ふくらはぎの内出血なぜ?血友病・壊血病・下肢静脈瘤などの原因

お悩み

ふとふくらはぎを見たときにあざがあるのに気づいたことはありませんか。ぶつけたこともないのにあざができている場合は心配ですよね。

たいていの場合はぶつけたのにそれを覚えていないだけですが、ときどき本当にぶつけてもいないのにあざができている事があります。ここではあざの原因について詳しく解説します。

内出血と外出血

先ずは内出血と外出血という言葉についてまとめておきましょう。

そもそも出血というのは、血管が破れて血管の外に血液が出ること全てをさします。そのなかでも、血液が皮膚や粘膜を通過して外界に出血することを外出血、外界ではなく皮下組織やその他の体内に出血することを内出血といいます。

注意していただきたいのは、体の中、外という表現です。ここでいう体の中、外というのは体表上から見えるかどうかということで分けられるものではありません。

例えば消化管は体の中にあるように見えますが、消化管の内側の食物や便が通過する場所は細菌などの異物がたくさん存在し、体にとっては外界と同じとなります。

消化、吸収というのは消化管の中で異物を分解して、粘膜や腸管の壁を通して栄養素だけを体の中に取り込む作業になります。

消化管の中や膀胱の中というのは体の外になりますから、消化管出血や膀胱の出血などは外出血という事になります。そのままにしておくと体の外に出てくることがある出血が外出血といえるかもしれません。

逆に内出血は体の外には出てきませんから、広がったり微妙に移動したりすることはあっても、基本的にはその場にとどまります。

これが内出血と外出血の違いです。

「あざ」の原因になる内出血

「あざ」の原因になる内出血にはどのような種類があるのでしょうか。出血する場所によって名前が変わりますので最初に皮膚の解剖について整理しておきましょう。

皮膚の解剖

皮膚は表皮、真皮、皮下組織という三層構造をしています。それぞれの層について解説しましょう。

表皮

表皮は非常に密な組織で、毛細血管は間に全く通っていません。皮膚を包丁で切ってしまったときに出血が全く無いという経験もあると思いますが、それは表皮層のみを切った場合におこる現象です。毛細血管がないため、切っても出血が起こらないのです。

また、表皮は深い層で細胞分裂をし、分裂を続けるに従って表層に移動してきます。そして最表層に移動した細胞は、だんだんと劣化し、落ちてしまいます。髪の毛のふけなどはこのようにして落ちていく表皮細胞なのです。

真皮

真皮は表皮の下にある層です。この層には毛細血管が通っているほか、痛みを感じるセンサー、汗腺など、皮膚の機能を司るさまざまな組織が存在します。それぞれの組織と組織の間は非常に密な組織で満たされています。

蚊に刺されたときに皮膚に膨疹ができた経験は誰しもがあると思いますが、あれは真皮に液体が貯留した状態です。密な組織の中に液体が貯留しますから限定的な部分に境界が明瞭なすこし固めにふれる状態となります。毛細血管が通っているため、皮膚を切って真皮層まで傷が至ると出血します。

一方で、密な組織なので真皮層内で毛細血管が切れても周りに出血することはほとんど無く、表面から見てもほとんど出血が見えません。

皮下組織

皮下組織は真皮層の下にある層です。脂肪や線維組織など、やや疎な組織でできています。

疎な組織なので、ここに液体がたまると周りによく広がります。ワクチンを皮下に注射したときの事を思い出して下さい。周りも腫れることがあると思いますが、蚊に刺された真皮層の液体貯留と違い、境界がはっきりせず、塊として触れない腫れ方をすると思います。これが皮下の液体貯留の特徴です。

皮下出血

皮下出血は、皮下組織に血液が出血することをいいます。前述の通り、皮下は比較的疎な組織なので、血管壁に損傷があり血液が漏れ出すと、広い範囲に広がります。境界はあるにはありますが、明瞭ではありません。これがいわゆる「あざ」の特徴となります。

また、皮下組織がまばらで広がりやすいですから、大きい皮下血腫だとしばらく様子を見ていると場所が移動していったり、だんだんと広がっていきながら薄くなっていったりする様子が見られることもあります。

このような皮下血腫の特徴は、皮下組織が脆弱になる老年期によく起こります。老年期は血管も脆弱で、クッションとなる皮下脂肪も少なくなることが多いですから、皮下血腫がおこりやすい年齢ともなっています。

筋肉内出血

筋肉内出血は、文字通り筋肉の中で出血することです。筋肉内出血でできる血の塊のことを筋肉内血腫といいます。筋肉の中にも血管が走行していますが、その血管がダメージを受けて壁が壊れることで出血します。

筋肉を打撲したときのほか、激しく筋肉を動かしたときにも筋肉内血腫はおこってきます。筋肉内血腫は体表上から見る事はほとんどできませんが、該当する筋肉を動かしたときに痛みを感じます。

血腫は自然に吸収されますから、その間は激しい運動を避け、問題の筋肉をあまり動かさないようにすることが求められます。

紫斑病

紫斑病というのは、血を固まらせる成分の一種である血小板が異常に少なくなってしまうか、機能が異常に落ちてしまうかによって起こってくる病気です。皮下出血が多く出現し、紫色のあざがたくさんできることから紫斑病という名前がつきます。紫斑自体はあざですから、どのような人にも起こりえます。

しかしそのような紫斑が同時にたくさんの場所にできたり、紫斑がどんどん広がったりする事は異常といえます。このようなときには、血管からの出血がなかなか止まらないという事を示唆しますので、紫斑病を疑って検査をします。

紫斑病と呼んでいますが、その原因はさまざまあります。まず、血小板に原因のある紫斑病は血小板性紫斑病と呼ばれ、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が代表的です。これは、血小板に対して免疫が異常に反応してしまい、免疫が血小板を破壊してしまうことによって起こります。

これ以外に血小板が減少したり、血小板の機能が低下したりすることで紫斑をおこす病気としては、急性白血病や本態性血小板血症(ET)、再生不良性貧血、溶血性尿毒症症候群(HUS)などがあります。

一方で、血小板には異常が無いのに血管が弱いことで血管が容易に破綻し、紫斑ができる場合があります。このような紫斑病は血管性紫斑病と呼ばれ、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病がよく知られています。

それぞれ治療をしなければ重篤な出血に至る可能性がありますから、異常にあざが多い場合には病院を受診しましょう。

ビタミンC欠乏症による壊血病

内出血を起こす病気のひとつに壊血病があります。壊血病はビタミンCが欠乏することによって起こってくる病気です。どのような特徴があるのでしょうか。

船員の命を奪った壊血病

壊血病という名前は、船員達が長期間の航海をしているうちに身体の各部位から出血してくることから名付けられました。長らく原因が分からず船員を怖がらせていましたが、ある時に壊血病の発症予防目的にレモンやオレンジ、ライムなどの柑橘類を摂取するよう推奨され、またラム酒にライムを入れて飲むことにより、壊血病の発症が抑えられるようになりました。

1747年には柑橘類が壊血病を治療するすることを証明するために、壊血病になった人に柑橘類を与えて壊血病が治るかどうかの実験が行われました。ただし、この時点ではビタミンCと言う物質は確定しておらず、あくまで柑橘類が良いと考えられるにとどまっていました。

現在では壊血病の原因はビタミンCが不足していることによるものであると確定しています。ビタミンCは新鮮な野菜や果物などに多く含まれ、反対に保存食などには欠乏している場合が多くなります。そのため、期間保存食のみを摂取するような船員の間でビタミンCが欠乏しやすく、壊血病が起こりやすくなってくるのです。

壊血病の症状の特徴

ビタミンCは、身体の酸化を防ぐ物質です。ビタミンC自体は酸化されやすく、自分自身が酸化されることによってほかの物質を還元させ、酸化を防ぎます。これによって、身体の中で様々な酵素反応に必要な金属イオンを還元し、酵素反応を助けます。

例えば、皮膚や骨、血管に多く含まれるコラーゲン繊維の構築に必要です。コラーゲンは身体の様々な原材料となる物質ですので、これらが作られないとだんだんと身体全体の機能構造を保つことができなくなってしまいます。

このように重要なコラーゲンが十分に作られないと、身体のなかで様々な症状が起こってきます。例えば、全身の倦怠感、疲労感、食欲不振といった症状が出てきます。それに引き続いて身体の各部分の出血といった壊血病の症状が出てきます。歯肉が腫れたり出血したり、関節痛が起こったり、キズが治りにくくなったり、毛髪に異常が出てきたりもします。

さらに近年指摘されているのは、ビタミンC不足による老化の促進です。ビタミンCが不足したマウスでは平均寿命が約4分の1にまで短縮してしまうという報告もあります。また、ビタミンCが不足したマウスは若い頃から難聴や白内障など、老化に伴う症状が起こってくることも分かりました。老化を防ぐためにもビタミンCの不足は避けなければなりません。

必要量はどれくらい?ビタミンC不足に注意

人の身体の中ではビタミンCを作ることができないため、食品から摂取する必要があります。成人では1日の推奨量が100mgとされています。日本人のビタミンCの平均摂取量は93.5mgであり、やや不足しているといえます。

ビタミンCは果実や野菜、芋およびデンプン類などに含まれています。バランスの良い食事を心がけていれば不足の心配はありません。

野菜ジュースやサプリメントの場合は排泄までの時間が短いため、通常の食事からの摂取の方が良いとされています。

内出血を起こしやすい血友病

内出血を起こしやすい病気というものがあります。

実は、人の体の中では内出血は常におこっています。しかし血液中には多数の血液を固まらせる成分が存在し、少しだけの出血であればすぐに止血してしまい、体表から見て分かるような内出血や、体の中で血腫を形成するような内出血はほとんど起こっていないのです。

しかし種々の病気で血液を固まらせる成分が生まれつき、あるいは後天的に量が少なくなったり、能力が異常に低かったりすると、内出血を起こしやすくなります。血液を凝固させる成分は非常に多種ありますから、それぞれの欠失を起こす病気があり、さまざまな病気で内出血は起こりやすくなります。

その中でも有名なのが血友病です。血友病は第VIII因子と呼ばれる凝固因子が欠乏する血友病Aと、IX因子と呼ばれる凝固因子が欠乏する血友病Bに分かれます。いずれも凝固機能が低下しますから、内出血を来します。年齢によって内出血のタイプはやや異なり、乳児の頃は皮下出血や頭蓋内出血などが多くなります。大きくなると関節内血腫や筋肉ない血腫が多くなります。

血友病は遺伝病ですので、家族に同じような症状の人がいる場合にはこの病気の可能性が高くなります。遺伝の形式は伴性劣性遺伝といい、体の中の遺伝子に病気を持っていないX染色体がなかったら病気を発症する遺伝形式になります。

どういうことかというと、男性の場合はX染色体とY染色体を持っています。そのため、病気の原因となるX遺伝子を親からもらうと、病気のないX染色体をもらっていないことになりますから、病気を必ず発症します。

一方で、女性の場合はX染色体が2種類、それぞれの両親から受け継いでいます。そのため、両方の親から異常なX染色体を受け継がない限り、片方の染色体は正常なX染色体になりますから、病気を発症しません。両方の親から異常なX染色体を受け継いだときのみ発症します。

つまり、確率的に言えば男性に圧倒的に多い病気という事になります。

ふくらはぎの「あざ」のように見える下肢静脈瘤

もう一つ、「あざ」ではありませんが、「あざ」のように見える病気について紹介しましょう。下肢静脈瘤という病気です。

もともと血液は動脈で送られ、静脈で心臓に帰ってきます。動脈の血液は心臓の拍出によって送り出されますが、静脈での血流は重力で心臓に戻るか、もしくは筋肉を動かすことで静脈が圧迫されることでポンプのように血液が送られることによって心臓に戻ってきます。

しかし特に足の静脈は重力の力を利用して流れることができないので、うっ滞しやすくなります。そうすると、足の静脈に血液が溜まって拡張したり、蛇行したりします。これが下肢静脈瘤です。

症状としては血管の怒張だけではなく、足がだるくなったり、かゆみやむくみ、こむら返りなどを感じたりします。また、放置すると皮膚の血流が悪くなり、皮膚が壊死して潰瘍になってしまうこともあります。

弾性ストッキングをはいて静脈の流れを助けたり、足をしっかり動かすことで静脈の流れを助けたりすることで静脈瘤を予防したり症状の進行を抑えたりすることができます。

何かおかしいと思ったら、血管外科や形成外科を受診しましょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

プロフィール

関連記事