「呂律が回らない」とはどんな状態?構音障害や失語症の原因

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緊張していたり、急いで話そうとしたとき、思うように口が動かずにうまくしゃべれないことはありませんか? または、お酒を飲んで酔ったとき、自分ではちゃんと話しているようでちゃんと喋れていなかったりすることもあると思います。

このような状態は一般的に「呂律が回らない」と言われています。原因がお酒や緊張、焦りなどから起きているのであればいいのですが、中には脳神経に関わる病気が原因のこともあります。ここでは呂律が回らなくなる原因について詳しく見ていきましょう。

「呂律が回らない」とはどんな状態?

一般的に「呂律が回らない」と言われる状態は、次に見るような構音障害や失語症に該当します。

構音障害

適切な発音ができず、コミュニケーションで困ることがある状態を構音障害といいます。

構音障害を原因別に分類すると、器質性構音障害、運動障害性構音障害、聴覚性構音障害、機能性構音障害の4つに分類されます。

器質性構音障害

発音するための器官である唇や舌などの形態に異常があり、適切に発音できない状態で、口腔がん術後や口蓋裂などがある場合にみられます。

運動障害性構音障害

脳や神経の病気により発音するときに唇や舌などの筋肉を適切に動かす指令が働かないため、発音に障害が生じる状態であり、脳卒中や交通外傷による脳損傷や、パーキンソン病、脳性麻痺などの病気でみられます。

聴覚性構音障害

難聴によって正しい発音や自分の発音を聞き取れないために正しく発音できない状態です。

機能性構音障害

上記のような原因が全くないにもかかわらず、正しく発音できない音がある状態です。

発生にかかわる神経や筋肉は、ものを飲み込む(嚥下)運動にかかわるものと一部は同一であるため、飲みにくさを伴うこともあります。

失語症

失語症とは、通常、左大脳半球の言語領域の損傷により言語を操作する能力が損なわれた結果、言葉がうまく出てこない状態です。日常会話において聴く、話す、読む、書くといった言語機能の全ての面にさまざまな障害が生じます。

ブローカー失語

運動性失語とも言われますが、非流暢ですらすらと滑らかに話すことができないのが特徴です。相手の話すことはある程度理解できますが、喋ろうとするとなかなか自分が思っている言葉が出てこなくなります。特に喋り始めの音が出しにくいです。

ウェルニッケ失語

感覚性失語とも呼ばれており、すらすらと流暢に喋れるのですが、相手の話す言葉がよく理解できず、また、患者さん自身でもよく理解できないことを喋ります。そのため、きちんとした会話が成立しなくなります。

伝導失語

相手の話していることは理解できますが、喋ったり書いたりすると、言葉に誤りが出てきてしまいます。また、その誤りに気づいていて、修正しようと正しい音を探索する行動がみられます。

全失語

相手の言葉がほとんど理解できず、発話も全くないか、あるいは無意味な一語を発するのみという、すべての言語機能が重篤に障害された状態です。

呂律が回らなくなる原因

呂律が回らなくなる原因としては次のものが挙げられます。

脳血管障害

脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳血管の障害が原因で、急にうまく話せなくなることがあります。構音障害以外に、片方の手足が動かなくなったり、めまいなどの症状を認めることもあります。

延髄にある構音筋を支配する神経細胞が直接侵されて発音が障害されるものを球麻痺と呼びます。大脳の広範な病変や多発脳梗塞などにより両側性の錐体路の障害があるときは仮性球麻痺といい、言語障害を伴います。

一過性脳虚血発作(TIA)

一時的に呂律が回らなくなり、うまく話せなくなったが、時間が経つと症状が改善する場合があります。これを一過性脳虚血発作(TIA)といいます。一過性脳虚血発作とは、脳梗塞の前兆症状と言われており、血液の流れが一時的に悪くなる(一時的に血管が詰まる、あるいは血液の量が減る)ことで、脳梗塞と似た症状が短時間(数分から1時間、最長で24時間)現れて消える状態のことを言います。

血液が細胞へと戻れば、細胞は死滅しないため、画像検査を行なっても梗塞は見られません。しかし、重度な脳梗塞につながる可能性のある前兆と考えられるため、脳梗塞と同様の治療を行なっていく必要があります。

一過性脳虚血発作の症状は、内頸動脈系と椎骨脳底動脈系のふたつに分けられます。これらの症状の出方の比率はおよそ内頸動脈系:椎骨動脈系=4:1です。内頸動脈系のTIAの方が多いのは、内頸動脈系の方が血液の供給量が多く、脳を支配している領域が広いことによります。

内頸動脈系の一過性脳虚血発作の症状

内頸動脈は前頭葉・側頭葉・頭頂葉の3つの領域を支配しており、代表的な症状は5つあります。

・片側の運動障害(片麻痺)
・感覚障害
・失語症
・一過性黒内障
・視野障害(半盲)

椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作の症状

椎骨動脈は後頭葉・脳幹・小脳の3領域を支配しています。代表的な症状は5つあります。

・バランス障害(めまい、歩行障害)

・言語障害(呂律が回らない)
・複視(物が二重に見える)
・運動障害
・感覚障害

内頸動脈系の一過性脳虚血発作の場合には失語症がみられ、椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作の場合はめまいや呂律が回らないといった症状がみられます。

神経疾患

筋萎縮性側索硬化症(ALS)や多発性硬化症、重症筋無力症などの神経難病が原因となって構音障害を生じる場合があります。

筋萎縮性側索硬化症とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。

筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経だけが障害を受けます。その一方で身体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患の一つです。

神経細胞から出る細い電線のような神経を伝わる電気活動によってすべて行われており、この神経の線は髄鞘というものに覆われています。しかし、炎症によって髄鞘が壊れて中の電線がむき出しになるのが脱髄疾患です。

この脱髄がまだら状に中枢神経のあちこちにでき、神経症状の再発を繰り返すのが多発性硬化症です。

重症筋無力症は末梢神経と筋肉のつなぎ目において、筋肉側の受容体が自己抗体によって破壊される自己免疫疾患です。全身の筋力低下、易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状を起こしやすいことが特徴となります。

重症化すると呼吸筋の麻痺を起こし、呼吸困難をきたすこともあります。これらは、難病指定になっており、言葉を発するための唇や舌、のどの筋肉をうまく動かせないため構音障害を生じます。

ストレスや過労

過剰なストレスや過労が原因で自律神経が乱れることで、うまく話せないという症状が出ることがあります。

病院を受診した方が良い?

呂律が回らないといった症状が出た場合は早めに病院を受診しましょう。精神的な緊張などが原因となる場合もありますが、呂律が回らなくなる原因のひとつとして脳血管疾患があります。脳血管疾患からくる病気は死亡率が高く、早期発見・早期治療が発症後の回復の速さや後遺症に大きな影響を与えます。

いかがでしたでしょうか。急に呂律が回らなくなっておかしいなと感じても、ちょっと様子をみようかなと思ってしまいがちです。しかし、脳神経系の疾患であった場合は、時間が経つことで後遺症として残ってしまうこともあります。おかしいなと感じた際はすぐに医療機関を受診しましょう。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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