腹部膨満感の原因は?鼓腸の特徴とお腹の張りを引き起こす疾患

腹痛の女性
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腹部膨満を主訴に消化器科を受診される患者さんは比較的多いですが、重篤な疾患が潜んでいることもあり注意が必要です。ここでは腹部膨満感の原因を取り上げ、お腹の張りを引き起こす疾患について解説します。

腹部膨満感の原因

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お腹全体または部分的に張った感じがすることで腹部膨満感といいます。

一般的に、腹部膨満感には「お腹が張って苦しい」、「お腹が重い」、「お腹がゴロゴロする」などの消化管にガスがたまって生じるもの、あるいは「胃が重苦しい」、「胃に不快感がある」など胃の運動機能が低下して起こる胃部膨満感に鑑別されます。

また、腹部膨満は、主に腹部全体の膨満か、局所的な膨満かに分けることができます。

腹部全体の膨満としては、鼓腸が挙げられます。

鼓腸とは、いわゆるガスがたまっている状態で、鼓腸をきたす代表的な疾患として腸閉塞、便秘、消化管穿孔などが挙げられますし、発酵性食品の摂取や、糖尿病の薬の一つであるαグルコシダーゼ阻害薬の服用に伴う副作用でも見られます。

また、腹水も腹部全体の膨満をきたし、いわゆる腹腔内に水が溜まっている状態です。

腹水を呈する原因として、代表的なものに肝硬変、心不全、低蛋白血症、低栄養状態、腹膜炎、悪性腫瘍などが挙げられます。

その他、妊娠や肥満、巨大な腹部腫瘤でも腹部全体が膨満します。

局所的な膨満の代表例としては、肝腫大(癌や肝炎など)、胆嚢腫大、胃癌、膵癌、脾腫、腹部大動脈瘤、臍ヘルニア、妊娠、子宮筋腫などが挙げられます。

鼓腸の特徴

鼓腸とは、胃腸にたくさんのガスがたまった状態です。

一般的に、腹部がはり、たたくとポンポンと鼓(つづみ)を打つような音がします。

胃に空気がたまって起こるものは、早食いの人やせっかちな人、神経質な人に多くみられ、空気嚥下症といいます。

鼓腸が急に起こって激しい腹痛を伴うときは、腸閉塞や急性腹膜炎が疑われますし、腸炎や急性膵炎でも鼓腸状態が引き起こされます。

鼓腸を認める場合には、肝硬変やがんが腹部全体にひろがって腹水がたまり、腸の動きがわるくなるために、ガスがたまることもあります。

通常、はっきりとした病気がなく、腹部がはって困るときは、便通をととのえ、食事を控えめにし、早食いをしないように注意して、炭酸飲料やビールなどは避けましょう。

腹部膨満感の原因になる疾患

腹部膨満感の原因になる疾患としては次のものが挙げられます。

便秘

便秘の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて消化管に何らかの異常がある器質性便秘、および消化管自体に器質的な異常がないが腸管の蠕動能力が低下する機能性便秘の2種類に分けられています。

典型的な症状としては、排便回数が少ないことによる腹痛、あるいは腹部の膨満感などが代表的です。

ガスの排出機能低下に伴う便秘によってお腹が張って、腹部膨満感の原因になることもあります。

慢性的な便秘が原因で腸が正常に機能しないと、お腹に溜まったガスをおならとして体外に排出できなくなってしまいます。

行き場を失ったガスは、腸内に溜まり、腹部全体を膨張させて腹部膨満感を引き起こします。

便秘で腸に便が溜まっている状態は、お腹の張りや腹痛などの症状が起こりやすくなりますし、何らかの疾患によって便秘が起こっている可能性もあるため、慢性的な便秘がある方は、消化器内科などを受診して、便秘の原因を調べて適切な治療を行うことが大切です。

呑気症

早食いなどが原因の呑気症(どんきしょう)でお腹が張っている可能性もあります。

呑気症は、別名で空気嚥下症とも呼ばれる病気であり、代表的な症状は以下のようなものが挙げられます。

  • ゲップの回数が増える。
  • ガスが溜まり、おならの回数が増える。
  • お腹が張った感じがする。
  • 吐き気や腹痛がする。

呑気症は、ストレスなどで心が疲れると症状が増強することもあって、10代という若い年代で発症することもあり、そしてその症状に悩んでいる方の多くが20代や30代の女性であるといわれています。 

呑気症の原因は、はっきりとは分かっていませんが、ストレスなどが溜まって、心が弱っている状態の時に発症しやすいともいわれています。

食事や話をする際、誰でも少なからず空気を飲み込みます。お腹が張って苦しい膨満感は、食事の際に食べ物と一緒に空気をたくさん飲み込むと起こりやすくなります。

この時に、意図せずたくさんの空気を飲み込んだことが原因で腹部膨満感を起こすのが呑気症であり、この状態ではお腹の張りだけでなく、吐き気やゲップなどが生じることもあります。

腸閉塞

通常、口から摂取した食べ物は食道、胃、十二指腸、小腸、大腸を通りながら、消化液と混ざって分解されて吸収されますが、この消化液の流れが小腸や大腸で滞る状態を腸閉塞(イレウス)と呼んでいます。

腸閉塞は、腸管が癒着したり蠕動運動の機能が低下したりするなど、何らかの原因によって内容物が腸を通過できない状態を指しています。

腸閉塞の代表的な症状としては、嘔気、嘔吐、腹部膨満感、腹痛などが挙げられます。腸閉塞に伴う症状が悪化すれば、汎発性腹膜炎など重大な疾患に繋がりますので、心配であれば消化器内科など専門医療機関を受診しましょう。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(IBS)は腹痛や腹部全体の不快感だけでなく下痢や便秘症状を伴う疾患であり、男性では腹痛やお腹の不快感をともなう下痢型、女性では便秘型として出現することが多いです。

過敏性腸症候群がお腹の張りや腹部膨満感の原因になることもあります。過敏性腸症候群は、ストレスなどをきっかけに腸の収縮運動が過剰になったり、けいれん状態になったりすることで、便秘、下痢などの便通異常、あるいは便秘と下痢を交互に繰り返す、お腹が張るといった症状のいずれかが腹痛を伴って起こる疾患です。

決して命に直結する致命的な病気ではありませんが、電車の中などトイレのないところでは非常に困るなど生活の質を著しく悪化させます。

過敏性腸症候群を発症する原因は、はっきりとはわかっていませんが、最近の研究では、何らかのストレスが加わると、ストレスホルモンが脳下垂体から放出されて、その刺激で腸の動きが悪化して、過敏性腸症候群の典型症状が認められると考えられています。

適度な運動やバランスのよい食生活を心がけるとともに、腹部が膨満した症状が継続あるいは悪化するようなら専門医療機関を受診して相談することが大切です。

まとめ

これまで、腹部膨満感とはどのような状態か、鼓腸の特徴やお腹の張りの原因になる疾患などを中心に解説してきました。

日常生活の中で、食べるとお腹が張る症状を経験した人も少なからず存在するでしょう。

このような症状が認められる際には、どのような病気が考えられるか、それぞれの疾患における代表的な原因や症状などを理解しておくことは大切です。

腹部膨満は、おなかが張って苦しい症状のことであり、腹部膨満の原因となる病気には、器質的疾患、機能性疾患、胃腸の蠕動障害などがあります。

鼓腸とは、腸の中にガスが異常なほどにたまってしまっている状態です。

これらのお腹の張り症状が数か月続き、日常生活に支障をきたしている場合は、消化器内科などの専門医療機関で診察を受けましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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