便失禁の種類と原因…病院での治療と自分でできる便漏れ対策

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便失禁は、基本的には意思とは無関係に便が肛門から漏出されてしまう症状のことです。加齢に伴ってその発症率は上昇し、65歳以上の高齢の方では約8%前後の人々が便失禁を経験しているとの報告もあります。

自分の意図とは関係しないタイミングで便失禁を引き起こすことによって、日常生活に多大なる支障をもたらす懸念がありますし、便が漏れ出ることで肛門周囲が不衛生になって臀部の皮膚のただれなどを認めることもあります。

ここでは便失禁の種類や原因、治療法について詳しく解説します 。

便失禁の種類

便失禁は、無意識的に自分の意図に反して肛門から便が漏れる症状であり、 日本における便失禁の有症率は、65歳以上の高齢者において約7%前後であり、潜在的な患者数はおよそ500万人以上存在すると指摘されています。

便失禁そのものは、命に直接関わる病気ではないものの、「トイレまで間に合わずに外出できなくなる」、「気分が落ち込んでうつ状態になる」など、便失禁に関連する症状は患者さんにとって深刻な悪影響を及ぼします。

便失禁は、症状の出現様式によって大きく3種類に分けられており、漏出性便失禁、切迫性便失禁、両者が混ざった混合性便失禁があります。

漏出性便失禁

一つ目の漏出性便失禁は、便意をまったく感じないにもかかわらず、自分の意思とは無関係に便が漏れるタイプです。便失禁の半数近くはこの便失禁の形態であり、便漏れを引き起こす原因のなかで最多の率を占めています。

漏出性便失禁が起こる原因は、腸管神経の障害に伴って直腸に便が運搬された際の物理的な刺激が正常に伝達できなくなる病気、あるいは直腸がんなどの病変によって直腸の感覚が低下する、そして肛門括約筋自体の弛緩などが想定されています。

切迫性便失禁

二つ目の切迫性便失禁は、急激に強い便意を自覚するものの、トイレまで我慢することができずに便を漏らすタイプの便失禁であり、その原因としては、加齢に伴う肛門括約筋の衰え、肛門括約筋の運動を司る神経自体の障害などが考えられています。

混合性便失禁

そして、三つ目の混合性便失禁は、漏出性便失禁と切迫性便失禁の両方の症状が合併する種類の便漏れであり、双方の原因が複雑に関連して発症することが知られており、便失禁患者の約4割程度はこのタイプであると伝えられています。

便失禁の原因

普段われわれが摂取した食べ物などは、胃腸の臓器で栄養素が吸収されて、不要な老廃物が大腸に送られて便内容物を作り、便が直腸内に運ばれて腸管内圧が上昇すると、脳に刺激が伝えられて便意を自覚する構造になっています。

便意を自覚すると、自分の意思で腹圧をかけることによって便内容物を肛門から排出する流れになります。しかし、便失禁を引き起こす際にはこれらの段階のいずれかに異常をきたしていることが疑われます。

便失禁の原因はいくつも考えられます。

病気によるもの

便失禁は、過敏性腸症候群などを含む慢性的な便通異常を呈する病態や直腸がんなどを始めとする器質的な病変、あるいは排便コントロールを支配している自律神経に障害を認める糖尿病や脊椎疾患などが原因でも引き起こされると考えられています。

漏出性便失禁は、便意を一切感じないにも関わらず、自分の意思とは関係なく便が漏れるタイプの便漏れであり、便漏れの約半数は漏出性便失禁と考えられ、便漏れの原因の中で最多を占めています。

その原因としては、神経の障害によって直腸に便が入り込んだ際の刺激がうまく伝達できなくなる病気、あるいは直腸がんなどによる直腸の感覚低下、肛門括約筋のゆるみなどが知られています。

加齢の影響

便失禁は年齢が上がるごとに発症率は上昇し、65歳以上の高齢者では約7.5%が便失禁を有しているというデータもあります。

便失禁を引き起こす原因の中で最も多いと考えられているのが肛門括約筋の衰えであり、高齢になるにつれて肛門括約筋が弱くなると、肛門がひらきやすくなるので便が漏れてしまいます。

肛門括約筋の衰えや損傷などによって、便失禁が起こり、肛門括約筋が衰える原因のひとつが加齢です。

高齢者や介護を必要とする人に多いと報告されており、肛門を締める力が加齢などによって弱くなると、便失禁を生じます。

男性も女性も年を重ねるにつれて、肛門周囲の括約筋が衰えて、肛門のしまりが緩くなることによって、便失禁の症状がでることがあります。

出産の後遺症

女性の場合には、分娩で出産した際、肛門括約筋や関連する神経が損傷を受けて、便が漏れることもあります。

出産のときに会陰切開を受けた場合など、肛門周囲の括約筋あるいは神経の損傷にともなって、便失禁を起こすことがあります。

大腸や痔の手術の後遺症

直腸癌で直腸を取り除く手術を受けた後に便失禁が引き起こされることがあります。

痔や大腸がんなどを始めとする、肛門や直腸の病気、あるいはその手術後に肛門括約筋の損傷が起こり、便失禁の症状を認めることもあります。

便失禁に対する病院での治療

便失禁には次のような治療方法があります。 

薬物治療

便失禁に対する治療方法に関しては、手術を実施しない内科的保存治療、ならびに手術を行う外科的治療が考えられ、ほとんどのケースでは内科的治療を実施するだけである程度の症状改善効果が期待できます。

軟便を伴う便失禁を認める際には、便内容物の水分を吸収して、便の硬さを調整する働きを有するポリカルボフィルカルシウムという薬剤を活用する、あるいは整腸剤で腸管の蠕動運動を整える手段などが有用とされています。

特に、漏出性便失禁における治療方法は、原因となる病気の治療が主流とはなりますが、下剤を用いることによって直腸内の便の溜まりすぎを予防する薬物療法も効果を発揮することがあります。

バイオフィードバック療法

バイオフィードバック療法とは、生体自己制御療法とも呼ばれており、自分自身の肛門括約筋の締まり具合を器械やモニターで確認しながら、肛門括約筋の締め方や力む方法を訓練する治療法です。

自分の目で見てリアルタイムに肛門括約筋の働きを確認できますので、括約筋をどのように動かせば便失禁がより改善されやすいかを容易に理解することが可能となります。

仙骨神経刺激療法

仙骨神経刺激療法は、2014年ごろから日本でも保険で認められた新しい治療方法であり、骨盤部に位置する仙骨の孔に、ペースメーカーに類似した小型電極の埋め込み式装置を活用して仙骨神経に刺激を与えることによって神経を活性化して便失禁頻度を軽減できます。

治療を実施した多くの方々に一定の効果が認められ、便失禁する回数が半数に減少するといわれている有効的な治療策です。

実際にこの手術療法を実施する前には、2週間に渡って体外から刺激を与えて、効果の有無をあらかじめ事前に確認してから効果を有する人だけを対象に治療を開始します。

外科手術

便失禁に対する外科的な手術治療は、諸外国では積極的に実践されていますが、日本では新しい治療は導入されにくく、便失禁の治療を実施できること自体がそもそも知られていない現状があります。

外科手術においては、例えば出産後の後遺症に伴う便失禁の場合に、裂傷した肛門括約筋や部分的に欠損している括約筋を縫縮する、あるいは大腿部の筋肉の一部を肛門周囲に巻きつけて形成する特殊な対処策も挙げられます。

便失禁を高頻度に引き起こすことによって、日々の生活に多大な支障を認める際には、肛門括約筋形成術や人工肛門造設術などの外科的な手術が実施されます。

外科的な治療によってどれほど便失禁の症状が緩和されるかについては、治療を実施する前の便失禁の重症度にある程度依存すると考えられており、治療する前の症状が軽度の場合にはほとんど症状が認められなくなるケースもあります。

自分で便失禁に対策するには

自分で便失禁の症状を少しでも緩和するために出来る対策としては、理学療法が考えられ、具体的には肛門周囲の筋肉を締める運動動作を日々実践すると共に、骨盤底筋トレーニングによって骨盤底筋群を鍛えて便失禁を改善する、あるいは予防する効果が期待できます。

特に高齢者の場合には、加齢に伴って肛門括約筋が衰えることによって便失禁が引き起こされることも多く、日常的に肛門括約筋の動きを訓練する理学療法による治療が有効に働くことがあります。

まとめ 

これまで、便失禁の種類や原因、病院での治療と自分でできる対策などを中心に解説してきました。

便失禁は、自分で便を出さずに留めておこうとしていても、便内容物が肛門から漏れ出る状態を指しており、便失禁を呈する患者さんにおいては気持ちが沈み、生活の質が少なからず低下することが指摘されています。

便失禁を引き起こす背景には思わぬ病気が隠れている可能性も危惧されますので、症状が繰り返して認められる際には病院を受診して適切な検査や治療を受けましょう。

また、便失禁の場合には、発症から時間が経過すると根治的な治療が困難になることも想定されますので、心配であれば、なるべく迅速に肛門科や消化器外科などの専門医療機関を受診して、治療を開始することが大切です。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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