眠気の原因になる鉄欠乏性貧血と鉄分摂取のポイント

眠気を感じるのに原因がよくわからないといった経験はないでしょうか。もしかしたら鉄欠乏性貧血によるものかもしれません。鉄欠乏性貧血は比較的多く見られる疾患です。ここでは貧血と眠気との関係や鉄不足になる原因、鉄分を摂取するポイントについて解説します。
鉄欠乏性貧血とは

血液中には、赤血球、白血球、血小板という3種類の血球成分があります。貧血は、その中でも赤血球が足りなくなることを言います。
赤血球は、血液の中で主に酸素を運搬するために存在しています。酸素を運搬するための機能として重要なのがヘモグロビンです。ヘモグロビンは非常に酸素に結合しやすい特徴を持っていて、肺の中など周りの組織に酸素が多い状態であれば酸素をどんどんと結合し、末梢組織などの酸素が少ない場所では酸素をできる限り放出することによって、体の中に酸素を配る働きをしています。
ヘモグロビンはタンパク質ですが、中央に鉄を含んでいます。鉄のイオン化の程度によって、酸素に結合しやすいか結合しにくいかが決まります。
鉄欠乏性貧血は、その名の通り鉄が欠乏することによって、その鉄を材料とするヘモグロビンや、ヘモグロビンを含む赤血球などの数が減ることを言います。その結果として体全体が酸素不足に陥って、様々な症状が出ます。
私たちの体の中には、おおむね3gから5g程度の鉄が存在しています。多くがヘモグロビンの中に存在しているものです。赤血球の細胞自体はだいたい120日ぐらいの寿命です。それ以上経過すると形を維持することができなくなって、脾臓で壊されます。ヘモグロビンも同様に分解されるのですが、鉄だけはそのまま新しい赤血球の材料として利用されるのです。
鉄を再利用すると言っても、100%体の中で循環しているわけではありません。胃や腸などの消化管や汗から1日に1~2mg程度の鉄分が失われています。通常であれば、同じぐらいの量の鉄を食事から吸収することによって、体内の鉄分の量が維持されています。この鉄のバランスが崩れることで鉄欠乏性貧血につながります。
なお、鉄はヘモグロビン以外にも存在します。体中に運ばれる状態は、アポトランスフェリンというタンパク質を結合した状態で、トランスフェリンと呼ばれます。他には、筋肉中に酸素を蓄えるために存在するミオグロビンも鉄を材料として作られています。
鉄不足で眠くなる理由

鉄が不足するとヘモグロビンが不足し、酸素の運搬量が低下します。鉄不足になると細胞は十分なエネルギーを作り出すことができなくなり、エネルギーの不足によって、起きていようとする覚醒中枢も十分働くことができなくなり、眠気を感じるのです。
鉄不足になると眠気以外にも動悸や息切れ、疲労感などの症状が現れます。これらは酸素が不足することによって、代償的に心臓が頑張って血液の循環量を増やそうとするために起こってくるものです。
他には顔色が悪くなったり、味覚障害を起こしてくることがあります。
特徴的な症状として、スプーンネイルと呼ばれる爪の異常があります。スプーンのように爪が反り返って、割れやすく脆い爪になってしまうのです。
ただし緩徐に貧血が進行した場合、あまり症状が出てこないこともあります。症状が出る頃には非常に進行した貧血になっている場合もありますので、眠気などの気になる症状がある方は、一度検査してみるのがいいかもしれません。
鉄分が不足する原因

では鉄分はどうして不足するのでしょうか。主に3つの原因に分かれます。
鉄分の摂取不足・吸収障害
鉄分は毎日1mgずつ排出され、同じ量を食物から吸収することで体の中の量を一定に保っています。食事が偏って鉄分を十分に摂取できなくなってしまった場合には、鉄欠乏になります。
また十分に食事をとっていても、腸管がうまく働かず、吸収が十分にできないということもあります。ヘリコバクターピロリに感染している場合や、胃や十二指腸を手術で切除した後、何らかの腸管の病気がある場合などがあげられます。
鉄分の需要の増加
様々な体の活動性の上昇によって、鉄分の必要量が増えている場合にも相対的に貧血が起こってくる場合があります。鉄を材料にヘモグロビンを作っても作っても足りない状態ということです。
例えば妊娠中や、成長期などにこのような状態が当たります。また長期間にわたって、体の中で炎症が起こっている場合も消耗性に貧血が進行してくることがあります。この場合も鉄分が不足していることがほとんどです。
鉄分の排出量が多い
何らかの原因で、身体の外に鉄分が排出されてしまっている場合も、鉄が欠乏してしまいます。代表的なものが出血です。体の表面に見えるような出血であれば、すぐに止まることを確認できるので貧血にまで至ることはまずありません。
しかし、胃潰瘍からの出血など、消化管の中での出血はなかなか自然に止まらないことも多く、出血し続けることによって貧血が進行します。
また女性に多いのが、生理の量が多いという状態があります。特に器質的な異常がなくても出血が多い場合もありますが、子宮筋腫や子宮内膜症などによって出血が増える場合もありますので、生理の量が多い時には一度婦人科で調べてもらった方がいいでしょう。
鉄分摂取のポイント

次のポイントを知っておくと、鉄分を効率よく摂取できます。
ヘム鉄と非ヘム鉄の違い
鉄分にはヘム鉄と、非ヘム鉄があります。ヘム鉄というのは、鉄とポルフィリン環というものが結合した構造をしているものです。なぜこのようなものが重要かというと、ヘム鉄と非ヘム鉄には吸収率に差があるからです。
ヘム鉄は、動物の血液や筋肉、赤身の肉やレバーなどに含まれています。これらの食物の中に含まれている鉄分は、タンパク質が結合したそのままの形で十二指腸から空腸上部で吸収されることによって、体の中に入ってきます。吸収率は10%~30%と高くなっています。
一方、非ヘム鉄は野菜や穀類、豆類や海藻類などに含まれている鉄です。そのままの形では吸収されることがなく、何らかのタンパク質などに結合し還元されることによって吸収される形となります。吸収率は5%以下と低く、食物繊維などが一緒にあると吸収率がさらに下がります。
鉄の吸収を促す
腸管での鉄の吸収は、ヘム鉄であっても同時に食べる食物の成分に影響を受けます。つまり食べ合わせなどによって吸収率が変化するため、気をつけた方がいいのです。鉄の吸収率を高めるための食事のポイントを紹介しましょう。
まず1つ目はビタミンCを一緒に取ることです。ビタミンCは、非ヘム鉄の吸収率を高めると言われています。非ヘム鉄はビタミンCにより還元されて吸収されやすくなるのです。ビタミンCは熱に弱い成分なので、調理時間を短くしたり、生野菜から摂取したりするとよいでしょう。
2つ目は胃酸の分泌を助けることです。胃酸が十分に分泌されていると、鉄の吸収が高まると言われています。胃酸の分泌を促すためには、よく噛んで食べる、酸っぱい物を食べる、などが有効です。
これらのことを試してみてもなかなか鉄欠乏が改善しない場合には、鉄の製剤の内服などを検討してみてもよいでしょう。