寝る姿勢に注意!胸郭出口症候群になりやすい人の特徴とチェック方法
胸郭出口症候群という病気をご存じでしょうか。診断を受けてどのような病気なのか気になってこのページを読んでいる方もいらっしゃることと思います。ここでは胸郭出口症候群の特徴や、なりやすい人、チェック方法、予防法などについて解説します。
目次
重要な臓器を守る胸郭
胸郭出口症候群について説明する前に、まず胸郭について確認しておきましょう。
胸郭というのは胸のことです。細かく見ていくと、上は鎖骨で蓋をされていて、前と横は肋骨に囲まれ、後ろは背骨、底の部分は横隔膜によって囲まれている領域のことを胸郭といいます。
胸の中には肺と心臓、食道、そして大動脈などの非常に重要な臓器が含まれています。触ってみても分かるように、それらの重要な臓器を守るため、胸郭は非常に頑丈な作りになっており、ちょっとやそっとの力ではゆがむこともありません。
そのような胸郭から、神経や血管は穴を通して出てきます。例えば、食道や大動脈は横隔膜に空いた穴からお腹の方に出て行きます。
一方で、気管や食道、動脈など、頭や腕に向かう構造物は、首の辺りから胸郭の外へと出ます。
胸郭出口とは
この中でも、特に腕に向かう鎖骨下動脈、鎖骨下静脈、そして脊髄から出た神経は、鎖骨と第一肋骨の間にある隙間から出てきます。
この隙間のことを特別に「胸郭出口」と呼ぶのです。胸郭出口の隙間は骨と骨だけで決められているのではなく、周りには筋肉もたくさんありますから、骨と骨の隙間を筋肉が埋め、さらにその隙間を神経と血管が通り過ぎていることになります。
ですので、筋肉を動かしたり、骨の中でも特に鎖骨を動かしたりしたときには胸郭出口が狭くなってしまい、神経や動静脈が圧迫されてしまうのです。これによって起こる症状を胸郭出口症候群といいます。
胸郭出口症候群の症状
胸郭出口症候群では胸郭出口を通過する神経と、動静脈が圧迫されますからそれぞれの圧迫症状が出現します。とくに神経の方が少しの圧迫でも症状が出やすく、また動静脈よりも狭い部分を通過するため、胸郭出口症候群の症状といえばまずは神経の症状といえます。約9割の人が神経症状を呈します。
神経症状は肩や上肢の疼痛や痺れ、脱力などが見られます。しびれは神経が圧迫された痛みですから、市販の痛み止めはあまり効きません。
動静脈の圧迫症状としては、動脈が圧迫されて血流が悪くなることで指先が冷たくなったり、脈拍が弱くなったりします。他には血流が悪いことによる痛みも感じます。
静脈が圧迫された場合には、チアノーゼといって指の色が悪くなったり、浮腫といってむくみが見られたりします。
胸郭出口症候群になりやすい人
胸郭出口症候群が起こりやすいのは、やはり胸郭出口が狭い人になります。とくに起こりやすいのはなで肩の若い女性と言われています。
なで肩の若い女性がなりやすい理由
なで肩の方は鎖骨が下方に下がっているためになで肩になっています。鎖骨と肋骨に挟まれた空間が胸郭出口ですから、鎖骨が下がっているとそれだけ胸郭出口は狭くなってしまいます。
若い女性の場合は胸郭の骨の構造が胸郭出口症候群を起こしやすいような構造をしているため、他の年代や男性に比べて起こりやすいといわれています。
もともと胸郭出口が狭い人はもちろん、胸郭出口が広い人でも、鎖骨骨折をしたり、長い間手を下げたまま活動をしたりした場合も、鎖骨が下がってしまうことで胸郭出口が狭くなってしまい胸郭出口症候群を引き起こします。
なで肩の女性は元々狭いから胸郭出口症候群を起こしやすいというだけで、それ以外の人でも胸郭出口が狭くなるような活動をすれば胸郭出口症候群を起こしうると考えましょう。
鎖骨が下に引っ張られるとなりやすい理由
手を下げた状態で長時間作業をすると症状が起こりやすいのは、鎖骨の作用が関わっています。鎖骨は肩甲骨と胸骨を繋いでいる骨です。肩を下げると肩甲骨が下方に動かされますから、鎖骨も引っ張られて下の方に下がってしまいます。
そして胸骨と鎖骨の間は頑丈につながっていますから、引っ張られた分無理に押し下げられ、胸郭出口の部分がぐっと狭くなってしまうのです。
スマホの使い過ぎも影響?
急激に胸郭出口が非常に狭くなってしまうと急激な痛みを感じることがありますが、多くの場合じわじわと神経が圧迫されるため、だんだんと神経の損傷が進み、いつの間にか症状が出現してきます。
近年では、スマートホンの使用によって胸郭出口症候群が起こる場合が増えてきています。スマートホンを使っているときは、気づかないうちに手を低い位置にもっていき、肩甲骨が下がり、鎖骨が下がってしまっています。
さらに、スマホの画面を見るときの首を前屈した姿勢も良くありません。首を前屈させることで鎖骨が下がりやすくなりますから、より胸郭出口が狭くなってしまうのです。
スマホを使いすぎた日の翌日などに痺れを自覚したことは無いでしょうか。そのような場合は、胸郭出口症候群の可能性があります。
胸郭出口症候群のタイプ
胸郭出口症候群についてさらに詳しく知るために、タイプの違いを見ておきましょう。胸郭出口症候群には主に3つのタイプがあります。
圧迫タイプ
胸郭出口は鎖骨か動脈、鎖骨下静脈、脊髄から出た神経が通る隙間の事で、鎖骨と第一肋骨の間にある隙間の事でした。圧迫タイプはこの隙間を通る神経が、骨と骨に挟まれて圧迫される事で症状が起こってくるタイプです。
では、そもそもどのような条件の時にこの胸郭出口は狭くなるのでしょうか。鎖骨と第一肋骨それぞれで動きを考えて見ましょう。
鎖骨は胸骨と肩甲骨の間にある骨です。がっちりと固定されているのではなく、それぞれ胸骨や肩甲骨との間に関節をもって、ある程度自由に動けるようになっています。手を動かすとそれに合わせて鎖骨は動きます。
一方で、第一肋骨は胸部の外側をぐるりと回りながら脊椎と胸骨を繋ぐ構造になっています。呼吸に合わせて動けるようにこちらもがっちりと固定されるわけではなく、柔軟に動けるようになっています。しかし、動くといっても呼吸に合わせて動いているだけで、大きく上下に動くことはありません。
となると、鎖骨の動きに合わせて胸郭出口の広さが変わってくることになります。鎖骨が最も第一肋骨に近づくのは、手を上に挙げたときになります。そのため、圧迫タイプの人は手を挙げて作業を行う場合に症状が出てくることが多くなります。
手を挙げた状態で仕事を続ける電気工事の職種の人や、野球のピッチャーのようにボールを投げるスポーツをする人などは圧迫タイプが多くなります。
治療はリハビリテーションが主ですが、手術が行われる場合もあります。
牽引タイプ
牽引タイプは、神経が引っ張られることによって症状が起こってくるものです。手を伸ばすと症状が出ることもありますが、多いのはなで肩によって手がだらんと下に引っ張られる場合に症状が起こってきます。
手を下げていてもしびれやだるさなどの症状が出てくる場合には牽引タイプの要素があると考えられます。
基本的にはリハビリテーション以外の治療法はありません。
混合タイプ
混合タイプは圧迫タイプと牽引タイプ両方が混合した状態のことです。3つのタイプの中で最も患者数が多いとされ、7割以上がこのタイプといわれています。
基本はまずリハビリテーションを行いますが、場合によっては手術も考慮されます。
胸郭出口症候群のチェック方法
自分が胸郭出口症候群ではないかと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。胸郭出口症候群かどうかをチェックする方法を紹介します。
ルーステストのやり方
手を挙上した状態で手のグーパーを1秒毎に繰り返します。1分以内に手のだるさやしびれが増強し、手が挙げられない状態になれば胸郭出口症候群を疑います。
ライトテストのやり方
ライトテストは手首の動脈に触れて確認する方法です。
先ずは普通の状態で手首の動脈に触れて脈を確認します。そのまま手を挙上し、挙上したまま手首の脈を確認します。
特に圧迫型の胸郭出口症候群の場合、神経だけではなく動脈も圧迫されることで脈が弱くなる場合があります。脈が弱くなるかどうかで胸郭出口症候群の有無を確認します。
胸郭出口症候群を予防するには?
胸郭出口症候群の予防に役立ついくつかのポイントを紹介します。
寝るときの姿勢に注意する
寝起きに胸郭出口症候群が出現する人の場合は、寝るときの姿勢に注意してみましょう。横向きで寝る場合、鎖骨や肩甲骨の位置が不適切となり、気づかないうちに引っ張られ、胸郭出口が狭くなってしまっている場合があります。
また、一過性に胸郭出口が狭くなることももちろんですが、寝ている間に不適切な姿勢をとり続けることで靱帯が緩んだり逆に強く癒着してしまったりすることで、胸郭出口が狭くなった状態で骨の位置関係が固まってしまう場合があります。
こうなってしまうと、日中の活動でも胸郭出口の狭窄が起こりやすくなってしまい、胸郭出口症候群を引き起こしやすくなります。胸郭出口症候群がある人は寝るときの姿勢に注意してみましょう。
ストレッチをする
胸郭出口症候群の改善にはストレッチが効果的です。胸郭出口を直接広げるようなストレッチがあるわけではありませんが、筋肉のこりを改善し、肩甲骨や鎖骨が動きやすくなれば症状の緩和につながるでしょう。
最初に説明した通り、胸郭出口は鎖骨、肋骨だけではなくさまざまな筋肉に囲まれています。筋肉は、動かさなかったり、じっと同じ体勢をとり続けたりすると拘縮して固くなってしまいます。
胸郭出口周辺の筋肉が固まってしまうと、それだけ胸郭出口が狭くなってしまいやすくなりますから、ストレッチをすることで筋肉のこりを改善し、症状が起こりにくくすることができます。
また、肩甲骨や鎖骨の運動ももちろん筋肉によって行われますから、ストレッチによって肩甲骨や鎖骨が動きやすいようにすることで、鎖骨が必要以上に下がるのを防ぎ、胸郭出口が狭くならないように維持することができます。
疲労をためないようにする
疲労は胸郭出口症候群を悪化させる因子となります。疲労すると、人は立位姿勢を保つのが難しくなり、前かがみになってしまいます。それに加えて肩も下がってしまい、なで肩になってしまいます。つまり、疲労によって胸郭出口症候群が起こりやすい体勢になってしまうのです。
また、疲労によって筋肉の動きが少なくなってしまうと胸郭出口周囲や、鎖骨と肋骨を動かす筋肉が固まってしまい、より胸郭出口症候群が起こりやすくなってしまいます。疲労改善のためにも、ときどきストレッチを行うことをおすすめします。