狭心症の種類と更年期女性に多い微小血管狭心症の治し方

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心臓を動かしている心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず24時間必要としています。

その栄養となる血液を心臓に送る役割をしている血管は、大動脈が心臓の左心室から出た部位で枝分かれしている左右の冠動脈です。

狭心症という病気は、心臓に栄養を送る血管である冠動脈に動脈硬化が引き起こされることで血管の内側が狭くなり、心筋への血流が乏しくなることで発症します。

一方、微小血管狭心症は、閉経後の女性に多く見られ、診断のつけにくい病気として知られています。

ここでは狭心症の具体的な種類を取り上げ、また狭心症は心筋梗塞とどのように異なるかを詳しく解説していきます。

狭心症ってどんな病気?

心臓はおよそ握り拳ぐらいの大きさの臓器であり、主に心筋と呼ばれる筋肉組織から構成されています。

これらの心筋が収縮および拡張運動を繰り返して全身に血液を送りだすポンプのような役割を担っています。

狭心症という病気は、心臓の筋肉組織に重要な酸素成分や栄養要素を供給する冠動脈という血管と多大に関与しています。

冠動脈の内側に微小な血栓やコレステロール成分が貯留することで血管の内径が狭くなると、当然のことながら血液の流れが悪くなることで心臓に十分な栄養分を供給できなくなります。その結果として、胸痛症状や胸の圧迫感などの症状が現れます。

狭心症の原因はほとんどが動脈硬化であることが知られており、加齢に伴って誰にでも発症する可能性があります。

狭心症の種類

狭心症の種類は、発作の現れる様式や胸部症状が出現する頻度やタイミングなどによって主に4種類に分けることができます。

  • 労作性狭心症
  • 異型狭心症(冠攣縮性狭心症)
  • 不安定狭心症
  • 微小血管狭心症

順に見ていきましょう。

労作性狭心症

仕事など身体の動作をしている際や激しい運動を行ったときに胸痛発作を自覚するタイプを労作性狭心症と呼んでいます。

労作性狭心症では、冠動脈が動脈硬化により血管壁が障害されて血流が悪くなっているため、運動などの動作で心臓に負荷がかかると十分な酸素を心筋に運ぶことができなくなり、胸部症状が出現すると考えられています。

この場合の胸痛症状は多くの場合には数分程度で軽快することが多く、ニトログリセリンという冠動脈を拡張させる作用を持つ薬剤を使用すると症状が改善しやすいと言われています。

異型狭心症(冠攣縮性狭心症)

次に、狭心症の中でひとつの亜型タイプと考えられている異型狭心症(冠攣縮性狭心症)について説明していきます。

異型狭心症では、心臓の冠動脈が一時的にけいれん様の変化を起こし、心臓に十分な血液が供給できなくなることで胸痛発作が生じます。

主に明け方や夜中、あるいは就寝中や安静時において胸の痛みや胸部違和感などを代表とする症状が自覚されるのが特徴です。

異型狭心症は日本人の罹患率が高いことで知られており、長期的な喫煙習慣や飲酒歴、あるいは寒冷刺激や過大なストレス、そして遺伝学的な要因がその発症に深く関連していると分かってきました。

不安定狭心症

冠動脈が急に完全に閉塞すると、心臓の筋肉に栄養が運べずに心筋が壊死することを急性心筋梗塞と呼称しています。狭心症の中でも発症してからすぐに心筋梗塞という病気に移行する危険なタイプを不安定狭心症と呼んでいます。

例えば、胸痛発作の回数が頻繁に増加したとき、胸部症状が持続する時間が長いとき、あるいは労作時のみならず安静時にも発作が出現するときには不安定狭心症が疑われますので、速やかに医療機関を受診して医師の診察を受けることが重要です。

微小血管狭心症

弁膜症や心筋症などを含め、これまで心臓病を患ったことが無い場合に、ごくわずかな冠動脈の血行障害のために心筋の虚血性変化が一時的に引き起こされることがあります。

これを微小血管狭心症といい、労作や運動などと無関係に胸部圧迫感が自覚されるのが特徴です。

動脈硬化を原因とする他のタイプの一般的な狭心症と比較すると、発症しやすい年齢は若く、最も罹患率が高い層は概ね40代後半から50代前半の女性であると言われています。

中年期の女性はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの分泌量が減少し始め、また生活面でも複雑な問題をかかえやすく、心身の不調が認められやすいと考えられています。微小血管狭心症について、さらに詳しく見てみましょう。

更年期女性に多い微小血管狭心症

微小血管狭心症(Microvascular angina,MVA)は、心表面冠動脈の末梢に位置する直径100μm以下の動脈 (細動脈、前細動脈)の拡張不全や攣縮により狭心症状を生じる疾患です。

微小血管狭心症では、大きな冠動脈の攣縮と異なり、典型的な症状は、みぞおちを中心とした短時間の胸部圧迫感ではありません。

主に、呼吸困難感、吐き気、胃痛などの消化器症状、背部痛、顎やのど、耳の後部などへの放散痛、動悸など多彩な不定愁訴であることが多く、その持続時間も数分ではなく数時間に及ぶ場合もあります。

微小血管狭心症と更年期の関係

微小血管狭心症は、主に閉経後の女性に罹患数が多いとされ、病態として女性ホルモンの関与が考えられています。

女性ホルモンであるエストロゲンには、心血管系に対する種々の保護的作用(血管弛緩作用・脂質代謝改善作用・抗酸化作用など)があります。

一般的に、閉経前の女性で男性と比べ動脈硬化による虚血性心血管疾患が少ない背景としては、エストロゲンの抗動脈硬化作用によるものと考えられていて、閉経後にはエストロゲンの保護作用を失い、女性でもこのような虚血性心疾患が増加します。

微小血管狭心症という狭心症は、大きな冠動脈の血管で起こる狭窄ではなく、発作時の心電図の変化も少なく、心臓カテーテル検査による冠動脈造影でも画像として検出できません。

微小血管狭心症は、非常に細い末梢の血管が一時的に収縮するために起こるもので、更年期前後の女性に見られることが多い狭心症です。

微小血管狭心症の治し方

まずは更年期前後の女性にこのような診断のつけにくい微小血管狭心症があることを知っておくことです。

専門的な薬物治療としては硝酸薬が無効であることが多く、カルシウム拮抗薬やβ遮断薬の内服が有効とされています。

微小血管狭心症の病気の主体は血管の内腔を覆っているとても大切な一層の膜である血管内皮と考えられているので、この血管内皮に障害をきたす原因になる高血圧、脂質異常症、糖尿病、メタボリック症候群などを適度な運動と食事で予防します。

普段から大量飲酒や喫煙をしないこと、ストレスをため込まないことで微小血管狭心症の発症も避けることできます。

微小血管狭心症と診断されて、薬を予防的に服薬しても症状がなかなか収まらない場合には、専門的に診断治療を行っている施設で詳しい検査を受けましょう。

狭心症と心筋梗塞の違いとは?

これまで述べてきたように、狭心症という病気は、冠動脈の血管の壁が動脈硬化や攣縮などの変化によって狭くなり、心筋への血液補給が健常時よりも不足した状態のときに発症します。

一方で、冠動脈が詰まり血液補給が途絶えて心筋が壊死に陥る状態を心筋梗塞と呼びます。狭心症では心筋の障害がない、または少ないのに対して、心筋梗塞では確実に心筋が障害されます。

急性心筋梗塞は突然胸部に激痛が起こる、あるいは胸に締めつけられるような圧迫感を自覚する症状を呈し、命に係わる危険な心臓病と言えます。

心臓のポンプ機能は、心筋が収縮と拡張を繰り返すことで維持されていますが、万が一心筋梗塞を起こして心筋の一部が機能しなくなると、ポンプ機能が正常に働かずに心不全などを引き起こしてしまうことに繋がります。

さらに、急性心筋梗塞では心筋壊死と並行して心室細動という危険な不整脈を合併しやすく、そうなった場合には特に電気的除細動処置など適切な治療が生死を分けることになります。

心筋梗塞を発症した場合は、すぐに救急車で病院に搬送して迅速に治療を実施する必要があります。

まとめ

心臓 診察

心臓が正常に動き続けるために必要な酸素と栄養素を送るための栄養血管が冠動脈です。

心臓における正常な心筋活動を適切に維持して確保するためには、冠動脈の血管内を十分に豊富な栄養を含む動脈血が円滑に流れていることが必須条件となります。

狭心症という病気においては、動脈硬化などによって冠動脈の血管の内径が狭くなることで締め付けられるような胸の痛み、あるいは冷や汗や息苦しさなどが伴うことがあります。そういった症状を認めた際にはすぐにかかりつけの医師などへ相談して下さい。

また、心筋梗塞という病気は、狭心症と違って心筋虚血を起こして心臓の筋肉が壊死することが特徴的であり、一歩間違えれば死に至る危険な病気であることを認識しておきましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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