COPDを楽にする口すぼめ呼吸・腹式呼吸・在宅酸素療法
COPDにかかると、強い息苦しさを感じます。特に体を動かしたときに息苦しさが強くなることが多くあります。このようなとき、呼吸法を工夫することで少し楽になる場合があります。ここではCOPDで呼吸困難感を感じたときの呼吸法について解説します。
目次
COPD患者でなぜ呼吸法が重要なのか?
COPDの呼吸困難は、主に吸うことよりも吐き出すことが困難になってくることによって起こってきます。COPDはタバコをはじめとした化学物質の影響で引き起こされますが、特に肺気腫を中心とした病態の場合は肺胞の壁が壊れてしまうことが呼吸苦を生み出します。
肺胞の壁は弾性線維という線維を含んでいます。人の呼吸運動は肺が膨らんだり、縮んだりすることで行われます。肺が膨らむときには筋力を使って肺を外側から引っ張って広げてやることで広がります。一方、肺が縮むときには肺胞壁の弾性線維が縮むことで肺がしぼみます。肺気腫の場合には肺胞の壁が壊れて少なくなっていますから、肺が縮む力が失われ、吐き出す力が弱くなってしまうのです。
ですので息を吐き出しにくいときに呼吸をなるべくしやすくするために、呼吸法によってサポートしてあげることが重要になってくるのです。
特にCOPDが急性増悪し、回復過程にあるときには呼吸法を工夫して生活を行うことで息苦しくて動きにくい状態を避けて生活できます。さまざまなトレーニングや呼吸法を使用することで呼吸をしやすい体を作ることを呼吸リハビリテーションといいます。
口すぼめ呼吸の目的とやり方
COPDの患者さんの特徴的な呼吸法に、口すぼめ呼吸という呼吸があります。この呼吸をすることによって呼吸苦の症状が楽になることが多くあり、医師による指導がなされる他、患者さん自身で習得することも多い呼吸法です。
口すぼめ呼吸は口をすぼめてゆっくり息を吐き出す呼吸法です。口をすぼめると息を吐き出しにくくなるのでは?と思うかもしれませんが、この呼吸法のポイントは気管支を広げてやることにあります。
元々COPDの患者さんは肺気腫だけではなく、気管支にも障害が起こっています。さまざまな要因によって気管支に炎症が起こり、気管支が狭くなっているのです。肺はしぼみにくく、気管支は狭いというダブルパンチで息を吐き出しにくくなっているのです。
口すぼめ呼吸は、口をすぼめて息を吐いて空気がなかなか出にくい状態を作り、気管支の中にたまる空気を増やすことで、気管支内圧を上げます。気管支の内圧が上がると、気管支が少し広がります。気管支が広がることで、肺胞からなかなか出てこられない空気を吐き出しやすくすることができるのです。
具体的には、2秒ほどゆっくり息を吸い込みます。そして、口をすぼめて約4秒、吸うときの2倍程度の時間をかけて息を吐き出します。これをしばらく繰り返すことで、肺の中にたまって出てこられなくなっていた空気を外に出すことができます。
口すぼめ呼吸を実践するときの注意点
口すぼめ呼吸は確かにCOPDに効果的な呼吸法です。しかし、無理に力をかけすぎると、呼吸筋の疲労を招き、かえって状態が悪くなってしまう場合があります。口すぼめ呼吸を実践する際にはいくつかの注意点があります。
まず1つ目は、口すぼめ呼吸をどのようなタイミングで行うのかです。効果的なタイミングは、動作を始めるタイミングで口すぼめ呼吸をすることになります。今から呼吸をしっかりしなければならないという時に口すぼめ呼吸をすることによって、気管支を広げることができ、その後の呼吸が楽になってきます。
他のタイミングとしては、日常生活の中でも特に呼吸がしんどくなるようなタイミングがあります。例えば、階段を上り下りするタイミングや、長期間歩くようなタイミングで口すぼめ呼吸を行うのが良いでしょう。
いずれにしても、長い時間連続して口すぼめ呼吸を行ってしまうと、酸素を取り込みすぎてしまったり、二酸化炭素を排出しすぎてしまったりすることで、体調が悪くなることがあります。ちょうどいい長さであれば動きをスムーズにしてくれますが、長すぎると状態が悪くなってしまうので適度な分量に留めるようにしましょう。
腹式呼吸の目的とやり方
腹式呼吸はよく「お腹で息をする」といわれる呼吸法で、横隔膜とお腹の筋肉をしっかり動かすことで呼吸を行う方法です。
先ほど説明した通り、息を吸うのは筋力によりますが、息を吐くのは肺が自分でしぼむ力によります。ただし、例外として筋力を使用して息を吐く方法が、お腹の筋肉を使った呼吸です。
横隔膜は息を吸うための筋肉です。腹式呼吸で横隔膜を使用するとお腹が押し下げられます。これによってお腹が膨らみます。そして息を吐くときに、お腹に力を入れるとふーっと力強く息を吐き出せると思います。これは腹筋などお腹の筋肉を使用してお腹を凹ませることで横隔膜を押し上げ、肺がしぼむのを助けているのです。
腹式呼吸だけをしても、空気の通り道が狭くなっていてはなかなか息を吐くのは難しいですから、口すぼめ呼吸に加えて腹式呼吸を行うことが重要です。
そして、この腹式呼吸は息が苦しくなったときに行うのも良いのですが、普段から行うことで筋力が鍛えられます。筋力が鍛えられることで普段から息を強く吐き出すことができるようになり、呼吸苦が起こりにくくなります。
日常生活での呼吸法のコツ
息苦しさが強くなったときの対処法としての呼吸法を紹介しました。加えて、次に紹介するような呼吸の工夫によって、日常生活で息苦しくなりにくくすることができます。
起き上がるとき
起き上がるときに急に起き上がると、無意識のうちに息をこらえてしまい呼吸苦を引き起こします。ゆっくりと呼吸を整え、口すぼめ呼吸を行って息をはきながら体を起こすのが良いでしょう。
もしもまっすぐ上体を起こして起き上がるのが苦しいのであれば、まず体を横向きにしてから、片方の肘をついてゆっくりと体を起こしていくのが良いでしょう。腹筋だけではなく、腕の筋力も使って起き上がることで呼吸への負担を防ぎます。
歩くとき
COPDの患者さんが普段から呼吸の能力を高くするためには歩行訓練が重要です。よく歩くことで呼吸をするための筋力や心肺能力を高めることで呼吸苦を起こりにくくすることができます。しかし多く歩こうとして速く歩いてしまうと息苦しさが強くなります。ゆっくり長い距離を歩くことが大切です。
歩行するときは、まずは呼吸を整えます。腹式呼吸と口すぼめ呼吸を繰り返しながら呼吸を整えてから歩くと良いでしょう。そのリズムに歩行を合わせていきます。このとき、息を吸うときより吐き出すときに2倍程度の時間をかけます。
特に歩行はリズムを生み出しますから、歩行のリズムと呼吸のリズムをうまく合わせることで上手に呼吸することができます。例えば2歩進むときに息を吸い、4歩進むときに息を吐く、という具合です。リズムよく、ゆっくりと行いましょう。
もし息苦しさが強いなら、歩くスピードや呼吸のスピードを調節して、決して無理をせず行います。また、すぐに多くの距離を歩くのではなく、少しずつ長い距離を歩けるようにトレーニングしていきましょう。
階段を上がるとき
階段を上がるのは非常に呼吸に負担がかかる運動です。足を持ち上げるために腹筋を使用しますから、腹式呼吸が行いにくくなります。ですから、呼吸苦が強いときや、歩行が少ししかできないときには階段を避ける生活を心がけましょう。
歩行がある程度の距離できるようになったら、階段を上るトレーニングも取り入れます。階段を上るときも、歩行のときと同じように呼吸のリズムに注意しながら行っていきます。つまり、息を吸う時間より吐く時間に2倍の時間をかけて、歩行のリズムに合わせて行います。
手すりがあれば手すりで体を支えながら、息苦しくならない程度に階段を上りましょう。
息苦しくなったとき
気をつけていても体を動かしすぎてしまったり、急に体を動かしたりすると息苦しさが出てきます。
このとき、焦って空気を取り込もうとして口を大きく開けてしまうと逆効果です。呼吸苦は吐き出せないことによって起こっていますから、口すぼめ呼吸と腹式呼吸が重要となります。
姿勢はややうつ伏せが良いですから、椅子に座って机にもたれかかったり、肘を膝についたりした体勢をとります。立っているときは壁にもたれて前屈みになります。
呼吸のリズムに集中して、粗い呼吸だったとしても吐く時間に集中して、なるべくゆっくりと、そして口すぼめをしながら呼吸を行います。
このように、息苦しくなったときに息切れをスムーズに回復させることをパニックコントロールといいます。しっかりとパニックコントロールができるように普段から意識しましょう。
痰の出し方(排痰法)
COPDの場合、少しでも肺胞が使用できなくなるとあっという間に呼吸苦になってしまうほどギリギリのバランスで呼吸を保っています。
一方で、呼吸をするための気管は炎症を起こしており、結果として痰がたくさん産生されています。また、息を吐き出せないだけでなく気管支内の物質を外に出す能力も落ちていますから、痰が産生されてもそれが吐き出せず、気管支は容易に痰で詰まってしまいます。
そのため、普段から痰が詰まってしまわないように気をつけることが必要です。痰を吐き出すことを排痰といい、この方法を知っておくことは呼吸苦を引き起こさないために重要です。
排痰をする前に、脱水を避けることで、なるべく出しやすい水っぽい痰にしておくことが大切です。必要に応じて痰を出やすくする薬を使用します。
痰を出すときは、胸部や背部を振動させることで痰を動かしやすくします。手のひらで前胸部を自分でトントンとたたいたり、他の人にたたいてもらうことで痰を動かし、吐き出しやすくします。それからゆっくりと息を吸って「はーっ」と強く吐き出します。
自宅で行える在宅酸素療法
COPDが進行して、酸素の取り込みが非常に悪くなってしまった場合には、自宅で酸素を吸入する在宅酸素療法という選択肢があります。
在宅酸素療法とは
在宅酸素療法は、Home Oxygen Therapyの頭文字を取ってHOT(ホット) と呼ばれます。
体中の臓器や筋肉は酸素がなければ動くことはできません。体に取り込まれる酸素の量が低下してしまうと、息切れなどの症状が起こったり、臓器の不調が現れてくることがあります。
COPDの場合、酸素の取り込みが非常に悪くなり、体の中の酸素が欠乏します。そのため、吸入する酸素の濃度が通常の21%よりも高くなるように、酸素を常に吸い込むようにするのが在宅酸素療法です。
在宅酸素療法で用いられる機器には大きく分けて2種類あります。1つ目が、自宅で使用する酸素濃縮器です。空気中の酸素を取り込んで濃度を高くし、チューブで鼻に届ける仕組みです。もう1つが、小型の携帯酸素用ボンベです。ボンベの中には酸素が詰まっていて、同じように鼻にチューブで届けます。
在宅酸素療法が必要な人
在宅酸素療法が、健康保険の対象となる病気としては次の4つが挙げられます。
- 動脈血ガスでPaO2が60%以下の人
- 肺高血圧症
- 慢性心不全
- チアノーゼ型先天性心疾患
これらは、酸素を取り込む能力が落ちていたり、十分に酸素化(酸素が血液に取り込まれること)されない血液が全身に巡ったりする病気ですから、在宅酸素療法によって酸素を多く取り込み、全身に酸素を届ける必要があるのです。
在宅酸素療法の前提として、病態が安定していることが挙げられます。急激に心不全が悪くなっている場合や、肺炎が起こっている場合など、状態が刻一刻と進行するような状態の場合は、入院してそうした疾患の治療を行います。在宅酸素療法は慢性的な低酸素状態や、酸素需要が増加している状態のときに適用となります。
在宅酸素療法に期待できる効果
在宅酸素療法によって酸素不足を改善させると、息切れや動悸といった自覚症状が改善します。また他覚的所見として、歩行距離など運動能力の改善を期待できます。
その他にも、入院回数を軽減したり、集中力が改善したり、心臓への負担が改善することによる心不全の発症予防ができたりといった効果が期待できるでしょう。低酸素が持続すると肺高血圧症や心不全が起こってしまいます。在宅酸素療法はこれらの予防に役立ちます。