果、微生物や異物に対抗する体の免疫が最大限発揮されるようになるのです。熱が出るとしんどいですが、これは体が免疫力を発揮している証拠なのです。

熱の出ない呼吸器疾患もある

呼吸器疾患といえば、咳、痰、くしゃみ、熱がセットになっているようなイメージですが、実際は熱のない呼吸器疾患も多くあります。

というのは、先ほども説明した通り、熱というのは体の免疫力を最大限発揮して微生物に対抗するための炎症反応を強めるためのものです。ですから、免疫力を最大限発揮しなくてもいい場合や、免疫があまり作用しない場合などには熱は出ません。

しかし、気道内に異物がある場合は、その異物を追い出そうとして咳や痰が出ます。この反射は、気道の内部に何かが触れたと検知されたときに起こりますから、気道が過敏に反応している場合にも起こってきます。このような場合、強い炎症が起こっていなければ熱は出ません。

高齢者の肺炎は熱が出ない?

高齢者の場合、肺炎を起こしても熱が出ないケースが比較的よくみられます。

高齢者は加齢によって免疫反応がやや弱くなっています。そのため、炎症が起こってもあまり熱が上がらない場合もありますし、さらには炎症反応自体が弱っていて反応が起こりにくくなっている場合もあります。

特に誤嚥性肺炎といって、口や食道、胃などの内容物が少しずつ肺の中にたれ込むことで起こってくる肺炎の場合、だんだんとくすぶるように炎症が起こり、熱が出ないのに肺の中に炎症による変化が起こってくることもあります。

また、咳や痰といった肺炎らしい症状も出にくいこともあります。

ですから、高齢者の場合、咳や痰だけで熱がない肺炎や、さらには熱や痰、咳すらほとんど無いのに肺炎が起こっていることもあるのです。

そのような場合、体の中で炎症が起こっているので体力を消耗し、なんとなく元気がない、食欲がない、といった症状が現れます。何かしら異常に気づいたときには医療機関を受診することをおすすめします。

熱は出る?高齢者の誤嚥性肺炎とは

肺炎と聞くと入院して治療すれば改善すると思われがちですが、実は日本人の死亡原因の第四位にも上がっています。また、肺炎で死亡する人の94%は75歳以上で、90歳以上に限ると死亡原因の第二位が肺炎となります。高齢者にとって肺炎とは致命的な病気なのです。

そんな肺炎の中でも誤嚥性肺炎は高齢者の肺炎の70%以上を占めると言われ、注意が必要になります。では、誤嚥性肺炎とはどのようなものなのでしょうか。

誤嚥性肺炎とは

人は食べ物も、空気も同じく鼻や口から体内に取り込みます。鼻や口から入った空気や食物は、のどのところで気管と食道に分かれ、空気は気管に、食物は食道に入るように分かれていきます。

この食物と空気を別々にするための機能を持っているのが喉頭という部分で、食物がしっかりと食道に入り、気道には入らないように様々な工夫がなされています。食物をしっかりと食道に入れる活動のことを嚥下といいます。

しかし加齢に伴って、この嚥下という機能がだんだんと衰えてきます。これを嚥下障害といいます。こうなってくると、舌やのどの動きが悪くなってしまい、本来食道に入るはずの飲食物や唾液などが気管のほうに入ってしまうのです。

このように異物が気管に入り、肺まで至ってしまうと炎症が起こり、肺炎が起こってしまいます。これが誤嚥性肺炎です。

通常、若い人であればこのような誤嚥性肺炎は起こってきません。嚥下がしっかりしていることに加え、万が一誤嚥しても激しい咳をして気管の外に異物を排出しようとします。少量であれば十分に排出しきり、誤嚥性肺炎は起こりません。

しかし高齢者の場合、誤嚥を起こしてしまったときに咳が起こらなかったり、咳を起こしても力が弱く十分に異物を排出できなかったりします。そのため、高齢者は誤嚥を起こしてしまうとあっという間に誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあるのです。

風邪とよく似た誤嚥性肺炎の症状

誤嚥性肺炎の症状は肺炎と同じく、咳や熱、痰、呼吸苦などが挙げられます。しかし前述のように高齢者の場合は咳をする力が弱まっているため、咳が少ししか出ないことも稀ではありません。また発熱も、熱を出すための力が弱まっているために十分に熱が出ないこともあります。

こうなってくると、弱い咳と少しの発熱が見られるだけになりますから、風邪の症状に似てきます。なかなか誤嚥性肺炎と気づかれないこともよくあるのです。

誤嚥性肺炎が疑われる高齢者の様子

誤嚥性肺炎と風邪とを見極めるのは難しいです。それでも、ある程度鑑別のポイントがあります。

まずは食事中にむせ込むことが多い場合、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。むせ込みが多い場合には誤嚥性肺炎かもしれない、と疑うポイントになります。

また誤嚥性肺炎の場合、風邪に比べて全身の消耗が激しいですから、ややぐったりした印象が強くなります。活動性が低下するのも特徴といえるでしょう。のどがゴロゴロなっている場合、何かを誤嚥している可能性が高くなります。

高齢者で熱はないのに咳や痰が出る…COPDとは

COPD(慢性閉塞性肺疾患)はほとんどの場合、長年の喫煙によって引き起こされます。長年にわたって喫煙をすると、肺胞や気道に炎症が起こり続けます。すると肺胞が壊れてしまい酸素を体に取り込むことができなくなってしまったり、息をなかなか吐き出せなくなったりするのです。

気道粘膜自体も変性していますから、分泌物は多くなり、多くの痰が産生されます。

しかし、息を吐き出せないということは、異物を吐き出す力も低下しているということになり、咳をして痰を出そうとしてもなかなか出てこず、咳や痰が出続けます。

また、COPDの場合、病原体を排出する力も落ちており、肺炎が起こりやすい状況です。さらにはCOPDで体力が奪われ、免疫力が低下していますから、肺炎が起こっても熱が出にくいケースが多くなります。

COPDは普段から咳や痰が多いですから、熱が出なければなかなか肺炎と気づかず、見過ごされてしまうことも少なくありません。

熱が出ないこともある子どもの呼吸器疾患

子どもの場合は、肺炎が起こると大抵の場合は発熱します。しかし、発熱をしない肺炎も稀ながらあります。

また、熱がなく長引く咳や痰の症状を呈する病気は、特に小児の場合は多くあります。鑑別としてそれらの疾患も紹介します。

肺炎(マイコプラズマ感染症)

小児の肺炎の多くは細菌性肺炎です。しかし、まれにマイコプラズマ肺炎という肺炎にかかることがあります。

マイコプラズマ肺炎というのは、マイコプラズマという感染性の微生物に感染することで発症する病気です。普通の細菌とは構造も、症状も違い、治療法も異なります。

マイコプラズマ肺炎の特徴は、あまり高い熱は出ないのですが、頑固な咳や痰が長期間にわたって続くことにあります。初期には熱もありますが、熱が引いてからもかなり長い間咳が続き、体力を消耗します。

飛沫感染で他の人にも感染しますから、熱が出ている間は療養に努める必要があります。治療には特殊な抗生物質を用います。

RSウイルス感染症

RSウイルスというウイルスに感染することで引き起こされる感染症です。

RSウイルスは口や鼻から肺までさまざまな場所に感染し、炎症を引き起こします。気道の狭窄を来すため、「ぜーぜー」といった喘鳴を来すのが特徴です。

ウイルスなので抗生物質は効かず、対症療法で治療します。

喉頭炎(クループ)

RSウイルスでも引き起こされますが、他のウイルスの感染症でも起こります。喉頭という、食道と気管を分ける場所に起こる感染症です。

症状としては「ケンケン」というような、苦しそうな乾いた咳が続きます。炎症がひどくなったり、周りに広がったりすると、呼吸苦をきたすこともありますから病院の受診が必要です。

後鼻漏

後鼻漏というのは、鼻から後ろに鼻水などが流れ込むことをいいます。鼻水だけではなく、副鼻腔という頭蓋骨に空いている穴にたまった膿が流れ込むこともあります。

後鼻漏が流れ込むと、時折気管の方にも流れ込んでしまいます。それを吐き出そうとして、咳や痰が出るようになります。

後鼻漏は治療をしなければなかなか収まらず、咳や痰もなかなか収まりません。

気管支炎

気管支炎はその名のとおり、気管支に起こる炎症です。さまざまなウイルスや細菌で引き起こされます。

普通の風邪と違い、鼻水はあまりなく、咳や痰が多く出るのが特徴です。原因によって治療は異なりますが、基本的には対症療法となります。

喘息

喘息は、一種のアレルギー反応です。気道粘膜は異物が付着すると咳や痰で追い出そうとします。しかし喘息患者の気管支は、非常に敏感になっています。そのため、花粉やPM2.5など、普通では反応しないぐらい微小な物質が粘膜に付着しただけでも反応して咳や痰が出ます。

また、アレルギー反応の結果、気道粘膜から粘液が分泌されて痰が増えたり、炎症が起こることによって粘膜が変性して気道が狭窄したりします。

早く治療を開始しないと気道粘膜の変性が永続的となってしまいますから、早いうちに治療を開始する必要があります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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