乾燥肌とは違う?乾燥性皮膚炎の治療法とセルフケア

お悩み

寒い季節になると乾燥による肌のトラブルが非常に多くなります。保湿をはじめとしたセルフケアを行う方も多いことと思います。

乾燥によるトラブルの中で注意したいのが乾燥性皮膚炎です。どのようなものなのか解説します。

乾燥性皮膚炎とは

乾燥性皮膚炎とは、皮膚が乾燥したところに刺激が加わることで炎症が起こる病気です。では、どのような機序で起こり、どのような特徴があるのでしょうか。

乾燥性皮膚炎の原因

乾燥性皮膚炎は皮膚の乾燥から起こると説明しました。

もともと皮膚は、皮膚表面の状態を清潔かつスムーズな状態に保つために、皮脂を分泌してうるおいを保っています。しかし皮膚が乾燥してしまうと、皮膚の表面のバリア機能が失われてしまいます。

皮膚のなかでも表層にある表皮は、常にターンオーバーと言って細胞が新しいものに次々と入れ替わることで機能を保っています。表皮層の一番深い層(基底層)にある表皮細胞が細胞分裂を盛んに行い、古いものほどだんだんと表層へと移動していきます。そして一番表層(角質層)まで至ると細胞は剥がれ落ちます。剥がれ落ちる皮膚が最もわかりやすいのが頭皮から出てくるフケです。他の皮膚もあまり気づきませんが、フケのように役目を終えた表皮細胞が常に剥がれ落ち続けています。

さて、皮膚の乾燥によってバリア機能が失われたところに刺激が加わると、患部がゴワゴワしてきます。これは、もともと剥がれ落ちそうであった角質層の表皮細胞がどんどんと剥がれおち、表面が平滑ではなくなることによります。表皮細胞が剥がれ落ちるので、フケのように皮膚片が見られるようになります。これを乾皮症といいます。

乾皮症のところに更に刺激が加わると、弱まっている皮膚表面にどんどん傷がつき、皮膚表面の常在菌が入り込むことで感染を起こします。これが乾燥性皮膚炎の成り立ちです。

乾皮症や乾燥性皮膚炎の原因は、単に空気中の水分が失われて乾燥するだけではありません。例えば皮膚をゴシゴシとこすりすぎることで表皮がどんどん剥がれていってしまうことも原因になります。洗剤やボディソープ、石けんなどの洗浄力が強ければ刺激になって表皮細胞がダメージを受けてしまいます。 

また、皮脂は表皮のうるおいを保つために必要なものですから、不足すると表皮の乾燥が進行します。洗いすぎや、洗った後そのまま乾かさずに放置した場合などは皮脂が欠乏します。このような状態を皮脂欠乏症と言います。皮脂欠乏症に至ると、皮膚からの水分が蒸発しやすくなる上に、細菌などの侵入がたやすくなってしまい、乾燥性皮膚炎の原因となります。

症状の特徴

前述の通り、皮膚の表面がボロボロと剥がれてきますから、フケのような皮膚片がボロボロと剥がれ落ちます。これを落屑と言います。

また、皮膚自体はガサガサして、分厚くなります。また、炎症を反映して赤みを帯びるほか、乾燥で皮膚と皮膚の連続性が保たれなくなり、ひび割れができます。炎症が皮膚に起こるとかゆみを感じます。これが自覚症状で最も強い症状かもしれません。

皮膚のバリア機能の低下を反映して、種々の皮疹ができます。湿疹もできますし、それによってかゆみも出現します。元々乾燥性皮膚炎でかゆみがあるのでひっかいて出血し、かさぶたもでき、湿疹ができると更にかゆみが強くなりますから、より出血が起こりやすくなります。

特に湿疹ができてしまうと、皮膚のターンオーバーが早くなり、脱落する角質層も増えてしまい、カサカサが更にひどくなってきます。

乾燥肌との違いは?

乾燥肌とは、単に皮膚が乾燥しているだけの状態です。ここに炎症が加わると乾燥性皮膚炎となります。

つまり、乾燥肌は乾燥性皮膚炎の前段階とも言える状態です。この状態で適切に対処することで、乾燥性皮膚炎への以降を防ぐことができます。

乾燥性皮膚炎の治療法

乾燥性皮膚炎の治療法を紹介します。

ステロイド外用薬

前述の通り、乾燥性皮膚炎は皮膚に炎症が起こることで発生します。そのため、炎症を抑える薬を使用することで症状を和らげることができます。

ステロイド外用薬は、皮膚に外用することで炎症を抑える薬です。皮膚の発赤を伴っていたり、炎症の後に出現してくる湿疹があったりする場合には、ステロイド外用薬が症状を和らげてくれます。

ステロイド外用薬は初期から使用することもありますが、特に発症から長期間経った例、かゆみが強い例に対しては積極的に使用されます。ステロイド外用薬以外の薬では十分に治療効果が得られず、かゆみのためにひっかいて出血し、更に皮膚のダメージを強くしてしまうためです。

保湿外用薬

皮膚の乾燥が乾燥性皮膚炎の原因となりますから、乾燥を防ぐために保湿剤を使用します。保湿剤は市販のものでもかまいませんし、処方のものでもかまいません。特に入浴後は皮脂が拭い取られ、さらに拭き残しが蒸発することによる皮膚の乾燥がひどくなりますから、しっかり塗ると良いでしょう。

症状が強い場合には、ステロイドを使用しますが、ステロイドの使用をやめるとまた乾燥肌から炎症が再発してしまいます。そのようなときにも保湿外用薬であれば副作用もほとんどありませんので、皮膚のうるおいをキープし、再発を抑えることができます。

抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬の内服は、かゆみ止めとしての役割を持ちます。眠気やだるさといった副作用があるのがネックでしたが、そのような副作用がないタイプも発売されていますので、かゆみが強い場合や生活に影響している場合に使用するとよいでしょう。

乾燥性皮膚炎のセルフケア

乾燥性皮膚炎の予防や、実際に乾燥性皮膚炎を発症した場合に自分自身でできるケア方法を紹介します。日常生活での注意点としては、乾燥を防ぎ、肌を刺激をしないことが大切です。

入浴時の注意点

入浴は皮膚に直接水が当たり、また皮膚を洗うことで皮脂を拭い去ることが多い状況になります。そのため、種々の注意点があります。

肌を洗うときにはゴシゴシと洗いすぎない

肌を洗うときにゴシゴシと強く洗いすぎてしまうと、皮脂を過度に拭い去ってしまいますし、さらに皮膚に傷をつけ、細菌が入り込みやすくなってしまいます。特に乾燥がひどい時期などはなるべく柔らかいスポンジを利用して、優しく洗うようにしましょう。

肌に合ったシャンプー、ボディソープを使用する

シャンプーやボディソープの中には刺激が強いものがあります。皮膚に刺激を与え、バリア機能を落としてしまうことがありますから、自分に合ったものを選びましょう。シャンプーも、肌へ垂れこんできますから、皮膚炎の原因となる場合がありますのでとくに症状が強かったり症状がなかなか治まらなかったりする場合には変更することを考えましょう。

お風呂から出たら水分をしっかりと拭き取る

皮膚に水分がついたまま乾燥してしまうと、皮膚の水分も奪ってしまい、皮膚の乾燥を来します。水分をしっかりと拭き取ってから服を着ることが必要になります。もちろんこの際もゴシゴシこすって水分を取るのではなく、トントンとタオルを当てることで水分を拭き取ると良いでしょう。

保湿剤を使用する

市販のものでかまいませんから、保湿剤を塗ることで水分が奪われるのを防ぐことができる。入浴後は皮脂が奪われていますから保湿が必要であるという一方で、余計な皮脂や汚れが無い状態なので保湿の効果が強くなる時間でもあります。このタイミングを逃さずに保湿しましょう。

部屋の湿度を保つ

乾燥した部屋は乾燥肌の原因になります。加湿器を使用して、湿度50%以上を目安に調整しましょう。

食生活に気をつける

皮膚は主にタンパク質からできています。また、全身の栄養状態が良くないと、栄養が内臓機能の維持などに使用されてしまい、皮膚を作るために使用されません。そのため、栄養不良の状態では皮膚のターンオーバーが行われず、ダメージを受けてもなかなか修復されません。しっかりとバランスのよい食事を摂りましょう。

服装を柔らかい素材のものにする

服も皮膚に当たり、皮膚のダメージの原因となります。なるべく綿の素材を使用し、皮膚に優しい服を選びましょう。

薬を用いたケア

乾燥性皮膚炎のケアに市販薬や漢方薬を用いることができます。 

市販薬を使う

処方薬ではなくても市販薬を使用することである程度対応することができます。

保湿効果をうたっている保湿剤の中でも、ヘパリン類似物質を使用したクリームは、病院で処方される保湿クリームと同じ成分が含まれています。これらのクリームを使用することで高い保湿効果が得られます。

また、内服の抗ヒスタミン薬も花粉症などのアレルギー対策のために発売されていますので、それらを内服することでかゆみを抑えることができます。

漢方薬を飲む

漢方医学では肌が乾燥している状態を血虚による状態と考えています。血虚は体を構成する成分である血が不足している状態であり、体に栄養が行き渡らなくなる事で肌がダメージを受けてしまうと考えられています。

このようなときには血を補うための漢方薬が使用されます。

例えば、当帰飲子(トウキインシ)は、血に加えて体を動かすための因子である気(生命エネルギー)を補う薬です。この作用によって肌に栄養とうるおいを与えることで、皮脂の欠乏を防ぎ、乾燥を防ぎます。

温清飲(ウンセイイン)は乾燥して色艶が悪く、かゆみが強い状態に使用します。外界からの刺激に対して反応しやすい場合に使用することが多く、特にかゆみが強い場合には刺激を抑えることでかゆみを防ぎ、また血を補うことで皮膚の修復を助けます。

十全大補湯(ジュウセゼンタイホトウ)は気、血に加えてもう一つの靱帯の構成要素である水を補充し、皮膚症状の改善を目指します。

これらの漢方のほか、全身状態の不良がある場合にはそれらの症状に応じた薬剤を使用することで症状の改善を図ります。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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