喉が白くなる急性扁桃炎…重症化すると扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍に

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熱が出たときに、扁桃(へんとう)腺が腫れていると言われることがあります。では、扁桃腺とはそもそも何なのでしょうか。そして腫れるとどのようになるのでしょうか。ここでは急性扁桃炎の特徴と、予防法や治療法について詳しく見ていきましょう。

喉が白くなる急性扁桃炎

喉の奥の白い膿

熱が出たときに口の中を覗くと、左右にある扁桃が赤く腫れたり、表面に白いものがついて白く見えたりすることがあります。このような状態のことを急性扁桃炎といいます。では、そもそも扁桃とは何で、どのようなときに急性扁桃炎になるのでしょうか。

扁桃とは

扁桃というのは、口や鼻の奥にある組織で、もともとはリンパ組織が発達したものです。

そもそも口や鼻からは呼吸をしたり、食物を飲み込んだりすることで異物が体内に入ってきます。このように、異物が自由に出入りできるということは体にとって有害な微生物も自由に入ってくることができるということになります。

そのため、身体は口や鼻の周りに免疫の防衛壁となる組織を作りました。それが扁桃組織です。扁桃組織は単一のものではなく、咽頭扁桃、耳管扁桃、口蓋扁桃、舌扁桃と4つの代表的なものがあります。口蓋扁桃と耳管扁桃は左右1対ありますから、全部で6つの扁桃組織が存在することになります。口を大きく開けるとそれらの扁桃組織が喉にぐるりと1周並んでいるのが確認できます。この輪状に集まった扁桃組織のことをワルダイエルの咽頭輪とも呼びます。

扁桃組織はこのようにぐるりと一周存在していますが、もっとも大きく、最も重要な役割をするのが口蓋扁桃です。口蓋扁桃のことを別名扁桃腺と呼んでいます。口蓋扁桃は口を開けたときに口蓋垂(のどちんこ)の左右に存在する大きな扁桃組織です。

では、そのように身体の入り口にある扁桃腺はどのような構造をしていてどのようなはたらきをしているのでしょうか。最も構造がはっきりしている口蓋扁桃をみてみると、表面が凸凹しているのが分かります。この凸凹は、陰窩と呼ばれます。陰窩は実は非常に深い溝となって存在しており、口腔内の空気や液体と、扁桃腺組織が触れる表面積が大きくなるようになっています。

陰窩の周りには非常にたくさんのリンパ小節があります。リンパ小節というのはリンパ球が集簇(しゅうぞく)した塊のことを言います。この塊からリンパ球が出てくることで、免疫を担います。もし感染症の原因となる微生物が口腔内に侵入してきたときには、リンパ球が多数出動し、病原体を排除します。

このように、扁桃は身体の入り口の最前線で免疫を担う重要な組織なのです。

急性扁桃炎の原因

扁桃は感染対策の最前線として存在しており、それだけ強い免疫反応を起こしうる組織とも言えます。そのため、細菌やウイルスが扁桃に付着し、細胞の中に侵入すると一気に免疫反応が起こり、扁桃組織の中にも強い炎症反応が起こります。

通常であれば炎症が起こって病原体が排除されます。しかし、全身の体力が低下したり、睡眠不足だったりすると抵抗力が低下して病原体が増殖してしまい、簡単な免疫反応では対処しきれなくなってしまいます。

一気に病原体が増殖してしまったところで、急激に免疫反応が起こる結果、非常に激しい炎症が起こってくるのです。これが急性扁桃炎の原因となります。

白く見えるものは何?急性扁桃炎の症状

急性扁桃炎ではどのような症状が起こってくるのでしょうか。症状は大きく分けて3つに分かれます。

1つ目は、喉の症状です。感染が起こっているのどそのものによる症状です。具体的には咽頭の痛み、嚥下に伴う痛みや、筋肉で繋がっている耳への痛みの放散です。炎症が起こっている場所は痛覚過敏になっていますから、少し動いただけでも痛みを感じてしまいます。

2つ目は、口蓋扁桃の所見です。具体的には扁桃自体が腫れているのが分かります。赤くなって、腫脹している状態が見られます。また、表面に白血球の遺残物である膿がたまってきます。これが白苔と呼ばれる、白っぽいものです。炎症によって出動した白血球達が表面に出てくることで、白っぽいものが扁桃の表面に付着してくるのです。

3つ目は全身症状です。発熱、悪寒戦慄、全身倦怠感などがみられます。

一般的にはすぐに治療を開始すれば予後は良好で、2~3日で症状は軽快してきます。

重症化すると扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍を発症することも

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急性扁桃炎はすぐに治療をすれば予後が良好な病気ですが、放置したり、感染症に弱い状態だったりすると感染が色々な場所に広がって思わぬ重症化を来すことがあります。

扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍はそのような急性扁桃炎に合併して起こってくる病気です。簡単に言えば、扁桃に限局していた炎症がその周囲にも広がり、広い範囲で炎症が起こっているものをいいます。

扁桃周囲に炎症が起こっている状態が扁桃周囲炎です。この状態であれば、喉の痛みが強い程度で治まりますが、扁桃周囲の炎症がひどくなり、粘膜の下で膿がたまってくる様になると扁桃周囲膿瘍と呼ばれる状態になります。

この状態になってしまうと、治療を開始して抗生物質を投与し始めたとしてもなかなか効果が無く、手術で切開して膿を押し出さなければならなくなってしまいます。

扁桃周囲膿瘍が危険なのは、膿瘍が非常に広い範囲に広がってしまう可能性があることです。頸部には非常に重要な組織が集まっていますが、血管や神経の間には間隙があり、その隙間を通って感染が広がりやすい構造になっています。

一方で、感染が広がってしまうと重要な組織を傷害してしまうため、一刻も早く治療をする必要があるのです。

扁桃周囲膿瘍を発症してしまうと喉の痛みが非常に強く、飲み込むのも困難になってしまいますし、場合によっては口を開けるのも困難になるほど強い炎症が起こってしまいます。

異常なほど強い喉の痛みを伴う発熱の際にはすぐに病院を受診して診断、治療を開始する必要があります。

急性扁桃炎を予防するポイント

急性扁桃炎を予防するにはどのようにすれば良いのでしょうか。

感染を防ぐ、風邪を早く治す

急性扁桃炎は、風邪をひいて免疫力が低下することによって発症してくることが多いです。そのため一般的に行われる風邪をひかないための予防法がまずは大事になってきます。

手洗いうがい、マスクの着用などの基本的な感染対策をすることが大切です。また、もし風邪をひいてしまった場合には、風邪が長期化することによって扁桃腺へと感染が広がる場合がありますから、早めに治療する必要があります。風邪をひいた時には無理をせずゆっくり休んで、体を休めるようにしましょう。

喉の乾燥を防ぐ

乾燥した環境というのは、ウイルスや細菌が繁殖しやすい条件となっています。湿潤していれば免疫が十分に働き、感染源を洗い流してくれます。

一般的な風邪の予防と同じように、急性扁桃炎を予防するためには部屋の中の湿度が下がりすぎないように気をつけるのが大事です。空気清浄機や加湿器を使用するといいでしょう。また、マスクの着用も喉の潤いを保つのに有効です。

免疫力を高める

ウイルスや細菌は、体の免疫力が下がることによって増殖してしまいます。これによって、急性扁桃炎が起こりやすくなりますし、急性扁桃炎が治りにくくなったり、広がって扁桃周囲膿瘍になったりするのも免疫力の低下によるものです。

免疫力が下がらないように規則正しい生活を普段から心がけて、寝不足や過労を防ぐようにしましょう。バランスの良い食事をとることも大切です。

急性扁桃炎を早く治すには?

ベッドで喉の痛みに悩む女性

急性扁桃炎は比較的早く治る病気ではありますが、稀に重症化するものですし、そもそも痛くて水分を取るのもやっとという状況ですから、早く治すに越したことはありません。早く治すためのポイントを紹介します。

安静にする

感染症治療の全てに共通することですが、現在進行形で免疫が働いている状況では免疫の能力を最大限に発揮させるため、安静にすることが大事です。安静にすることで免疫がより強く働くようになり、症状の改善が早くなります。

また、喉に対する刺激も扁桃炎を増悪させることがありますから食事にも気をつかい、なるべく固いものは食べないようにして、暑すぎたり冷た過ぎたりするものをさけ、刺激物も避けましょう。

可能であれば、急性期は水分摂取のみにとどめるのがよいでしょう。

喉が痛いからと水分の摂取を控える方がいらっしゃいますが、そのような対応は全身の状態が悪くなる原因になります。水分はしっかり摂取するようにしましょう。

病院で処方される薬を服用する

病院を早期に受診して診断、治療を開始するのが早期回復につながります。

急性扁桃炎の場合、ほとんどの場合は細菌感染症です。ウイルスの感染症と違い細菌感染症は自分自身の免疫では対処に時間がかかることが多く、抗生物質を使用して免疫をサポートすることで回復を早めることができます。

抗生剤の内服を開始したら処方分はしっかり飲みきってください。抗生剤を内服してよくあるトラブルが、飲んでもすぐ効果が無いからといってやめてしまうこと。抗生物質はあくまで細菌に対する殺菌あるいは静菌効果しかありませんから、炎症を抑えるわけではありません。ですので、症状がすぐには治まりませんが、細菌を倒す作用は発揮していますので、辛抱強く内服しましょう。

治ったと思ってすぐに内服をやめるのも厳禁です。中途半端にやめてしまうと耐性菌を作ってしまう可能性があります。再度扁桃炎になったときに抗生剤が効かなくなってしまうことがありますので、必ず飲みきるようにしてください。

扁桃周囲膿瘍の治療

扁桃周囲膿瘍は、基本的には細菌の感染症ですので抗生物質が使用されます。特に扁桃炎で収まらず扁桃周囲膿瘍に至ってる場合には、感染がより重篤化している状態と考えられますので、早期に抗生物質を患部に届かせなければなりません。

そのため、内服の抗生物質を使用することもありますが、基本的には点滴からの抗生物質を使用します。これにより、早期に治療を開始することができます。

しかし、膿瘍を作っている状態というのは抗生物質が効きにくい状態とも言えます。細菌が固まりになっていますので、表面に抗生物質が届いたとしても、奥の方の細菌には抗生物質が届かず治療効果が限定的となってしまいます。

そのため扁桃周囲膿瘍がある場合には、針を刺して中の膿を排出させたり、膿瘍が大きい場合や奥まっている場合、針を刺してもなかなか内容物が出てこない場合には切開をして中の膿を可能な限り排出します。

局所麻酔でできることはありますが、より広い範囲に広がっている場合や深いところの場合には全身麻酔で行うこともあります。ただし、全身麻酔をかける時には人工呼吸のチューブを入れなければなりません。扁桃周囲膿瘍でそのチューブを入れるところが狭くなっている時には、なかなかチューブを入れることができなくて命の危険にさらされることもないわけではありません。

扁桃周囲膿瘍は再発することがあることに注意が必要です。扁桃炎を繰り返すことによって、その炎症が周囲に広がってくるからです。

予防のために手術によって扁桃腺を摘出することもあります。通常予防的な手術は感染が沈静化してから4週間から6週間後に行いますが、抗菌薬で感染を抑えられない場合には早期に手術をする場合もあります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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