COPD(慢性閉塞性肺疾患)はどんな病気?原因と注意すべき症状
COPDという病気の名前を聞いたことがありますか? COPDとは慢性閉塞性肺疾患の略で、肺や気管支の異常によって息を吐きだす能力が非常に弱くなってしまう病気です。
ここではCOPDの症状や原因について解説します。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは
COPDは慢性閉塞性肺疾患の略です。肺や気管の障害によって引き起こされる病気で、呼吸苦を感じます。
COPDはほとんどの場合、喫煙によって引き起こされます。喫煙による肺の病気といえば肺がんが思い浮かぶと思います。確かに、肺がんは喫煙を続けると肺がんになる可能性が高くなり、喫煙と罹患率には関連性があります。
一方で、慢性閉塞性肺疾患は喫煙を続けると徐々に増悪してくるもので、喫煙をすれば必ず発症するといってもいい病気です。
COPDは肺の障害と気管や気管支の障害とに分けられますが、いずれも喫煙によって引き起こされ増悪します。そのため、両方の病態をひとくくりにしてCOPDとよび、治療を行います。
肺気腫病変
肺はちいさな風船の様な構造をした多くの肺胞でできています。肺胞の壁の中には毛細血管が通っており、肺胞の中にある酸素を血液中に取り込み、血液中にある二酸化炭素を肺胞の中に排出します。
人は呼吸することによって外気と肺胞の中の空気を常に入れ換え続けています。これにより、外気の酸素を血液中に取り込み、血液中の二酸化炭素を外気に排出しているのです。
しかし喫煙をすると、タバコの煙に含まれる有害物質が肺胞の壁を傷害します。タバコの煙の中の有害物質は200以上あるといわれていますが、その中でも一酸化炭素、ホルムアルデヒドなどの細胞傷害物質は肺胞壁の中の細胞を破壊し、薄い肺胞壁はすぐに壊れてしまうのです。
これにより、肺胞と肺胞の間の壁がなくなり、大きな肺胞となってしまいます。肺のいたる所で肺胞が壊れて大きな肺胞となってしまった状態を肺気腫といいます。
肺気腫では、ガスの交換を行う肺胞壁が減ってしまうので、酸素の取り込みがなかなかできなくなってしまいます。
さらに肺胞壁が壊れてしまうことで問題となるのは、肺胞壁はそれ自体が肺をしぼませる力を持っているということです。
人が息を吸うときには筋力を使って胸を大きく開き、それに伴って肺が広がることで息を吸い込みます。一方で息を吐くときは筋力を緩め、肺が自分自身でしぼむことで息を吐いています。
肺胞壁が壊れてしまえばこのしぼむ力が弱くなってしまいますから、肺気腫を来すと息を吐くことが困難になってしまうのです。
末梢気道病変
喫煙による影響は、肺胞だけではなく肺胞に至る気管支にも現れます。タバコの煙に含まれる有害物質で気管支が破壊されることはありませんが、気管支の表面にある粘膜で炎症を引き起こします。
粘膜は有害物質を追い出そうとして痰を多く排泄し、咳を引き起こします。痰が多くなるために気道が狭くなり、これも空気を吐き出しにくいという症状を強くします。
また、喫煙を続け、気管支粘膜の炎症が長く続くと、粘膜が変性し、固く分厚くなってきます。そのせいでさらに空気の通り道は狭くなり、呼吸苦の症状が強くなるのです。
COPDかも?注意すべき症状
COPDの3大症状は咳、痰、息切れです。気管支や肺に障害が起こらない限り、常日頃から咳や痰が出ることはありませんから、これらの症状があれば何らかの気管支や肺の病気を疑います。
もちろん、気管喘息や気管支炎、一過性のウイルス感染(風邪)でも症状は出現します。しかしこれらの病気は基本的には一過性であったり季節性があったりするのに対し、COPDは喫煙を続ける限り症状は出続けます。もちろん年中発作が起こる気管支喘息もありますから、これだけで確定はできませんが、やはり喫煙を続けているというのは非常に重要な病歴になります。
息切れに関しては、他の人と比べて、あるいは自分の若い頃と比べて急に息切れを強く感じるようになったかを考えると良いでしょう。特に階段を上がったときに息切れを感じたり、同世代の人と一緒に歩くと息切れしたり、遅れたりする場合には酸素を取り込む力が弱まっている可能性が高いので、COPDを疑います。
COPDの原因になるタバコ
タバコを吸っているというのはCOPDを疑う重要な要素です。前述の通り喫煙は肺胞も、気管支もいずれも傷害しますから、吸えば吸うほどCOPDの状態をどんどん悪化させます。
しかもやっかいなことに、肺胞は一度壊れてしまうと元には戻りません。また、変性して固く内腔が狭くなってしまった気管支粘膜も元には戻りません。タバコを長く吸うと、それだけ後戻りができない重症COPDへと発展するリスクが伴います。
リスクが高いタバコの本数や喫煙年数
どれだけタバコを吸って体にダメージがあったかということは、医学的には「1日の喫煙本数×喫煙年数」で計算します。
例えばこの値が400を超えると、肺がんを発症する可能性が急激に上がるといわれています。
COPDに関しても同様で、400を超えてくるとCOPDを発症している可能性が高いといわれています。多くの場合、20本程度を20年程度喫煙しているのが目安となります。そのため、40歳以上の方に発症者が多くなってきます。
肺胞の細胞や気管支粘膜の壊れやすさは個人差がありますし、タバコの種類による細胞の障害度にも差がありますから、一概に値が400を超えると必ず発症するとはいえませんが、注意すべき値と言えるでしょう。
受動喫煙のリスク
喫煙者だけではなく、タバコは周りの人にも影響を与えます。タバコから出る煙や、喫煙者が吐き出す息に含まれるタバコの有害成分を吸い込むことを受動喫煙といいます。
喫煙者はタバコについているフィルターを通して煙を吸い込んでいますから、有害物質はある程度除去された状態で吸引しています。しかし、受動喫煙の場合はフィルターを通過していない煙を吸入しますから、受ける害は喫煙者以上に大きくなります。
また、タバコのにおいも有害物質を含んでいますから、喫煙者の匂いや、あるいは喫煙を繰り返している車内や室内で匂いを感じる場合なども受動喫煙と同様に肺や気管支粘膜を傷害していると考えられます。
このようにして受動喫煙でもCOPDを発症する可能性が高くなります。自分自身が喫煙していなくても配偶者が喫煙している人はCOPDを発症する可能性が高くなることが分かっています。
COPDのタバコ以外の原因
「COPDはタバコによる病気」と捉えがちですが、タバコ以外にも肺胞や気管支粘膜を傷害する原因に長く暴露した場合、COPDを発症する場合があります。
原因としては工場の煙、自動車の排気ガス、黄砂などの大気汚染物質があります。ここにはPM2.5も含まれます。工場で発生する粉塵や化学物質も原因となり得ます。
気管支喘息も、治療を行わなかったり治療が不十分だったりした場合には気管支粘膜での炎症が長く続き、末梢気道病変型のCOPDへと移行する場合があります。
遺伝や、低出生体重などにより、肺胞や気管支粘膜がもともと弱い場合もCOPDになりやすいといえます。
これらの因子だけでCOPDになってしまうとはいい切れませんが、普通の肺胞や気管支を持っている人より有害物質に対する感受性が高く、COPDになりやすい状態であると考えられます。
<執筆・監修>
徳島赤十字病院
麻酔科 郷正憲 医師
麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」