心因性多飲症とは?水中毒との関係や治療方法について解説

お悩み

心因性多飲症とは

心因性多飲症の場合、最初から水をガブガブと飲むわけではありません。初めはストレスや不安、葛藤など精神的な負担がかかっているときに水を飲むと落ち着くということから始まります。

精神的な負担がかかっているときに、とりあえず水を飲み、その量が増えていき、次第に水を飲んでいないと落ち着かなくなるという状態になってしまいます。

これはカフェイン中毒にも共通するものがあると思います。ストレスを落ち着かせるために水を飲んでいたはずが、いつの間にか水を飲んでいないことがストレスになってしまうのです。その結果、摂取する水の量、飲む頻度が増え続けていってしまいます。しかし、本人は無自覚であり、ただ喉が渇いているから水を飲んでいるだけという認識なので注意が必要となります。

どれくらいの量の水を飲むと多飲症?

通常一般の人で必要な水分量は約2.5リットルとされています。このうち食事から1リットルほど摂取できるため、飲料水からの水分補給は1〜1.5リットルが良いとされています。

しかし、心因性多飲症となると、1日6リットルを超える量を飲み、10リットルもの水を飲む場合もあります。そのようなたくさんの水を常に持ち歩けないため、机の引き出しの中や車、冷蔵庫などさまざまな場所に隠していることがあります。自動販売機などのある職場などでは、気持ちを落ち着かせるために頻繁にそこへ行くようになります。

心因性多飲症の症状

症状は、とにかく喉が渇くため、水を大量に飲みます。たくさんの水を飲むため、尿の量も増え、頻回にトイレに行くようになります。1日あたり2.5リットルを超える尿量の場合多尿となります。1日10リットル以上飲む人もおり、その場合尿も10リットル以上出ることもあります。

心因性多飲症の検査

心因性多飲症についての検査方法はまず、カウンセリングにより心因的なものかどうかを判断します。次に尿検査、血液検査、2.5%あるいは5%の高張食塩水を経静脈的に投与して浸透圧を上昇させて、それに反応するバゾプレッシンの分泌能を評価する高張食塩水負荷試験、デスモプレッシン負荷試験、MRIなどが身体的な検査として行われます。

水中毒との関係

心因性多飲症の結果、起こるものが水中毒となります。これは水分を多量に摂取することで尿の処理能力が低下して、希釈性低ナトリウム血症という状態になります。血液中のナトリウム濃度が低下し、電解質のバランスが崩れるからです。

ナトリウムが低下することで軽症の場合は、めまい・頭痛・頻尿・疲労感・浮腫・下痢などが表れます。重症となると錯乱・嘔吐・意識障害・呼吸困難・脳浮腫によるけいれん・肺水腫・うっ血性心不全など命の危険に晒されるほどになります。

血中のナトリウム濃度は1リットルあたり135〜145mEqが正常値とされています。致死量は個人差もあるため、一概には言えませんが、100mEqまで低下した場合、神経の伝達が阻害されることで呼吸困難となり、死に至る可能性が高くなります。

多飲症と水中毒

水中毒の原因としては、多量に水を摂取することが挙げられます。そのため、心因性多飲症が水中毒に直結します。心因性多飲症でなくても、向精神薬を服用することで生じる副作用の口渇、精神薬を長期間服用することで視床下部の口渇中枢を刺激して、さらに抗利尿ホルモンの分泌が促され、水分貯留によるもの、ダイエット時の空腹を紛らわすための多量飲水などがあります。

多飲症・水中毒の治療方法

水中毒の治療法の基本は、水分を制限することです。腎臓の機能に問題ない場合は、水分を制限するだけで血清ナトリウム値が改善します。

重症の場合は、輸液によるナトリウムの補正が必要となります。しかし、低ナトリウム血症を急速に補正してしまうと、脳幹部の神経を損傷する恐れがあるのでゆっくりと補正していきます。

そしてナトリウムやカリウムが含まれる飴やタブレットを摂ったり、経口補水液を飲んだりして体内のナトリウムバランスを整えます。また適度な運動や入浴によって汗を流して、余分な水分を排泄することも大切です。

多尿や頻尿は水中毒の症状のひとつであるため、特に1日に8回以上トイレに行く人は、1回の排尿量と合わせてチェックしてみましょう。多いと感じる方は、水分摂取量を見直してみましょう。

また、毎日決まった時間に体重を測り、急激な体重の増加やむくみがないかどうかを確認することも重要です。急激な体重の増加やむくみがあれば、体の中に水分を溜め込んでいる可能性があります。

心因性多飲症の治療法には、精神的な部分の要因を取り除くため、日常生活での行動の見直しから始めていく必要があります。心理カウンセリングにより、心の不安やストレスを取り除いたり、心理教育によって飲水への正しい知識を身につけて、飲水量を減らしていきます。

また、同じ病気の患者同士で話し合いをすることで、自らの病気と向き合う治療を行うこともあります。不安やストレスの原因として、うつ病や不安障害などの精神疾患がある場合には、疾患に応じて抗うつ薬や抗不安薬などの薬剤を投与することもあります。ストレスの軽減や環境の変化によって自然と治癒する場合もあります。

いかがでしたでしょうか。多飲は無意識のうちに行なってしまうことも多く、悪化するまで放置されてしまうことも多い病気です。普段たくさん水を飲む習慣がある方は、自身がどれくらい飲んでいるかを把握しましょう。水を飲み過ぎている方は、全身にさまざまな合併症を引き起こすこともあるため、異常を自覚するようなら医療機関を受診して相談してみるのもいいかもしれません。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

プロフィール

関連記事