下痢を出し切る方法はある? 急な下痢のよくある原因と対処法

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急に下痢になると慌ててしまいますよね。何度もトイレに行かなくて済むように、下痢を出し切ってしまいたいと思われる方もいることでしょう。それは可能なのでしょうか?

ここでは下痢の種類やよくある原因について確認し、下痢のときの適切な対処法について解説します。

下痢の種類

下痢の分類にはさまざまなものがあります。大きく分けると、発症機序による分類、あるいは発症してからの罹病期間による分類があります。

浸透圧性下痢

下痢の種類の一つに浸透圧性下痢があります。このタイプは、腸管からの水分吸収が妨げられて下痢症状を引き起こします。

人工甘味料など摂取した食べ物の浸透圧が高くて、小腸などで水分が吸収されにくいことが直接的な原因です。

浸透圧の高い食べ物以外にも薬剤が原因で腸管内の浸透圧が上昇して、水分と電解質の相互バランスが崩れて下痢が引き起こされます。

代表的な食べ物としては、一部の豆類、果物や濃いジュース、砂糖の代替品などが挙げられます。

また、乳糖を分解する酵素であるラクターゼが欠乏している乳糖不耐症の場合には、乳製品を取り入れると乳糖が胃腸でじゅうぶんに消化されず、下痢症状が引き起こされます。

それ以外にも、抗生物質や鉄剤などを服薬すると腸内の正常な細菌叢が乱れて、下痢症状を呈することがあり、誘引物質を除去すると症状が次第に改善していくことが知られています。

分泌性下痢

分泌性下痢とは、細菌毒素やホルモンの影響などによって腸管からの水分の分泌量が増える状態を指します。

コレラ菌や腸管出血性大腸菌などの細菌が有する毒素が腸管内で取り込まれると、セロトニンと呼ばれるホルモンが自然と放出されて、小腸と大腸から便内容物として過剰に水分と塩分が分泌されて下痢が引き起こされます。

ウイルスや細菌の毒素以外にも、ヒマシ油などの下剤や胆汁酸の影響などによって下痢症状が起こりますし、WDHA症候群、ガストリノーマなどホルモン分泌産生腫瘍などでも大量の下痢便が認められやすくなります。

蠕動運動性下痢

蠕動運動性下痢と呼ばれるタイプは、過敏性腸症候群や甲状腺機能亢進症などに伴って下痢症状が起こる状態です。

腸管は伸び縮みしながら水分を吸収し、ゆっくりと肛門部まで便内容物を送る蠕動運動を日常的におこなっていますが、こうした蠕動運動機能が低下し、大腸が速く通過すると排泄物が固まらずに水様の性状に変化してしまいます。

また、蠕動運動が妨げられると、腸管内に増殖した腸内細菌が悪影響を及ぼして下痢症状を引き起こすことが考えられます。

暴飲暴食やストレスなどに伴う自律神経の変調は下痢症状につながります。また、緩下剤やマグネシウムを含むサプリメントの過剰な使用によって下痢が発症することもあります。

滲出性下痢

クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に伴う身体の炎症によって水分がしみ出して下痢を起こすタイプを滲出性下痢と呼びます。

腸管粘膜に炎症や潰瘍性病変があると、腸管からの水分吸収能力が低下して、便の量と水分が増加することによって下痢症状を引き起こします。

このタイプを引き起こす要因としては、炎症性腸疾患以外にも腸結核、虚血性腸炎、細菌性腸炎やウイルス性腸炎、放射線性腸炎などが挙げられます。

特に、腸管の中でも直腸粘膜に炎症が引き起こされると、便内容物による直接的な刺激で、より排便回数が多くなり、症状に伴う苦痛が助長されます。

急な下痢のよくある原因

腹痛を訴える女性

急な下痢の原因として多いのが細菌やウイルスによる胃腸炎です。ほかにも食べ過ぎ、飲みすぎ、ストレスなどによっても下痢になります。

細菌やウイルス

胃腸炎は原因となる細菌やウイルスなどの病原体が多岐に渡り、例えばロタウイルスの場合は便が白っぽく変化するなど、病原体によって症状の現れ方が異なります。

胃腸炎における典型的な症状としては、嘔気や嘔吐、下痢などといった消化器に関連したものが多く、下痢や嘔吐症状に伴って体内の水分が喪失して、食欲低下から十分に水分を摂取できずに脱水状態が進行し、倦怠感などの症状が見受けられます。

胃腸炎を予防する方法としては、徹底した手洗い、次亜塩素酸ナトリウムによる環境の消毒、嘔吐物や排泄物の処理の際のゴム手袋着用、食事の充分な加熱などが挙げられます。

冷たい飲み物やアルコールの飲みすぎ

冷たい飲み物やアルコール類を飲みすぎると腹痛を伴う下痢になることがあります。

食べ物や飲み物を過剰に摂取すると水分の摂り過ぎや消化不良によって腸が刺激され、腸の動きや便の水分量などに異常が起こるため下痢症状が起こります。

過剰なアルコール摂取も腸の機能を低下させるため、お酒を飲んだ後に下痢になることがあります。

予防のためには、飲み会などでの暴飲暴食を控え、十分な睡眠、休息をとることが重要です。 

ストレスや緊張

腹痛を伴う下痢は、ストレスが原因の場合もあります。

腸のはたらきは自律神経によってコントロールされており、ストレスが溜まって自律神経が乱れることにより、腸の機能に異常が起きて下痢や便秘、腹痛などの不調が起こることがあります。

日々の生活のなかで緊張を感じて不安になることがあると、腸全体の働きが影響を受け、下痢などの症状が出現することがあります。

腸の蠕動運動は自律神経によって制御されており、口から入った食べ物は胃を通って小腸、大腸と通過しながら消化、吸収された後に残った残渣物が、腸の蠕動によって直腸に運搬されて便意が起こるという流れになっています。

多大なストレスや過度の緊張などに伴って自律神経のバランスが崩れて、腸の動きが過剰に亢進すると、便内容物が腸管を通過するスピードが速くなり、水分の吸収が不十分になることによって下痢症状を引き起こすと考えられています。

お腹の冷え

腹痛を伴う下痢は、「お腹の冷え」によって起こる場合があります。

ひとくちに「冷え」といっても、一時的に冷たい飲食物を摂取するなどしてお腹が冷える「急性の冷え」、あるいは体質や生活習慣に伴う症状として長期間持続する「慢性の冷え」があり、それぞれで原因が異なります。

お腹が冷えることによって、胃腸の血流が徐々に悪くなり、胃腸の機能が弱まって、下痢や腹痛といった症状が起きますので、短期的な対策から長期的な改善まで必要となります。

下痢を止める方法

激しい下痢が認められる場合は、食事内容として重湯、野菜スープ、薄い濃度のみそ汁など、やわらかくて胃腸にとって刺激の少ないものを少量ずつ摂取するように心がけましょう。

徐々に腸管の調子が回復してきた段階で、おかゆ、うどん、じゃがいもなどやわらかく煮た野菜、白身魚、とうふ、りんごなどを取り入れて体調改善に努めることが大切です。

下痢が数日程度続いたら、市販薬の下痢止めを使用して腹部症状が改善する場合もあるでしょう。

ただし、基本的には腸炎など感染症に伴う下痢症状の際には、下痢止めを過剰に使用すると、体内に存在する細菌やウイルスをじゅうぶんに排出できなくなる危険性が懸念されますので、無理矢理下痢を止めないように心がけましょう。

下痢の対処法についてのよくある疑問

ここからは下痢の対処法に関するよくある疑問点に回答していきます。

トイレは我慢しない方がいい?

下痢のときに便内容物を排泄するのは身体の重要な機能です。あまりトイレを我慢ばかりしていると、腸管内に潜む毒素の強い細菌や悪玉腸内細菌が増殖して、身体に悪影響を及ぼしますので、便意を催した際にはトイレに行くようにしましょう。

下痢を出し切る方法はある?

下痢をしている場合には、無理にすべて排泄しようとせずにできるだけ安静にして生活しましょう。

下痢を早く出し切る方法は実際にはなくて、早く症状を改善させるためには「腹部を冷やさずに腹巻やカイロなどで温める」、「できる限り安静を保つ」の2点を実行してください。

また、症状が長引く、あるいは悪化傾向を認める際には医療機関を受診して原因を突き止め、適切に治療することが重要です。

下痢によって体内の水分量が大幅に失われるため、脱水症状にならないように日常的に水分や消化の良い食べ物などを少しずつ摂るように努めましょう。

下痢止めを使わない方がよいこともある?

早く下痢症状を治癒させようとして無理に下痢止めを乱用すると、下痢の直接的な要因となっているウイルスや細菌が腸管内にとどまり、むしろ腹部症状が悪化する危険性があります。

腸管の蠕動運動を抑制する成分が入っている「ストッパ」や「トメダインコーワ」などの市販薬は、腸炎など感染症が疑われる場合には使用をできるだけ控えるようにしましょう。

下痢止めを使うかどうか迷った際には医療機関や薬局の薬剤師などに尋ねましょう。

急に下痢をしたときの基本的な対処法は?

急性の下痢症状の多くは普段の生活習慣の不規則から起こると考えられており、特別な治療を実施しなくても自然と状態が改善することがあります。

下痢を認める際には、アルコールや香辛料など刺激物の摂取を中止して、暴飲暴食を避け、腹部を温めて安静に過ごしてください。

下痢症状がひどい際には、水分が身体から大量に喪失されてしまうことから脱水状態を起こしやすいと考えられますので、水分の摂取は非常に重要です。

病院を受診した方がよい場合とは?

急性下痢を起こす要因としては、胃腸病変などの場合もありますが、ほとんどはアルコールや刺激物の取り過ぎなど日常生活における食生活などに基づきます。

稀に、重大な病変が隠れている、あるいは急を要する疾患に下痢症状が伴うことも想定されるため、これまで経験したことがないような激しい下痢症状があれば一度医療機関を受診することをお勧めします。

他にも医療機関の受診が望ましいケースとしては、下痢症状が増悪傾向である、血便が同時に認められる、下痢以外にも発熱や嘔吐症状が認められる、ひどい脱水症状がある場合などが挙げられます。

まとめ

これまで下痢の種類と止める方法、よくある疑問などを中心に解説してきました。

下痢を薬でピタッと止めると悪玉菌やウイルス、細菌などが腸管内部で増殖して、症状を長期化させてさらに悪化させる懸念材料にもなります。

基本的に下痢止めは過剰に内服しないほうがよく、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を増加させて悪玉菌を排除することが推奨されます。

また、激しい下痢を認める、血が混じった便が出る、発熱症状を合併している、水分補給ができずに脱水症状を起こしている場合には、医療機関を受診して精査加療を受ける必要性が高いと考えられます。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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