横隔膜の痙攣とは?しゃっくりやランニング中の脇腹の痛みの原因に!

運動時に脇腹の痛みを訴える女性
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横隔膜はドーム状の薄い筋肉でできた膜で、日々の呼吸で重要な役割を担っています。横隔膜は痙攣することがあり、しゃっくりや脇腹の痛みを引き起こします。ここでは、横隔膜の働きと、横隔膜の痙攣によって引き起こされるしゃっくりや、脇腹の痛みなどについて見ていきましょう。

横隔膜の場所と役割

人間は1日に平均2万回の呼吸を行っており、意識・無意識に関わらず、安静呼吸の約7割近くを担っているのは、横隔膜です。

横隔膜は名称に「膜」とあります。横隔膜はドーム状の薄い筋肉でできた膜で、胸腔と腹部とを仕切っています。人体最大の吸気筋であり、胸郭の下部にあるドーム状の筋肉です。息を吸う時、横隔膜が収縮して胸腔内が陰圧になり、胸郭が広がり、肺を拡張させて空気を取り込みます。

息を吐く時は、横隔膜が弛緩し、胸郭と肺が自動で戻り、空気を吐き出すので筋肉は使用しません。

ただし、意識して息を吐く時は、腹筋が腹圧を高め、横隔膜をさらに挙上させるため、運動時に腹筋を意識して息を吐くことで、体幹が安定して、力が発揮できるようになります。

横隔膜は、胸骨、肋骨、脊椎からなるかご型の骨組みの底面に付着していて、横隔膜が収縮すると胸腔の長さと直径が増えて、肺が膨らみます。横隔膜の上下する働きにより、肋骨などに囲まれた胸腔内の圧力が変化し、肺が膨らんだり縮んだりして、スムーズに呼吸ができます。

しゃっくりと横隔膜の関係

しゃっくりがでるはっきりとした原因は分かっていませんが、肺の下あたり、胃の上部にある筋肉の膜である横隔膜の痙攣がしゃっくりに関係していると考えられています。

この場合は、胃の膨張感が横隔膜を刺激しているため、しゃっくりが起こると考えられていて、胃のふくらみが落ち着けば自然とおさまることが多いです。

しゃっくりは、肺の下に位置する横隔膜の痙攣によって起こり、横隔膜の痙攣に連動して声帯の筋肉が収縮し、狭くなった声帯を急激に吐く息が通るために、一定間隔で「ヒック」と発音する現象が起きます。

しゃっくりは医学用語では、吃逆(きつぎゃく)と呼ばれています。

ランニング中の脇腹の痛みと横隔膜の関係

運動時に脇腹の痛みを訴える女性

ランニング時の右脇腹の痛みは横隔膜の痛み(痙攣)だといわれていて、ランニングで重い肝臓が大きく揺れ、横隔膜が引っ張られるために強い痛みが出ます。

運動中に痛みが出たら走行のスピードを落として、深呼吸や腹部マッサージなどを実施することにより症状を緩和できます。

ランニング中に起こる、肋骨下、または腹腔全体の差し込むような痛みの原因は諸説ありますが、横隔膜とその付近の筋肉や内臓への血流不足を原因とする考え方が有力視されています。

私たちの呼吸に大きな役割を果たす横隔膜は、息を吸ったり吐いたりする度に上下左右に動きますが、ランニング時には、体内の臓器も体の動きに伴って揺さぶられることになることで、横隔膜や呼吸に関係する筋肉が痙攣し、脇腹が痛くなるというメカニズムです。

横隔膜が痙攣する原因

横隔膜が痙攣する原因はいくつもあります。

早食い

しゃっくりや横隔膜の痙攣が発生する明確な原因は不明ですが、主には横隔膜が痙攣してしゃっくりを引き起こす原因としては、早食いが挙げられます。

早食いをするとしゃっくりが起きやすくなるといわれています。

早食いによって、よく噛まずに食べ物が大きい状態のままで食道を通り、食道内圧が高くなって胃にたどり着く結果、横隔膜を圧迫して、しゃっくりが発生しやすくなります。

逆流性食道炎

逆流性食道炎は、胃酸などが食道に逆流して食道の粘膜に炎症を引き起こす病気であり、主に胸やけや酸っぱい液体が胃から戻ってくるような感覚がある呑酸(どんさん)、げっぷ、しゃっくりなどの症状が現れることがあります。

また、アルコールの摂取に伴って食道の粘膜を刺激し、逆流性食道炎が引き起こされると胃酸が逆流することで横隔膜が刺激されやすくなり、しゃっくりが誘発される場合があります。

しゃっくりには脳内のGABAが関わっているとされていて、GABAは中枢神経系の抑制性神経伝達物質として、神経細胞の興奮を抑える役割があります。

アルコールを摂取すると、このGABAの制御作用が効かなくなる場合があり、飲酒の際にしゃっくりが出やすくなると考えられています。

喫煙による肺への刺激

喫煙による肺への刺激が、直接しゃっくりを引き起こす要因となることはまれであるものの、間接的にしゃっくりや横隔膜の痙攣を発生させる原因のひとつとも考えられています。

日常的に喫煙を行っている人はしゃっくりが起きやすく、喫煙によって肺や気道が刺激されて横隔膜に刺激が与えられて、しゃっくりが起こる場合があります。

また、タバコに含まれるニコチン成分が中枢神経に作用することによって、横隔膜の収縮が誘発されてしゃっくりが出ることもあります。

多量の炭酸飲料を飲む

多量の炭酸飲料の摂取もしゃっくりを引き起こす原因のひとつです。

炭酸飲料には二酸化炭素が含まれるため、炭酸飲料を飲むことで食道の中でガスが発生して、このガス成分が食道内圧を上昇させて横隔膜を圧迫し、しゃっくりや横隔膜の痙攣を引き起こすと考えられています。

まとめ

これまで、しゃっくりやランニング中の脇腹の痛みの原因になる横隔膜の痙攣の特徴を中心に解説してきました。

横隔膜は、主に腹部からの刺激によってけいれんを起こします。

生活習慣から起きている可能性が高いしゃっくりは、通常は自然に治まりますが、しゃっくりは止めようと思ってもなかなか止まらない厄介な症状のひとつでもあります。

長期にわたって継続するしゃっくりや横隔膜の痙攣を認める場合には、消化器系の疾患である逆流性食道炎などの病気が潜んでいる可能性が考えられますので、医療機関を受診して相談してみてもよいでしょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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