キャッスルマン病の症状の特徴とよく似た病気

お悩み

キャッスルマン病(Castleman disease:CD)は、1956年にBenjamin Castlemanがリンパ濾胞の過形成と血管増生を特徴とした良性の縦隔リンパ節腫大の症例を報告したことから始まっています。ここではキャッスルマン病の症状や、鑑別が必要になるよく似た症状の病気について解説します。

キャッスルマン病とは

キャッスルマン病とは、リンパ節の細胞が異常増殖を引き起こす病気のひとつです。

単一のリンパ節のみに発症する単中心性キャッスルマン病、いくつかのリンパ節に同時に発症する多中心性キャッスルマン病の2つのタイプに分けられますが、日本では圧倒的に後者のほうが多いとされています。

キャッスルマン病の明確な発症メカニズムは解明されていません。

欧米では、キャッスルマン病のひとつのタイプである多中心性キャッスルマン病はHIVやHHV-8の感染者に合併しやすいとの報告があり、これらのウイルス感染が発症に関与していると考えられています。

多中心性キャッスルマン病の中でもHIVやHHV-8と合併している場合には、さらに細かく分類し、HHV-8関連多中心性キャッスルマン病と呼ぶことがあります。

しかし、日本ではこれらのウイルスの感染を伴う患者数は多くありません。多中心性キャッスルマン病の中でもHIVやHHV-8を伴わないものは、HHV-8陰性多中心性キャッスルマン病や特発性多中心性キャッスルマン病と呼ばれます。

また、多中心性キャッスルマン病にかかっている人は、体内の炎症を引き起こすIL-6インターロイキン6という物質が多く産生されているケースが多いとされています。

そのため、キャッスルマン病の発症には、IL-6の過剰産生を引き起こす何らかの仕組みとの関連が考えられています。

特に、HHV8陰性の特発性多中心性キャッスルマン病(iMCD)にはこれまで標準となる診断基準がありませんでしたが、2017年本邦142例をまとめた診断基準仮案やiMCD国際診断基準が公表されています。

リンパ節病理像(血管増生型、形質細胞型、混合型)と全身性の炎症症状を特徴とし、HHV8関連MCDや症状が類似する感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、POEMS症候群などを除外したうえで診断されます。

キャッスルマン病の症状

キャッスルマン病は小児から高齢者まで全ての年代で発症する可能性があり、リンパ節の腫れとともに発熱、倦怠感、皮疹などの症状が現れます。一般的な風邪などでも起こりうる症状であるため、発見が遅れることも少なくありません。

キャッスルマン病は、リンパ節の腫れとともに発熱や倦怠感、関節痛、発汗など、さまざまな症状が引き起こされます。

リンパ節の腫れは、リンパ節内の細胞が異常増殖することによるものである一方、全身に生じるさまざまな症状は、上で述べたIL-6が増加することによるものと考えられています。

IL-6は血管の増殖と血小板(血液を固めるための細胞)の増加を促す作用が知られており、体内で産生量が増加すると炎症を引き起こすため、発熱や倦怠感といった一般的な風邪とよく似た症状が引き起こされます。

それ以外にも、体重減少、貧血、皮疹、むくみ、肝臓・脾臓の腫れ、腎機能障害、間質性肺炎という特殊な肺炎などを引き起こすことも多いです。

また、血小板が増加することで血栓ができやすくなるため、脳梗塞などを合併する可能性もあります。

これらの症状は急激に進行することは珍しく、数年にわたって慢性的にゆっくり進行していきます。

キャッスルマン病とよく似た病気

キャッスルマン病とよく似た症状を持つ次のような病気は、キャッスルマン病との鑑別が必要になることがあります。

悪性腫瘍

リンパ節腫大の原因疾患として、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、濾胞樹状細胞肉腫、腎細胞癌、悪性中皮腫、肺癌、子宮頸癌などの悪性腫瘍とキャッスルマン病を除外する必要があります。

特に、ホジキンリンパ腫とは、リンパ組織の免疫細胞が悪性腫瘍に変わりながら増殖する疾患です。

リンパ球と呼ばれる感染症と戦う白血球がDNAに変化を引き起こすと、ホジキンリンパ腫が引き起こされます。

また、免疫が抑制された患者、ウイルス感染(B型肝炎ウイルス、EBウイルス、Papillomaウイルス)、自己免疫疾患患者、特定の薬剤、環境汚染物質、放射線などが危険因子となります。

そして、家族の中にホジキン病を診断された人がいる場合、その兄弟の発症率は通常人より約7倍高く、他の直系家族の発症率は約3倍程度高くなります。

最初は、1つのリンパ節から始まり、徐々に広がり、リンパ節全体に影響を与える特徴があります。

リンパ腫は特徴的な組織様相とフクロウの目に似た特異ながん細胞(Reed-Sternberg細胞)の様相を示します。

発症年齢は主に若い年齢で発生し、長年にわたって腫瘍が徐々に成長して、患者さんの70%でリンパ節腫大が発生します。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は血液中のリンパ球ががん化する病気です。

主にリンパ節、脾臓、扁桃腺などのリンパ組織に発生するのみならず、胃、腸管、甲状腺、肺、肝臓、皮膚、骨髄、脳を含めてリンパ組織以外の様々な部位にがん病変が発生します。

悪性リンパ腫にはホジキンリンパ腫と呼ばれるものと、非ホジキンリンパ腫と呼ばれるものがあり、非ホジキンリンパ腫のほうが早期発見をしてもやや死亡率が高い傾向にあります。

悪性リンパ腫を早期発見・早期治療するために、倦怠感、発熱、リンパ節腫脹などの症状を認めたらすぐに検査を受けましょう。

感染症

非結核性抗酸菌症、猫引っ掻き病、リケッチア感染症、トキソプラズマ感染症、真菌感染症、伝染性単核球症、慢性活動性EBウイルス感染症、HIV感染症などの感染症の臨床症状もキャッスルマン病と共通している部分があります。

特に、伝染性単核球症とは、主にEpstein-Barrウイルス(EBV)の初感染によって起こり、発熱、喉の痛み、リンパ節の腫れ、発疹などを主症状とする感染症です。

ほとんどがEBVの初感染によって起こりますが、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、トキソプラズマ原虫などが原因となることがあります。

EBVは主に唾液を介して感染し、思春期以降に感染した場合に伝染性単核症を発症することが多く、kissing diseaseとも呼ばれています。

予後は良好で2~3週間で自然に軽快することが多いですが、発熱などの症状が1か月以上続くこともあります。

自己免疫疾患

SLE、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患が、キャッスルマン病と類似した臨床経過を示すことがあります。

全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus) とは、自分の免疫システムが誤って自分の正常な細胞や組織を攻撃してしまう自己免疫性疾患の1つです。

全身のさまざまな臓器に炎症や組織障害が生じる病気であり、全身性エリテマトーデスでは、この病気で特徴的に認められる検査異常に加えて全身に多様な症状が現れます。

シェーグレン症候群とは、免疫のバランスが崩れることによって涙や唾液を産生する涙腺・唾液腺などの臓器を攻撃し、眼乾燥(ドライアイ)や口腔乾燥(ドライマウス)を主にきたす病気のことです。

自己免疫性疾患(免疫の異常によって自分自身を攻撃してしまう病気)の一種であり、涙腺や唾液腺だけでなく全身の関節、肺、皮膚、消化管、腎臓などさまざまな部位にダメージが及ぶこともあります。

キャッスルマン病の予後

キャッスルマン病は症状が軽いケースでは治療を行わず、定期的な検査を行って経過を見るケースも少なくありません。発熱などの症状が強いときは、体内の炎症反応を抑えるためにステロイドの投与が行われてきました。

強い症状や炎症所見があるときは、IL-6のはたらきを抑制するトシリズマブなどの薬剤が投与されることがあります。

また、HIVやHHV-8感染が発症原因と考えられるケースでは、抗HIV薬などを併用すると、生命予後が長くなることも報告されています。

キャッスルマン病は適切な治療や経過観察を行わないと貧血などの症状が慢性化して生活の質が低下するだけでなく、時には命に関わることもあります。

まとめ

これまでキャッスルマン病の症状の特徴とよく似た病気などを中心に解説してきました。

キャッスルマン病(Castleman病)は原因不明のリンパ増殖性疾患です。

自覚症状は、無症状のものから重篤なものまで様々であり、頻度の高い症状として、微熱から中等度の発熱、全身倦怠感、易疲労感、体重減少、盗汗、リンパ節腫脹があります。

特に、リンパ節腫大の原因として、悪性腫瘍、感染症、自己免疫疾患などとの鑑別を要することがあります。

心配であれば、膠原病内科など専門医療機関を受診して相談しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

プロフィール

関連記事