感情失禁とは?適応障害や認知症などの原因と特徴について解説

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感情失禁という言葉を聞いたことがありますか? 言葉の通り感情が失禁してしまうことを指します。感情の調節がうまくいかず、泣いたり笑ったり怒ったりといった感情が過度に出てしまい、自身でも感情を上手にコントロールできない状態のことです。

ここでは感情失禁とはどういったものか、またそれに対する対処法について詳しく見ていきましょう。

感情失禁の特徴

感情失禁のある人に起きやすい症状について見ていきましょう。

感情がコロコロ変わる

感情が不安定な症状は、感情失禁の人に出やすいといわれています。少し感情を刺激されただけですぐに怒ったり、急に泣いたり笑ったりする、ちょっとしたことで感情がコロコロ変わる、急に無表情になるといった形で、感情が変わっていきます。

状況と感情が合っていない

感情失禁のある人は、TPOにそぐわないような感情が出てしまうことも特徴となります。家族や友人と楽しく遊んでいる際にいきなり怒り出したり、泣き出したりしてしまうといったことなどが挙げられます。

自分の気持ちと異なる感情を示す

本人が抱いている気持ちとは異なる感情が表に出てしまうことも挙げられます。嬉しく感じているのに怒ってしまう、内心では怒っているのに笑ってしまう、悲しくもないのに涙が出てきてしまうなどの症状があります。

感情失禁の原因

このような感情失禁を引き起こす原因にはどのようなものがあるのか詳しく見ていきましょう。

脳卒中

脳梗塞やくも膜下出血、脳出血などの脳卒中を引き起こした後に著しい感情の不安定さが生じることがあります。

大脳皮質の片側だけの病変でも起こり、特に右半球が多いとされています。しかし、最も多いのは両側の多発性脳障害によるものです。これは脳幹にある縫線核といわれる部位から大脳半球へセロトニン作動性の繊維が障害されることが原因とされています。

認知症

認知症の中でも感情失禁を引き起こしやすいものとして、血管性認知症があります。血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血などの脳卒中が原因となって生じる認知症のことを指します。

血管性認知症の症状としては、物忘れの状態となる「記憶障害」、人や時間、場所の認識ができなくなる「見当識障害」、物事を計画的にこなせなくなる「遂行機能障害」などが挙げられます。

このようにさまざまな症状が表れますが、それらの症状とともに脳の血流が悪くなることで、感情のコントロールがうまくいかない感情失禁がみられます。また、この血管性認知症は、1日のうちでもその時の体調によってできること・できないことの差が大きくなる、まだら認知も特徴です。

脳の外傷

交通事故や転落による脳損傷などの外傷によっても感情失禁を引き起こすことがあります。同様に縫線核といわれる部位から大脳半球へセロトニン作動性の繊維が障害されることによって生じると考えられます。

適応障害

適応障害とは、日常生活を送る中で起こった出来事や環境の変化などにうまく対応することができず、ストレスが原因となることで精神的症状、身体的症状、行動的症状などの症状が出現し、社会生活に支障をきたすような状態のことを指します。

この精神的症状としては、抑うつ気分、不安、意欲低下、集中困難、イライラ感などが挙げられますが、その中の一つとして感情失禁があります。

感情失禁への対処法は?

感情失禁がみられた際にどのように対処したらよいのでしょうか? ここでは感情失禁のある人と上手に向き合うための対処法を説明いたします。

感情失禁について深く理解しよう

そもそも感情失禁とはどのような症状が出るのか。このことについて周囲の人がしっかりと理解しておくことが必要となってきます。そうすることで突然怒鳴ったり、食事中に泣き出す、笑い出すなどといった感情失禁の場面に直面した時に落ち着いて対処できるようになります。

感情失禁が起こるタイミングを理解する

感情失禁はいつ起こるかわかりません。しかし、あいさつや食事など特定のきっかけが存在することもあります。そのようなタイミングを理解することも大切となってきます。

しかし、このようなタイミングを理解することは非常に難しいため、自分ひとりだけでなく、家族や親戚、病院、介護スタッフなどと情報共有して見つけていきましょう。

冷静に対応する

感情失禁は、本人の感情とは関係なく引き起こされます。そのような場面に直面したときに、同じように怒ったり笑ったりしてしまうと、本人はより混乱して、さらに興奮してしまいます。

感情失禁のある人が怒るタイミングでないときに怒っていたら、落ち着いて今は怒るタイミングではないことを説明して日常会話を続けていきましょう。冷静に対処していけば、感情失禁を起こしている人も次第に落ち着くことが多いといわれています。

認知症の人と信頼関係を築く

認知症の人との信頼関係を築くことが重要です。自身でもうまくできないことは自覚しており、信頼関係を築いていないと、ちょっとしたことで感情失禁へとつながってしまうことがあります。そのため、認知症の人の気持ちに寄り添って信頼関係を築き、助けを求められるようになることが大切です。

いかがでしたでしょうか。感情失禁の場面に直面したら、動揺するのではなく落ち着いて気持ちに寄り添うことが必要となってきます。もし、感情失禁で悩みなどがある際は、精神科などで相談してみることをおすすめします。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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