COPDにおける運動療法のメリット…筋肉は息切れを改善する?

お悩み

COPDが重症化してくると動くだけでも息切れがしてきて、なるべく安静にした方が良いのではないかと思ってくる方も多いでしょう。

しかし、安静にしていると筋肉が使われずにどんどんと衰弱していってしまい、COPDがさらに増悪してしまいます。

もちろん無理に動くと息切れしてしまいますから、できることからコツコツと運動を進める事が重要です。

ここではCOPDにおける運動療法について説明します。

COPDと筋肉の関係

COPDは呼吸器の病気ですが、筋肉が非常に重要なファクターになっています。呼吸のために肺を動かすのは筋肉です。また筋肉を維持して身体活動を続けることはCOPDを悪化させないためにとても重要です。COPDが筋力に対してどのような影響を及ぼすのかを見てみましょう。

COPDによる筋力低下

体の筋肉は使わなければだんだんと衰えて萎縮していってしまいます。筋トレをしている人をイメージすれば分かるように、トレーニングを日々続けていればどんどん筋肉が発達し、トレーニングをやめてしまえば筋肉は衰えます。

日常生活で体を動かすことは、筋トレほどではありませんが筋肉を動かし、日々使用する筋肉をトレーニングしているようなものです。

しかし、COPDの症状が出現してくると、息切れが起こるようになり、動くことがおっくうになってきます。いつもなら1日1万歩歩いていた人が、息苦しさを感じて歩くのが大変になってくると、6000歩しか歩けなくなってしまう。そうすると、普段より歩く量が減ってしまいますから、歩くために必要な筋肉が衰えてしまいます。

歩くだけではなく、他のちょっとした運動も息苦しさのためにしたくなくなり、筋肉がどんどん萎縮してしまいます。

身体活動レベルの低下

COPDの影響で筋力が落ちると、体を動かすために必要な筋力も落ちて、体を動かすための力がなくなってきてしまいます。

また、筋肉が少なくなると、同じような身体活動をしたとしても乳酸がより多く産生されるようになります。乳酸は疲労物質ともいわれる物質で、乳酸が血中に多くなると血液が酸性に傾き、疲労感を感じやすくなったり、呼吸が荒くなったりします。

COPDのせいで少し動いただけでも息切れがしていたうえに、少し動いただけで疲労感が強くなったり呼吸が荒くなったりしますから、動くことが非常におっくうになり、だんだんと活動量が低下してしまうのです。

息苦しさの悪循環

COPDで呼吸苦が出始めると、あまり体を動かさなくなり、筋力が低下します。筋力が低下したせいで体を動かすことがよりしんどくなり、さらに体を動かさなくなってしまいます。体を動かさなくなれば、さらに筋力が低下してしまいます。

このようにCOPDの症状が出始めるとどんどんと体を動かさなくなり、筋力が低下し、息苦しさが増強します。これを息苦しさの悪循環といいます。

COPDの場合、肺や気管支に集中した治療だけではなく、筋力を維持することも症状を抑えるための重要な治療となるのです。COPDにおける運動療法のメリット

先に述べたとおり、COPDでは筋力が低下して全身の身体活動レベルが低下し、息苦しさが増強してしまいます。ですので、筋力を維持して身体活動レベルを低下させないことは、息苦しさの悪循環を防ぐために重要となります。

また、呼吸リハビリテーションも重要です。COPDは息を吐き出すことが困難となる病気です。息を吐き出すことは肺が自分自身で収縮する力によりますが、COPDが重症化してくると肺自身の収縮力が低下してきますから、普段は使用しない筋肉を利用して肺がしぼむのを助けてやることが必要となります。そのため、特に腹式呼吸を行えるように腹部の筋力を維持することが重要となります。

また、COPDで筋力を維持することには炎症を抑える利点もあります。COPDは酸素の取り込みが低下することから全身で炎症が亢進します。炎症が起こるとそれだけでエネルギーを消耗しますから、倦怠感が強くなって息苦しさが増強します。

一方で筋肉はアイリシンという物質を分泌しています。アイリシンは全身の炎症を抑える作用がありますから、運動によって筋力が維持されると、全身の炎症を抑え、倦怠感を抑えることができるのです。

運動療法を行い、筋力を維持することでCOPDによる息苦しさの進行を抑えるだけではなく、症状の改善を目指すことができるのです。

運動療法を安全に行うコツ

運動療法は決して無理をせず、体に負担がない程度に行います。

基本的にはCOPDが急激に悪くなっている際には運動療法を行ってはなりません。肺や気管支の状態が悪いと酸素の取り込みが悪くなり、息も吐き出しづらくなり、どんどん状態が悪くなってしまいます。

医師の指示の元に状態がいいときに行いましょう。病状にもよりますが、気管支拡張薬を吸入してから運動するのが良い場合も多くあります。

運動療法で気をつけるポイントは大きく分けて、運動の頻度、強度、時間、種類の4つがあります。

運動の頻度は、大体週に3~5回程度が適しているといわれています。あまり少ないと、衰弱の方が強くなってしまい、運動の効果が出ません。逆に多すぎると消耗が激しくなってしまいます。

運動の強度は、すこし息切れする程度が目安とされます。楽すぎず、キツすぎずといったところでしょうか。

運動の時間は1回20分以上が推奨されます。運動の種類によりますが、少し息が上がる程度までは行うのが良いでしょう。

運動の種類については次の項目で詳しく取り上げます。

運動の種類

運動の種類は有酸素運動、筋肉トレーニング、ストレッチの3種類です。現在の症状や体の状態によって必要とされる運動は異なってきますから、医師や理学療法士の指示に従って必要な運動を行いましょう。

有酸素運動(全身持久力トレーニング)

有酸素運動は、普通に息を吸って吐いてしながらできる程度の運動です。最も行いやすく、効果的なのが歩行トレーニングです。

ゆっくりと息をしながら行える程度に散歩などを行います。呼吸の目安はゆっくり会話をしながら歩行ができる程度です。最初は短い距離からでもかまいません。可能な範囲で徐々に歩く距離を増やしていきましょう。

筋力トレーニング

筋トレはあまり無理をすると乳酸の蓄積から強い呼吸苦を来してしまい、かえって運動能力を低下させることがあります。他の運動に比べて呼吸苦を悪化させる可能性が高い運動になりますから、注意しながら行いましょう。

呼吸リハビリテーションは呼吸筋の筋力トレーニングになります。呼吸をサポートするために少しずつでいいので行いましょう。

足の筋力トレーニングを行うと歩行など他の運動を行いやすくなります。椅子に座って足先を持ち上げる運動や屈伸、スクワットなどが向いています。ゆっくりと行いましょう。

余裕があれば、腹筋や背筋など体幹を支える筋肉のトレーニングを行うとより生活が楽になるでしょう。

ストレッチ(柔軟性トレーニング)

筋肉が固くなると運動をしにくくなってしまいますから、ストレッチによって筋肉をゆっくりと動かして筋肉を固まりにくくします。

ここでも呼吸はゆっくりと行い、なるべく息を止めずに行うことがポイントです。

立った状態で行うと息切れを起こしやすいですから、そのような場合は座った状態で上半身のストレッチをしっかり行いましょう。背中をそらしたり、肩をしっかり動かして伸ばしましょう。

可能なら、ストレッチと筋力トレーニングを組み合わせてもよいでしょう。少しずつでいいですから、できることを増やしてCOPDの急性増悪が起こりにくいからだを作りましょう。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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