切除にデメリットはある?扁桃腺の役割と手術する場合とは
病院で扁桃腺を取った方がいいと言われることがあります。自覚症状はないのに手術をするとなると、本当に必要なのか、手術をして本当によいのかと疑問に思う方もいらっしゃると思います。ここでは扁桃腺の手術について詳しく解説します。
目次
扁桃腺の役割
扁桃腺は、口蓋扁桃とも呼ばれる組織です。人の体は常に細菌やウイルスなど、異物の侵入にさらされていますが、もっとも多い侵入経路は口や鼻から、食事や呼吸に伴って侵入してくるルートです。
そのため、口や鼻の周りには免疫細胞が集まるための組織がたくさんあり、これを扁桃と呼んでいます。扁桃はのどにたくさんあり、輪のように口や鼻からの進入口を取り囲んでいます。
そのなかでも最も大きく、目立つのが口蓋扁桃です。口蓋扁桃は口を大きく開けると、口蓋垂の左右に見える表面が凸凹した組織です。その他の扁桃組織としては、咽頭扁桃、耳管扁桃、舌根扁桃などもあります。
扁桃組織は、免疫系が最も発達する小児期に大きくなります。特に5歳から7歳の頃には非常に大きくなる場合があります。その後、免疫が落ち着くに従ってだんだんと小さくなってくるのです。
この大きさの変化は、免疫の能力が成長する過程によります。扁桃に集まってきた免疫細胞は、そこで体を守るためのさまざまな能力を手に入れます。扁桃は病原菌の侵入を防ぐための関所であるとともに、免疫細胞の修練施設でもあるのです。
そのため、日常的に修練のために大きさが保たれているだけではなく、細菌やウイルスの侵入があった場合には大きく腫れ上がります。リンパ球や好中球などの白血球が扁桃腺に集まり、侵入してきた病原体に対して攻撃を仕掛けます。この反応を炎症反応といい、扁桃は腫大、発赤をきたし、痛みを伴います。これが急性扁桃炎です。
急性扁桃炎は、病原体が体に侵入しようとするのを口の入り口のところで食い止めるための大事な反応なのです。
扁桃炎が腎炎や皮膚疾患につながることも
このように扁桃は免疫の要となる場所となりますが、時に体の他の部分の病気の原因となる場合があります。と言うのも、免疫に関する細胞が集まってきますが、全てが正常に働く免疫細胞とは限らないためです。
免疫細胞は、ウイルスや細菌など、自分自身以外の物体が体に侵入してきたときに排除するようにコントロールされています。しかし時折、自分自身の体を異物と誤認してしまい、自分の体に攻撃を仕掛けることがあります。これを自己免疫疾患と言います。
扁桃組織の場でも同じように、誤った免疫反応が発生してしまうことがあります。これにより、誤った免疫反応を起こす免疫細胞ができてしまい、体の他の部分で自分自身を攻撃してしまうことで種々の病気を発生させてしまうことがあるのです。
例えばIgA腎症という腎臓病があります。これは、免疫細胞が腎臓を攻撃してしまうことで腎臓の機能が落ちる病気です。実は扁桃にある、とある部分の構造が、腎臓にある構造と非常に似通っています。そのため、扁桃のその部分に対する免疫反応を起こしてしまう免疫細胞ができてしまうと、腎臓が攻撃され、IgA腎症がおこってしまうのです。
おなじように扁桃でできた異常な免疫によって、皮膚には掌蹠膿疱症という病気が起こってきたり、胸肋鎖骨過形成症という胸の辺りの骨の異常がおこったりしてしまうことがあります。
これらの病気以外にも、アレルギー性紫斑病、尋常性乾癬などの病気も扁桃での免疫異常が原因となっている場合があると言われており、これらの病気はまとめて扁桃病巣疾患と呼ばれています。
扁桃腺の手術を行う場合とは
では、扁桃摘出術はどのような場合に行われるのでしょうか。
扁桃肥大
小児で最も多いのがこのケースです。免疫細胞が能力を獲得するために扁桃が大きくなりますが、大きくなりすぎてしまうことで呼吸に影響を与えてしまうことがあります。
起きている間に症状を感じることは少ないのですが、寝ると非常に大きないびきをかいたり、子どもなのに睡眠時無呼吸症候群の症状を呈したりすることがあります。このような場合は放置すると睡眠が過度に傷害され、成長発達に影響を与えるとされています。
そのため、扁桃を摘出して呼吸を楽にすることで睡眠の状態を改善するのが小児の扁桃摘出術の主な理由となるのです。
なお、前述の通り、5~7歳程度を最大としてその後はだんだんと小さくなっていきますから、症状が軽い場合は小さくなることを見越して手術を行わずに経過を見ることもあります。
扁桃炎
扁桃炎を繰り返す場合も手術適応となります。
扁桃腺は免疫の門番ですから、異物が入ろうとすると免疫反応が起こります。これが急性扁桃炎です。急性扁桃炎は、抗生物質を利用して治療することで次第に炎症は治まり、扁桃は元に戻っていきます。
しかし体質的に、何度も急性扁桃炎を繰り返す人がいます。急性扁桃炎が何度も繰り返されると慢性扁桃炎という状態になってしまいますし、そもそも年に何回も高熱と咽頭痛を繰り返してしまうのは困ったものです。
そのため、年間でだいたい4回以上急性扁桃炎を繰り返している場合には扁桃摘出術が考慮されます。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群の全例で手術を行うわけではありませんが、睡眠時無呼吸症候群を持っている人の中で扁桃が通常より大きい場合は、扁桃が大きいことで睡眠時無呼吸症候群がおこっていると考えられます。
その場合、扁桃を摘出することで症状が改善することがあり、扁桃摘出術が考慮されます。
扁桃病巣疾患
IgA腎症や掌蹠膿疱症などの扁桃病巣疾患は、扁桃で異常な免疫細胞が産生されることが原因でした。扁桃が存在すると、異常な免疫細胞がそのまま産生され続けることになりますから、病気が改善しないことになります。
そのため、IgA腎症の場合にはまず扁桃摘出を行ってから腎臓の治療を行う場合がほとんどです。掌蹠膿疱症やその他の疾患は、扁桃が原因ではないことも多いですから、まずは治療をしてみてその後に治療効果が不十分な際に扁桃摘出を検討する場合もあります。
扁桃腺の手術のデメリットはある?
前述の様に、扁桃腺は免疫の要です。そのため、扁桃を摘出することで免疫の力が低下して感染症にかかりやすくなってしまうのではないかという懸念が出てきます。
確かに、扁桃摘出を行った後は、一時的に免疫グロブリンという免疫に関わるタンパク質が減少しているというデータがあります。免疫グロブリンは細菌感染の際に細菌が入ってきたという標識となるタンパク質です。しかしその数が減っても細菌が侵入してきたときには十分な指標となるだけの数は確保されるとされており、問題は無いと考えられています。
実際、扁桃摘出をしてもしなくても、その後の感染症罹患率は差が無かったというデータがあり、現在では扁桃摘出はその後の免疫反応には影響しないという考え方が一般的となっています。
免疫が活発な子どもでもそうですから、大人の場合はなおさら問題は無いという考え方です。少なくとも扁桃手術をしないことによるデメリットより、手術することによるデメリットの方が圧倒的に小さいですから、扁桃摘出が必要となったのであれば手術を行うのがよいでしょう。
扁桃腺との違いは?アデノイドとは
喉の奥には、免疫をつかさどる扁桃組織が扁桃腺以外にもたくさんあります。扁桃腺のことを口蓋扁桃と言いますが、それ以外にもいくつもあります。
その中でも、上咽頭と呼ばれる口を開けて見える部分よりももっと上の部分の喉にあるのがアデノイドです。正式名称を、咽頭扁桃と言います。
アデノイドの働き
アデノイド自体の働きとしては扁桃腺とほぼ同じです。免疫細胞がたくさん常駐していて、鼻や口から入ってくる異物に対して免疫反応を起こします。詳しく説明すると、アデノイド表面の部分に、上皮細胞や、M細胞と呼ばれる細胞、樹状細胞と呼ばれる細胞などが侵入してきた異物を認識して、免疫応答する細胞に情報を伝達します。リンパ濾胞と呼ばれるリンパ球が集まってできている組織はその情報をもとに、リンパ球が活性化して、様々な免疫応答を起こすのです。
アデノイド増殖症とアデノイド顔貌
アデノイドは、通常であれば空気の通りを邪魔することはありません。しかし、何らかの異常が起こることによってアデノイドが大きくなりすぎると、鼻の奥を塞いでしまうことがあります。こうなってしまうと、鼻づまりがひどくなって口呼吸になります。
短期的な影響としては、寝ている時のいびきや睡眠時無呼吸などの症状の原因となってきますし、口呼吸の影響で口が乾くということもあります。声の出方が変わってくることもあります。
長期的には、口呼吸が長く続くことによって、アデノイド顔貌という、一般的には締まりがないような顔と言われるような顔になってきます。口の周りの筋力が低下して口元の筋肉がたるんだり、上顎が前に突き出たり、唇が分厚くなったり、歯並びが悪くなったり、といった特徴があります。
他には、アデノイド増殖症によって中耳炎が起こってくることがあります。耳は奥には耳管と言って、耳と喉をつなぐ管があります。この管があることによって、鼓膜の内側と外の空気との圧力の差をなくすことができるのです。しかしアデノイド増殖症によって空気の通りが悪くなると、この耳管も詰まってしまいます。すると、中に存在する細菌が増殖して炎症を引き起こし、中耳炎になります。
自然退縮について
アデノイドは基本的には自然に退縮していきます。だいたい5歳児を超えた頃には生理的に退縮していって、小さくなっていくのです。退縮のスピードには個人差がありますが、概ね12歳頃までにはかなり小さくなっています。
しかし、まれに中学生になってもアデノイドが大きい子供もいますし、ごく稀には大人になっても残っていることがあります。
そのため、アデノイド肥大症がある場合、年齢と症状によって治療法が大きく異なってきます。軽い症状である場合や、若年者である場合には様子を見ることがほとんどです。
アデノイド切除術を行うことも
アデノイドが大きくて症状が強い場合には、アデノイド切除術を行う場合があります。1歳から3歳頃であれば、睡眠時無呼吸が極めて重症な場合に手術を行うことがありますが、この頃は退縮が期待されるため手術することは稀です。
5歳前後の場合には、中耳炎を合併する場合や副鼻腔炎の症状が強い場合、睡眠時無呼吸症状が長く続くような場合に手術を検討します。
10歳以降になってくると、口呼吸や鼻閉が慢性化して、集中力が低下するなどの合併症がある場合に手術を検討してきます。