形成不全性股関節症でやってはいけないこと…進行するとどうなる?

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生まれつき臼蓋の発達が悪く、大腿骨頭が臼蓋に収まらずにはみ出している状態を臼蓋形成不全といいます。臼蓋形成不全は日本人の特に女性に多く見られ、股関節の違和感や、引っかかり感を生じさせます。また、進行すると関節唇の損傷や、骨の変形にもつながります。詳しく見ていきましょう。
<h2> 骨盤と大腿骨の構造

股関節は広い範囲の運動ができることが特徴です。前後に動かすのはもちろん、左右に動かしたり、足を外に広げるような運動もしたりします。このような細かい動きは骨盤と大腿骨頭の関係によるところが大きいです。 

骨盤には、骨盤の骨の部分に臼蓋と呼ばれる構造があります。臼蓋はすり鉢のような形をしていて、内側は非常につるつるとして動きやすい構造となっています。その一方で、脱臼を起こしてしまわないように、周囲は堤防のように盛り上がっていて、深いすり鉢状の構造を支えています。

一方の大腿骨の方ですが、大腿骨に対してだいたい60度ぐらいの角度をつけて大腿骨頭と呼ばれる構造を形成しています。この大腿骨頭は先端が丸くなっていて、前述の臼蓋にすっぽりとはまり込むような形をしています。このような角度がついていることによって、広い範囲の大腿骨の活動ができるようになっているのです。

このような2つの構造物によって、股関節は自由に動けるようになっています。しかしそれだけではすぐに脱臼してしまったり、骨が摩耗してしまったりしてしまいます。そのため股関節の大腿骨頭と臼蓋の間には軟骨があり、クッションの役割をしています。また関節の周りは筋肉や靭帯によって非常に強固に固められていて、容易に脱臼しないようになっています。 

軟骨について補足しましょう。股関節に存在する軟骨の中で役割が大きいものが股関節唇です。股関節唇は骨盤側の臼蓋部分にグルッと囲むように存在する柔らかい軟骨で、大腿骨頭を包み込んでいます。その柔らかさによって大腿骨頭は安定化され、衝撃が吸収されるようになっています。なおこの股関節唇には神経が通っていて、痛みを感じることができる組織になっています。 

形成不全性股関節症とは

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形成不全性股関節症は股関節が何らかの原因で正常な構造が保たれていないものを言います。基本的には先天性のもので、ほとんどは臼蓋形成不全です。

臼蓋は大腿骨頭の大きさの90%程度を覆っていると、十分な強度を保つことができると言われています。しかし生まれつき臼蓋が十分に発達せず、大腿骨頭を十分におおえていない場合があります。 これを臼蓋形成不全と言います。臼蓋形成不全は、日本人に多いと言われ、特に女性に多く見られます。女性は男性の2倍から3倍ぐらい多いと言われています。

臼蓋形成不全をはじめとした形成不全性股関節症があると、力が正常にかからなくなってしまい、部分的に強い力がかかってしまうことがあります。すると普通では損傷を受けない程度の力でも軟骨がだんだんとすり減ってしまい、痛みなどの症状が起こってくるほか、軟骨だけではなく骨に影響が出てきて様々な病気を引き起こすことがあります。

臼蓋形成不全の他には、先天性股関節脱臼も形成不全性股関節症の一種としてあげられます。しかし近年では、生まれてすぐに健診をすることが多く、先天性股関節脱臼を持ったまま成長することは少なくなり、有病率が低下しているとされています。そのため形成不全性股関節症というとほとんどは臼蓋形成不全を指すことになります。

形成不全性股関節症の症状

形成不全性股関節症があると、痛みだけではなく、なんとなく違和感がある、引っかかり感がある、股関節を動かした時にクリックするような音がするといった症状が起こってきます。それだけではなく、歩いている時に股関節が不安定になったり、抜けてくるような感じがして、股関節のはまりが悪いと感じることがあります。

特に股関節を曲げた時、ねじった時に痛みが出てきます。そのために、あぐらをかいたり、靴下を履いたり、爪を切ったり、車や自転車の乗り降りをしたり、足を組んだりした時に痛みを感じるのが特徴です。 

やってはいけないこと

形成不全性股関節症がある場合、無理な力がかかることによって痛みが強くなったり、損傷が激しくなったりすることがあります。例えばあぐらをかいたり、しゃがんで物を拾ったり、猫背で座ったり、重い荷物を持ったりすると、股関節に強い力がかかり、痛みがひどくなることがあります。 

形成不全性股関節症が進行するとどうなる? 

変形性股関節症の解説イラスト

形成不全性股関節症が進行するとどのような合併症が起こってくるのでしょうか。

股関節唇損傷

前述のように、関節唇は股関節を形成する重要な軟骨です。しかし形成不全があると、軟骨の一部分に力がかかりすぎ、損傷を起こしてきます。特に関節唇の中でも力がかかりやすい 上の方に当たる部分が損傷を起こしてくることが多くなります。

関節唇の損傷が起こると、足を動かす時に痛みが走ったり、違和感を感じたりします。また 足を動かした時に引っかかるような感じがしたり、ロッキングと言って股関節を動かせなくなるような状態が引き起こされたりします。股関節がぐらついたり、抜けるようなうまくはまっていないような感じも、形成不全性股関節症に引き続きおこってくることがあります。

特に痛みを生じやすいのは、前述の形成不全性股関節症の症状が起こってくる時と同じように、ねじった時やあぐらをかいた時などです。また、長時間椅子に座っている状態や、寝返りの際にも痛みを感じることがあります。 

変形性股関節症 

変形性股関節症は、長年の股関節への負担によって、軟骨や軟骨の下にある骨に損傷が起こり、だんだんと骨が変形してくる病気です。通常であれば年齢を重ねることで起こるものですが、形成不全性股関節症があると部分的に強い力が加わるなどして、若年でも変形性股関節症を引き起こすことがあります。

なお、年を重ねるにつれて起こってくるものを一次性のもの、形成不全性股関節症など何らかの病気によって起こってくるものを二次性のものと言います。 

一次性に比較して二次性は何らかの股関節異常を持っています。そのため力が変に加わりやすく、損傷が激しくなり、進行が早いという特徴があります。若くても股関節に何らかの違和感を持っている場合は、早期に治療を開始して進行を抑制することが大切です。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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