大人が夜中に突然叫んだら?夜驚症(やきょうしょう)とは

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睡眠中に子どもが突然おびえたように叫び声や悲鳴、泣き声を上げ、目を見開いたり、起き上がったり、パニックを起こしてしまうのを目の当たりにしたことはありませんか? これを夜驚症といいます。

小児で起こりやすい病気ですが、大人でも起こることがあります。ここでは夜驚症について詳しく見ていきましょう。

夜驚症(睡眠時驚愕症)とは

夜驚症(やきょうしょう)は睡眠障害の一種であり、専門用語では睡眠時驚愕症(すいみんじきょうがくしょう)と呼ばれております。

3歳〜8歳ごろの子どもの時期に発症しやすく、女児よりも男児に多く起こるといわれていますが、まれに大人でも発症することがあります。

成人になると男女比は同等になり、通常は年齢が増すにつれて発症頻度が低下します。睡眠中に突然、恐怖、興奮した表情で悲鳴のような声を上げて覚醒してしまう病気です。

異常行動が起きているときは、外部からの反応に乏しく、本人はエピソードを覚えていないのが特徴です。同じノンレム睡眠関連睡眠時随伴症である睡眠時遊行症もあるとされています。

夜驚症の症状

夜驚症は子どもの2〜7%が発症すると言われており、通常思春期までに症状が消失することが多いですが、一部の子どもでは、大人になるまで症状が続きます。

夜驚症の症状が起きるタイミングとして、深いノンレム睡眠が出やすい睡眠時間の最初の3分の1に起きることが多いです。

睡眠は大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠にわけることができます。レム睡眠は比較的浅い眠りで、身体は休んでいるものの脳は活動している状態を指します。

一方で、ノンレム睡眠は深い眠りで、身体も脳も休んでいる状態を指します。この2種類の眠りが睡眠の中で一定の時間ごとに交互に起こります。夜驚症はこのノンレム睡眠中に突然叫び声や悲鳴をあげて起き上がります。

強い恐怖感に伴う交感神経症状が見られ、心拍数が上昇したり息苦しさを訴えたり、瞳孔が開いたりします。この際、完全に覚醒していないため、親がいたとしてもそのことには気づかず、激しく転げ回ったり、起き上がって走り出すこともあります。

また、なだめようとしたり目を覚まそうとしてもうまくいかず、混乱状態が長引いたり悪化したりして、かえって状況を悪化させてしまうことがあります。

症状の持続時間は数分程度であり、症状がおさまるとすぐに再度眠りにつきます。朝起きて、自分の行動を後から思い出すことは難しく、できたとしても断片的であり、ストーリーのある夢を思い出すことはできません。パニックの最中にけがをする危険性が高いとされています。

夜驚症の原因

睡眠時遊行症と同様に、大人になると症状がおさまることが多いことから、原因としては睡眠・覚醒に関する脳の神経系の発達や成熟が不完全であることが考えられています。また、遺伝素因があるとも言われています。

第一度生物学的親族(父母や兄弟、姉妹)では、夜驚症になる確率が10倍高くなるとされています。二卵性双生児は、一卵性双生児に比べて多くみられます。以下にいくつかの原因を挙げます。

睡眠機能の未熟さ

成長中の小児の場合、まだ脳の睡眠機能が不完全であり、眠っている状態から上手に覚醒することができずに起こると考えられています。この場合は成長とともに落ち着く一過性のものとなります。

ストレスや不安

小児の夜驚症は脳の機能が未発達なことに関係していると考えられています。しかし、大人が発症する夜驚症に関しては脳の未発達が原因と考えるのは困難です。

明確な原因は不明ですが、過度な精神的な不安や疲れなど、心身に強いストレスがかかっているのが原因と指摘されています。日中に精神を強く興奮させることがあったり、恐怖体験をしたり、心的外傷を受けるような実体験があるときに症状が起こりやすくなります。

睡眠不足

寝不足や入眠から起床のタイミングがバラバラになり、生活リズムが乱れると睡眠中のコントロール機能が不安定になります。

薬の影響

鎮痛剤や解熱剤、パーキンソン病治療薬などは夜驚症の症状を引き起こす可能性があります。また、熱があるときに症状が出やすくなります。

夜驚症の診断と治療

夜驚症の診断には家族からの症状の聞き取りが重要となります。主にアメリカ精神医学会が発刊するDSM-5という基準を使います。

・睡眠中に恐怖感をともなうパニックが起こる
・瞳孔の散大、頻脈、発汗、呼吸が速くなるなどの状態もみられる
・症状は睡眠の前半3分の1に多くみられる
・症状は1〜10分程度で治まる
・パニック時に声をかけても覚醒しない
・夢の内容を聞いてもほとんどおぼえていない
・覚醒後、本人はパニックのことをおぼえていない
・症状が他の病気や薬物の影響によるものではない
・症状によって生活になんらかの支障がある

これらの点をみていきます。同じような診断基準がICD-10にもあります。詳細な検査はビデオ撮影をしながらの終夜ポリソムノグラフィ検査で、1泊入院し、睡眠中の脳波や筋肉の状態をはかる機械を取り付けて眠り、ビデオ撮影もして睡眠中の様子を確認します。

夜驚症と診断された場合、小児も大人もともに健康への悪影響はほぼなく、夜驚症だけのための専門的な治療は行われません。特に小児に対しては症状の自然消失を待つケースが多くなります。

しかし、大人の夜驚症は、心理的ストレスなどが原因となっている可能性があるため、根本的な原因に対して治療が必要になります。その際は心療内科や精神科を受診しましょう。治療は主にカウンセリング療法、もしくは薬物療法になります。根本的な原因となるストレスに対処する方法がとられ、抗不安薬や抗うつ薬などが処方されます。

いかがでしたでしょうか。大人の夜驚症はストレスが原因となっている場合があります。睡眠前の神経の刺激をさけ、リラックスすることが重要となります。大人で夜驚症を発症した際は心療内科や精神科に相談してみましょう。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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