タバコが辞められない理由と、辞める方法

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タバコを個人の意思でやめるのはとても難しいものです。禁煙に失敗を繰り返した人もいると思います。ここでは、なぜタバコをやめられないのか、そして、どのようにすればやめやすいのかについて解説します。

タバコが辞められない理由

タバコをやめられない原因は、タバコに含まれる成分であるニコチンに依存性があるからです。ニコチンについて詳しく見てみましょう。

ニコチンの悪影響

タバコの主成分であるニコチンとは、アルカロイドという物質の一種とされています。化学物質としては毒物に指定されているものです。タバコの葉に含まれていて、喫煙することによって煙から体内に取り込まれます。

肺の中に入ったニコチンは、そのまますぐに血液中に取り込まれます。そして血液を介して全身に広がるのです。ニコチン自体には、 強い血管収縮作用があります。毛細血管を収縮させることで、血圧を急上昇させます。

もし一度に血液中に入ってしまうと、急激な血圧上昇による中毒症状が出現することがあります。子供が誤ってタバコの葉を食べたり、タバコが溶けた水を飲んだりすると、命に関わることがあります。

また、ニコチンそのものには発がん性はないのですが、ニコチンが分解代謝されることによって生み出されるニトロソアミン類には発がん性があることがわかっています。

ニコチンの依存性

厄介なのがニコチンの依存性です。タバコを吸うと、肺からニコチンが取り込まれ、脳のニコチン性アセチルコリン受容体に結合します。すると、快楽に関わる脳内神経伝達物質であるドーパミンが大量に放出されます。ドーパミンが大量に放出されると、強い快感を覚えるのです。

さらにはドーパミンだけではなく、覚醒や食欲を抑制することに関わるノルアドレナリンや、気分を調整するセロトニン、覚醒や認知作業の向上に関わるアセチルコリンなどの神経伝達物質の分泌を促します。
喫煙が常態化してニコチンを常時摂取するようになると、これらの神経伝達物質の調節がニコチンによって調節されるようになってしまいます。そして、これらの神経伝達物質を分泌する能力が低下します。このような状態を、身体的依存が形成された状態と言われます。

さらにニコチンには、心理的依存もあります。ニコチンを摂取しないと体調が悪くなるという風に錯覚するために、摂取をしなければならないと思い込んでしまうのです。

また、社会的依存という言葉もあります。これは、すぐにタバコを吸いに行ける環境や、タバコを吸うことによるコミュニティの形成など、タバコを吸うことによって、社会的な立場が維持できるような状態を言います。タバコを吸わなければ、人とのコミュニケーションができない環境と言い換えてもいいかもしれません。

離脱症状(禁断症状)

ニコチン依存症の状態になり神経伝達物質の分泌が低下すると、イライラしたり、集中できないという錯覚を覚えたり、頭痛や倦怠感が起こったりといった症状が出てきます。これがニコチンの離脱症状です。

離脱症状があると、よりタバコが吸いたいという欲望が強くなります。そしてその欲望が達成される、つまりタバコを吸うと、離脱症状はあっという間に軽減します。

このようにタバコを吸うことで嫌な症状がなくなるという経験も依存症をさらに強くします。 

禁煙に役立つ禁煙補助薬 

自力で禁煙するのももちろんいいのですが、依存症であることを考えると、なかなか自力での禁煙というのは難しいものです。そのような状態でも禁煙がしやすいように、 禁煙をサポートしてくれる薬剤があります。

ニコチンガム

ニコチンガムは、ニコチンが含まれたガムになります。

タバコの依存症になっている場合、ニコチン自体に対する依存症ももちろんありますが、タバコを吸うということに対する心理的、あるいは社会的な依存症も無視はできません。

そのため、まずはニコチンだけでも補充してあげて依存症の状態を軽くし、その状態でタバコを吸わないという心理的社会的な環境を整えることで禁煙を成功させようという方法です。

薬局などで売っているこのようなニコチンガムを買って定期的に噛むことで、ニコチンを体に補充します。それによって離脱症状を抑えることができるので、自力で禁煙するよりも3倍~4倍禁煙に成功しやすくなると言われています。 

ニコチンパッチ

ニコチンパッチは、ニコチンガムと同じようにニコチンを体に補充することで、依存症を軽くすることにより、禁煙を補助するための薬剤です。

仕事中など、ガムをなかなか噛めない環境にある場合に向いていますし、皮膚から継続的に吸収されるため、ニコチンが切れて不快な症状が起こることがあまりありません。

バレニクリン

バレニクリンというのは、ニコチン受容体に結合する薬剤のことです。ニコチン受容体に結合し、ドーパミンの分泌を促進します。そのため、ニコチン依存症の状態であっても、代わりにバレニクリンを内服することによって離脱症状を発生させないようにできます。

さらには、喫煙した状態でもニコチン受容体にはすでにバレニクリンが結合しているため、ニコチンがニコチン受容体に結合できなくなります。このような時には、タバコをまずく感じます。

ニコチンパッチやニコチンガムを使用しても、どうしてもタバコに手が伸びてしまうような人に向いています。

また、ニコチン自体には脳血管障害回復の初期や、重度の心疾患などの場合、状態を悪くしてしまう可能性があるためこれらの疾患がある場合には、ニコチンパッチやニコチンガムは使用してはならないとなっています。このような時にも、バレニクリンは向いています。

タバコを辞めるコツ

禁煙補助薬を使用したとしても使用しなかったとしても、最終的には本人の意志によって禁煙が成功するかどうかが決まってきます。タバコをやめるコツを紹介します。

禁煙理由を書く

禁煙する場合には、禁煙するという気持ちを高めておくことが必要です。健康のためや、家族のため、予算的な理由など、自分が禁煙したいという理由を書き出すのがおすすめです。

挫折しそうになった時にこの書き出した内容を読み返すことによって、再度禁煙のモチベーションを保つことができます。

周りに宣言する 

禁煙の気持ちが固まったら、周りの人に宣言することは非常に有効です。宣言することで、禁煙に対する意識がさらに固まります。

また、社会的依存として周りの人が喫煙に誘うような環境にあった場合、 宣言することで、このような依存を断ち切ることができます。

本数を減らすのではなく、断ち切る

本数を減らしたり、軽いタバコに変えたりしても、有害物質の吸い込みは変わりませんので、健康被害を減らすことはできません。また、少しでも吸っていると少しぐらい多くなっても変わらないという意識が出てしまい、結局元通りになってしまう可能性が高いです。

もちろんニコチン依存症の症状も解消できませんから、ニコチン切れのつらい症状がかえって多くなってしまい、禁煙が失敗しやすくなります。禁煙を思い立ったらきっぱりとやめる方が成功しやすいでしょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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