COPDの合併症と併存症…心疾患をはじめとする注意が必要な病気

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COPDは長年の喫煙などによって肺・気管支に不可逆的な損傷が蓄積し、呼吸苦や咳・痰が続く病気です。COPDのやっかいなところは、COPDだけではなく多くの合併症を伴うことです。

COPDの症状だけでも体に負担となりますが、合併症が存在することで体への負担がさらに強くなってしまいます。治療も大変なものとなり、合併症の中には命に関わるものもあります。

ここではCOPDの合併症や併存症について紹介します。

合併症と併存症の意味

合併症と併存症はいずれも同じ時期に2つ以上の関連する病気が存在する状態をいいますが、両者には次のような違いがあります。

合併症とは

合併症というのは、ある病気が原因となって他の病気を発症することをいいます。例えば糖尿病がある人は血管にダメージが蓄積し、脳梗塞や心筋梗塞などの病気を発症してきます。この場合、脳梗塞や心筋梗塞は糖尿病の合併症ということになります。

併存症とは

併存症というのは、ある病気と関係なく、あるは共通の原因による2つ以上の病気が存在することをいいます。

例えば糖尿病の患者さんは心筋梗塞または脳梗塞を発症する人が多く、中には心筋梗塞と脳梗塞を両方もっている患者さんもいます。この場合、心筋梗塞と脳梗塞を併存症と呼びます。

COPDに併存する心疾患

COPDの患者さんは長年の喫煙を続けた人が多く、喫煙による影響を受けることが多くなります。喫煙が心臓に与える影響としてタバコの煙に含まれる血管障害性物質による動脈硬化がおこっていることに加え、生活習慣の乱れなどからさまざまな負担が心臓にかかります。さらに、COPDの合併症として心疾患も起こります。

動脈硬化の影響は、高血圧を来します。高血圧が存在すると心筋が肥大します。さらにそのまま放置するとだんだんと心筋はへたってきてしまい、今度は心筋が薄く弱くなってしまい、心臓の収縮力が落ちてしまいます。すると、風邪などのちょっとした原因で呼吸苦や心不全を来します。

動脈硬化は心臓を栄養する冠動脈にも起こります。冠動脈に動脈硬化が起こると血管が狭くなり、ついには血流が不足し、心筋梗塞を起こしてしまいます。心筋梗塞が起こると心臓の筋肉は弱くなり、不整脈が起こったり、心不全を起こしたりします。

このように、COPDに併存する心疾患は心不全の原因となり、呼吸苦の原因となります。

さらに、COPDがあると肺の血液の流れが悪くなります。特に肺気腫の場合、肺胞の壁が壊れますから血液の流れが悪くなります。肺は心臓の右室から血液を送り出していますから、肺への血液が流れにくくなると右室、そして右心房への負担が増えてしまいます。この状態を肺高血圧といい、長く続くと右室や右心房の負担が限界を超え、右心不全という状態になります。右心不全では腹水がたまったり、肝臓の機能障害が起こったりします。

COPDに併存する呼吸器疾患

COPD自体が呼吸器の病気で、さらに呼吸器疾患を併存すると非常に重い呼吸苦をきたすことになります。

COPDではよく喘息が合併します。気管支粘膜が炎症を起こすと粘膜が過敏になってしまい、何らかの刺激で容易に気管支が収縮してしまいます。これが喘息発作です。COPDでは喫煙などの影響で気管支に炎症が引き起こされますから、喘息を発症しやすい状態といえます。ある研究では、COPD患者の約19%が喘息を合併しているといわれます。

また、COPDは喫煙によって引き起こされますが、喫煙は肺がんの原因としても有名です。COPD患者は肺がんを併存している場合も多く、定期的な診察が重要です。

COPDで息を吐き出す能力が低下しているということは、気道内の異物を吐き出す能力も低下しているということです。ですので、細菌などが簡単に入り込んでしまい、肺炎を引き起こしやすくなります。COPDがあると抵抗力が低下してしまいますから、肺炎にかかると重症化する危険が高くなります。

COPDに併存するさまざまな疾患

COPDを発症する患者さんのほとんどに喫煙歴があります。喫煙を続けている人はその他の生活習慣も乱れている傾向があり、さまざまな病気を併発していることが多々あります。

COPDに並存するさまざまな疾患について見てみましょう。

メタボリック症候群

生活習慣の乱れで起こりうるのがメタボリック症候群です。COPDの約30%にメタボリック症候群が併存しているといわれます。特に糖尿病の合併が多いです。

メタボリック症候群というと肥満を思い描く方は多いでしょう。しかし、COPDが存在し、だんだんと体力を消耗してきてしまうとどんどんと痩せが進行してしまいます。そのため、なかなかメタボリック症候群であるという認識がなく、COPDの増悪で病院へ救急搬送された際に非常に進行した糖尿病が見つかる、ということもあります。

とくにメタボリック症候群では心臓や血管にダメージが起こることがあり、心不全や心筋梗塞といった心疾患の他、脳梗塞や末梢動脈狭窄などが起こりえます。これらはいずれも喫煙、そしてCOPDで増悪しますから、お互いに悪影響を及ぼし合います。

睡眠時無呼吸症候群

アメリカでのデータですが、COPD患者は睡眠時無呼吸症候群を併存する頻度が高いという報告があります。両者の共存はオーバーラップ症候群と呼ばれ、COPDの患者さんに対しては必ず睡眠時無呼吸症候群を検索しなくてはならないといわれています。

両者を合併すると、夜間の酸素の取り込みが非常に悪くなり、また二酸化炭素の排泄が悪くなることからCOPDが増悪します。さらに、いずれも肺高血圧を増悪させるとされ、心臓にも負担がかかります。

ただし、この報告はアメリカのデータという事に注意が必要です。先に説明した通り、日本のCOPD患者さんは非常に痩せているのが特徴ですが、アメリカでは元気な若い頃にCOPDがどんどん悪くなるという傾向があり、メタボリック症候群によって肥満の状態でCOPDを発症する場合が多いといわれています。

肥満が睡眠時無呼吸症候群の発症につながるとされていますから、COPDに睡眠時無呼吸症候群を併発しやすいというのは納得できます。しかし、痩せるのが基本の日本のCOPDではこの傾向は異なるかもしれません。

骨粗鬆症

肺気腫の治療にはステロイド剤を使用します。特に肺気腫が急性増悪した際には静脈注射や内服で全身投与されます。ステロイドを全身投与すると骨粗鬆症が進行するため、経過が長く治療を何度も繰り返す重症のCOPDに骨粗鬆症が併発することがあります。他にも全身の消耗から骨粗鬆症が進行することもあります。

うつ病

肺の病気でうつ病が起こるのは意外かもしれませんが、比較的多く認められる合併症です。中でも若年で発症した場合、女性や心血管疾患がある場合のCOPDで頻度が高いとされています。また、重症化し、一秒率がひどく低下した場合にも合併率が上昇します。

やはり呼吸苦が常にあるような状態では心理的負担が強く、うつ病を発症してしまうようです。

また、先と同じようにステロイドの全身投与をした場合、うつ病を発症しやすくなるといわれているため、重症の発作を繰り返した場合にもうつ病の発症率が高くなります。

このようにCOPDにはさまざまな疾患が並存します。禁煙し、COPDの発症を予防することが大切です。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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