重篤な病気の可能性も?ひどい寝汗(盗汗)の原因とは

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汗は体温調節の機能を担っており、睡眠中も汗をかきます。これは自然な現象です。しかし、寝汗が多く、寝苦しさや睡眠の質が低下するほどである場合は、何らかの疾患が隠れている可能性もあります。ここでは寝汗の原因となる病気について詳しくみていきましょう。

ひどい寝汗(盗汗)の原因になる病気

着替えが必要になるほどのひどい寝汗を盗汗と呼ぶことがあります。就寝中に必要な水分を盗まれることから盗汗と名付けられました。寝汗の原因となる病気としては下記が挙げられます。

自律神経失調症

自律神経とは、交感神経と副交感神経の2つの神経で構成されます。交感神経とは主に日中活発に働く神経です。それに対して、副交感神経は夜間やリラックス時に活発となる神経になります。

この2つの神経のバランスが保たれている状態が正常であり、適切に切り替わることで循環器、消化器、呼吸器などの機能がコントロールされています。

しかし、疲労や睡眠不足、緊張、環境の変化、不規則な生活などが原因となってストレスが心身に影響を及ぼすと、この2つの神経のバランスが崩れ、不調となります。これが、自律神経失調症となります。自律神経失調症の症状は、大きく分けて身体的症状と精神的症状の2つがあります。

 

身体的症状

自律神経失調症の主な身体的症状のひとつが手足のしびれとなります。ストレスの蓄積によって筋肉の硬直や血行不良を引き起こし、結果としてしびれ症状を出現させます。

しびれ以外にも多汗、めまい・耳鳴り、立ちくらみ、息切れ、慢性的なだるさ、便秘・下痢、手足の震え・しびれ、睡眠の質の低下、肩こり・頭痛などの症状が一時的ではなく、慢性的に発生します。

 

精神的症状

自律神経失調症の精神症状は、パニック障害・不安障害・不安神経症などと症状が似ています。イライラ、不安感、落ち着きがない、情緒不安定、やる気が起きない、緊張状態などの症状が出現します。また、精神的症状が悪化すると、うつ病の併発リスクが高まります。

呼吸器疾患

呼吸器疾患のなかでも、結核や肺炎などの呼吸器感染症では、寝汗をかくことがあります。結核は現在でも年間1万人以上の人が罹患している病気です。

咳や痰、微熱などの症状が長引き、体重が減ったり、寝汗をかいたりする人もいます。初期の段階では風邪と症状が似ているため、結核と気が付かない人も多いです。

また、非結核性抗酸菌症や、慢性好酸球性肺炎などの肺の感染症でも、寝汗をかくことがあります。

甲状腺機能亢進症

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう状態を甲状腺機能亢進症といいます。代表的な原因疾患には、バセドウ病や無痛性甲状腺炎があります。

甲状腺ホルモンは代謝を調節するホルモンであり、過剰に分泌されることで新陳代謝が異常に活発になり、多汗をはじめ、動悸、体重減少、指の震え、暑がり、易疲労感、軟便・下痢などさまざまな症状がみられます。心臓にも大きな負担がかかりますので、早急に適切な治療を受ける必要があります。

睡眠時無呼吸症候群

寝汗をよくかく原因として睡眠の質から考えられるのが睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)とは、主に睡眠中に空気の通り道である上気道が狭くなることによって無呼吸状態(10秒以上呼吸が止まること)と大きないびきを繰り返す病気のことです。

成人男性の3〜7%、成人女性の2〜5%程度に見られる比較的頻度の高い病気となります。無呼吸は脳の酸素不足を引き起こします。睡眠時無呼吸症候群は寝ている間だけではなく、日中の生活においてもさまざまな症状が出現する危険性があります。

主な治療法としては、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群の原因が肥満によるものとされる場合には、減量が必要になってきます。生活習慣の改善や適度な運動などに加えて、横向きで寝る、就寝前の禁酒や禁煙も効果的となります。

無呼吸の重症度によってCPAP療法やマウスピース装着を選択し、さらにこれらでは治療が困難な場合には、手術が必要となることもあります。

 

CPAP(持続陽圧呼吸療法)

持続陽圧呼吸療法はCPAP療法と呼ばれます。睡眠中にCPAP装置を装着することで、空気を気道に送り、常に圧力をかけて気道が塞がらないようにする治療です。

CPAP療法を適切に行うことで睡眠中の無呼吸やいびきが減少し、SASによる症状が改善します。CPAPは治療効果が高く、SASによる難治性の高血圧にも有効であることがわかっています。

マウスピース

マウスピースは、下顎を前方に固定して空気の通り道を開くようにするものです。寝る前に口の中に装着してのどを広げることで、気道を確保します。歯やあごの状態に合わせたマウスピースを作る必要があります。

CPAPと比べて毎晩の装着が簡単に行えて、小型で軽量のため手軽に治療継続できるというメリットがあります。重症のSASには十分な治療効果が得られないこともあります。

外科手術

気道閉塞の原因がアデノイド肥大や扁桃肥大の場合には、手術によって肥大部分を切除するという治療が有効となります。また鼻閉を起こすほどの鼻疾患を持つ場合は、CPAPやマウスピースの治療効果が得られにくく、手術が必要になります。

更年期障害

女性は閉経を迎える時期が迫ってくると、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下します。このホルモンバランスの変化によって、多彩な症状を起こします。症状の内容や程度には大きな個人差がありますが、気温などに関係なく急激なほてりや発汗を起こすホットフラッシュが有名です。ホットフラッシュによってひどい寝汗をかくこともあります。

月経前症候群(PMS)

女性は月経前の時期に寝汗をかくことがあり、その場合は月経前症候群が考えられます。排卵以降には、プロゲステロンが増加して、体温が0.3〜0.5℃上昇し、それがしばらく持続します。その結果寝汗も生じやすくなります。月経が開始すると体温が戻って寝汗も解消します。

重篤な病気の可能性も?

次に挙げる重篤な病気が寝汗の原因になっていることがあります。

悪性リンパ種

血液のがんである悪性リンパ腫は、白血球の一部であるリンパ球ががんになる病気です。悪性リンパ腫を発症すると、首や脇の下などにあるリンパ節の腫れがみられます。リンパ球がガン化して増殖することで、炎症を引き起こす物質を作って、それがひどい多汗や体重減少、倦怠感などを引き起こします。

心疾患

心疾患がある場合や高血圧があり心臓に負荷がかかる場合は、交感神経優位となります。その結果、2つの神経のバランスが崩れ不調となり、自律神経失調症へとつながります。バランスが崩れると多汗となります。

脳卒中

脳卒中は冬に多発するイメージがありますが、実は夏にも多く発症します。その原因としては、多量の汗をかくためです。多量の汗をかくと血液中の水分が減って、血が固まりやすくなってしまい、その結果血栓を形成して脳梗塞を引き起こしてしまうからです。

いかがでしたでしょうか。誰でも夜間に汗をかくものです。それは異常ではなく、正常な反応です。しかし、着替えが必要になるほどの汗を頻繁にかいたり、睡眠の質が低下するほどである場合は注意が必要です。不安に感じるほどの寝汗をかくようなら一度医療機関を受診してみましょう。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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