ストレスが引き起こす適応障害の症状と治し方
適応障害とは、生活の中で生じる日常的なストレスにうまく対処することできず、その結果抑うつや不安感などの精神症状や行動面に変化が現れて社会生活に支障をきたす病気のことです。
精神科や心療内科における臨床現場の最前線では思春期から青年期、中年期にかけて非常に
頻度高く遭遇する精神疾患の一つとなっています。
ここでは適応障害を取り上げ、特徴や治し方について解説します。
適応障害とストレス
適応障害の原因となるストレスが生じてから概ね1か月以内に自覚症状が発症します。ストレスが解消されて適切な治療に結びつけることができれば、おおよそ6か月以内に症状が改善するといわれていますが、なかにはストレスが長期的に続く場合や十分な治療効果を得られないケースでは長きにわたって症状が継続することがありえます。また、適応障害の症状が強く続くと、うつ病に移行しやすくなります。
適応障害を発症するきっかけとされている原因は多種多様です。
外因的要素
家庭や学校、職場での環境の変化や人間関係の悪化が原因となることが多いですが、親しい人との離別、本人の健康問題が誘因となることもあります。
他者にとっては些細なことと思われるような出来事であっても、重大な症状を生じることがあります。なお、親しい人を失ったということに対して通常想定される範囲内の反応にとどまる死別反応は、想定を超えた反応を示す適応障害とは区別されます。
内因的要素
社会生活を送るうえでストレスを完全に排除することは困難です。ストレスがない生活はできませんが、些細なストレスで適応障害を発症する人もいれば、大きなストレスが生じても何ら変化がなく社会生活を送る人もいます。元来持っている個々の性格や考え方によってさまざまなストレスに対処する耐性度や社会的な周囲のサポート状況の程度などが影響します。
適応障害の症状
適応障害の症状の現れ方や問題行動の内容などは個々の状態や重症度によって異なります。大きくわけて以下の3つがあります。
精神的な症状
落ち込み、不安、混乱、イライラ、判断力の低下、感情のコントロールができないなどの情緒不安定を呈する症状。
身体的な症状
不眠、めまい、頭痛、食欲不振、喉の異物感、胸の圧迫感、ドキドキする、息苦しい、手足や口の周りのしびれ、吐き気、咳、難聴などの身体愁訴として出現する症状。
行動の変化
暴飲暴食、喧嘩、暴言、人を避けるなど問題行動を引き起こす症状。
これらの問題的な種々の症状は、通常ではストレスがなくなり、負担が軽減されると改善傾向が認められます。
適応障害になりやすい人
同じストレス下でも、適応障害になる人とならない人がいます。それは、ストレスの感じ方や対処の仕方、ストレスに耐える力などの特性が人それぞれ異なるからです。
適応障害になりやすい人には、以下の特徴があるといわれています。
・真面目で責任感が強い
・几帳面で物事を徹底的にやらないと気が済まない
・他人の目や評価が気になる
・人から頼まれると断れない
・心配性で傷つきやすい
・人に頼るのが苦手で自分で解決しようとする
・繊細で変化に敏感
・完璧主義で物事を白黒はっきりさせたい
・自分より他人を優先してしまう
・空気を読むのが苦手
しかし、あくまで要因の一つであり、必ずしもこの特徴があるから適応障害になるというわけではありません。
適応障害の治し方
適応障害の最大の治療方法はストレス環境から離れることです。しかし、そう簡単に離れることができない方もいると思います。
そこで薬物療法や認知行動療法などのストレスの対処法が用いられます。
認知行動療法
認知とはものの考え方、とらえ方のことをいいます。この認知の偏りを修正することです。人には物事のとらえ方、受け取り方には癖があります。同じことが起きていても、悲観的になり落ち込む人もいれば、気にすることもなく後に引きずることもしない人もいます。
これは認知による違いです。この癖を心理士によるカウンセリングや認知のメカニズムの教育、実践によって見直していきます。
薬物療法
認知行動療法を行なったとしても、現実的には常にストレス環境の中で生活している状態です。
そこで、認知行動療法の補助として薬物療法が用いられる場合があります。うつ病などとは異なり、薬物療法で改善するということは難しく、あくまで補助的となります。
ストレスにより生じている症状によって薬物療法は異なります。不眠が強ければ睡眠導入薬、不安や焦りが強ければ抗不安薬、落ち込みが強ければ抗うつ薬、イライラが強ければ気分安定薬が用いられます。
これはあくまで補助的であり、気持ちが楽になる、認知行動療法への取り組みに意欲的になる、現実のストレス環境が楽になる、といった効果を期待して行われます。
環境調整
はじめに申し上げたように最も重要なことは、原因となっている日々のストレス状態を回避して本人の負担を軽減させてあげることです。
そのためには、本人を取り巻く周囲環境の調整などを行うことで徐々に適応しやすくすることが最も効果的な方法となります。
休職、休養
一定期間仕事から離れる、または学校を休校して自宅でしっかり療養することで症状の改善が期待できます。これには数日や1週間程度の休みではなく、1か月単位での休みが必要となってきます。
異動・転校
会社員であれば配置転換や役職の変更など、働く環境を変えることでよくなることもあります。学校でストレスを抱えている場合は、転校するなども一つの方法となります。
これらの環境調節治療と並行して、本人に対しては、薬物療法や認知行動療法を通してうまくストレス対処ができる能力を自発的に高めてあげることが非常に重要となってきます。
休養する場合は、ずっとベッドに横になっているのもストレスが溜まるので、十分な睡眠とバランスの取れた食事、適度な活動で、生活リズムを整えて、ゆっくりと回復を待つくらいの気持ちで過ごしましょう。
また、旅行の計画を練ったり、遠くまで出かけたりするのは、かなりのエネルギーを使います。心の不調がある状態ではかえってストレスになることもあるので、旅行は慎重に行いましょう。
適応障害に対する接し方
家族や友人が適応障害になってしまった場合、どのように声をかけるべきか悩みますよね。
適応障害の場合、仕事のある平日は調子が悪いが、休日などでは調子が戻ることがあります。そのため、周囲からはさぼっている、怠けていると思われてしまいます。これは適応障害の症状なので、遊んでいる適応障害の人にきつい言葉はかけないようにしましょう。
また、休職することや休むことについて、適応障害を治すには必要なことであるといった言葉をかけてあげましょう。肯定されることで申し訳ないといった罪悪感も薄れるはずです。
いかがでしたでしょうか。適応障害は誰しもがなり得る病気です。また、再発・再燃しやすい病気であり、良くなった後もじゅうぶんに気をつけて生活をする必要があります。
適応障害にならないように、強いストレス環境にいる場合は、誰かに相談したり、ストレスを軽減できないか考えてみましょう。
抑うつや不安感などが強くなり、通常の社会生活を送りにくい状態が1〜2週間続く場合は、精神科や心療内科などを受診して相談してみましょう。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。