若い人が大動脈解離を発症する理由…マルファン症候群や血圧との関係

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大動脈解離とは、大動脈の中膜に生じた亀裂から血流が偽腔内に流入し剥離する大動脈疾患の一つです。

急性大動脈解離は突然胸や背中に激痛が走る病気であり、放置してしまうと死に至ることがあります。

ここでは若い人の大動脈解離と関連のあるマルファン症候群や、なりやすい人の傾向、予防法について解説します。

大動脈解離になりやすい人の傾向とは

大動脈解離の発症には、動脈硬化、高血圧、喫煙、ストレス、高脂血症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、先天性大動脈2尖弁やMarfan症候群、Ehlers‐Danlos症候群などの遺伝性疾患などのさまざまな要因が関係すると考えられています。

大動脈解離の発症が多い年齢は男女とも70代とされていますが、40代や50代で発症することも稀ではなく、性別でみると女性に比べ男性で約2~3倍多くみられます。

また、大動脈解離の発症は、夏場より冬場に多い傾向があり、夜よりも日中、特に午前6時から12時くらいの時間帯に発症することが多いとされています。

このあと詳しく見ていくマルファン症候群は、遺伝子の異常が原因で組織と組織を繋ぐ結合組織が脆弱になり、全身で細胞の弾力性が弱くなる病気であり、血管壁を弱体化させて大動脈解離などを引き起こすことが知られています。

その他にも遺伝性の危険因子として嚢胞性中膜壊死なども存在します。

マルファン症候群とは

通常、大動脈解離は高齢者に多い症状ですが、マルファン症候群の方の場合は20~30代の年齢層で起こることが多く、10代でも起こることがあります。

フランスの小児科医アントワーヌ・マルファンが1896年に報告したことから、マルファン症候群という名前がついたとされています。

症状のないまま経過し、突然背中や胸の痛みとともに大動脈解離や大動脈瘤破裂を発症して命を落とすケースもあります。

マルファン症候群は、5000人に1人程度という比較的稀な病気ですが、気付かずに放置してしまい、ある日突然大動脈解離などの合併症を起こして、若くして命を落とすようなケースもあります。

細胞と細胞を繋ぐ結合組織が先天的に弱く、骨格・眼・心臓血管・肺などに症状が現れる病気です。マルファン症候群の症状の出方には個人差があり、若いうちには症状が出ない方もいるため、マルファン症候群を発症していても症状に気づかない場合もあるでしょう。

発症しやすい人の傾向

マルファン症候群に代表される結合組織の先天性異常に基づく遺伝疾患において、家族性大動脈解離の報告が散見されています。

先天性の遺伝子疾患で、原因となる遺伝子はフィブリリン1(FBN1)であり、それ以外にもトランスフォーミング増殖因子β受容体1、2型(TGFBR1,2)などが原因遺伝子として判明していますが、未解明の原因遺伝子が存在するのではないかと考えられています。 

約75%が遺伝によって発症するため、家族歴のある方は検査を受けておくと安心でしょう。

マルファン症候群の代表的な症状は、高身長や細く長い指など特徴のある骨格、水晶体のずれ・強い近視など眼の症状、大動脈解離・大動脈瘤・大動脈弁閉鎖不全など心臓血管の症状、あるいは自然気胸など肺の症状が挙げられます。

これらの症状は、必ずしもすべて現れるわけではなく、症状の現れ方には個人差があり、年齢を重ねるごとに徐々に症状が出てきます。

動脈硬化と血圧の関係

動脈硬化とは、食事、運動、喫煙、飲酒などに関する生活習慣が影響して血管の状態が悪くなり血流が十分に健全に全身に送れなくなる病気のことを指しています。

動脈硬化を引き起こす代表的な原因としては、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。

高血圧症は日本において約4000万人以上にも及ぶ国民が罹患していると指摘されており、高血圧を制御することによって大動脈解離の発症を抑制することが期待されています。

軽度の高血圧であれば無症状で経過することも少なくありませんが、高血圧の状態を放置していると、動脈硬化を悪化させて大動脈解離など死に至る病気を発症させることから、さまざまな合併症を未然に防止するためにも早期から改善に取り組むことが肝要です。

大動脈解離の予防につながる血圧のコントロール

血圧の適切なコントロールによって大動脈解離の予防につなげるには次のような方法が有効です。

塩分制限

大動脈解離を予防するためには日常的に塩分制限を始めとした食生活の見直しが重要なポイントになります。

大動脈解離を予防するためには日常的に塩分制限を始めとした食生活の見直しが重要なポイントになります。

血管の老化現象である動脈硬化から高血圧など生活習慣病に進展して、大動脈解離を発症することが予想されるので、血圧を良好に保って大動脈解離の発症を予防するために日常生活において塩分の過剰摂取を控えることが重要であると考えられています。日本高血圧学会によれば高血圧症を患っている成人で1日6g未満の塩分摂取量を推奨しています。

動脈硬化を改善させて塩分制限を行う際にお勧めの食事内容としては、生野菜のサラダ、海藻類、野菜炒め、きのこ炒め、野菜スープなどが挙げられます。

きのこや海藻類には血圧を安定化させる効果を有するマグネシウムやカルシウムなどのミネラル成分が含まれているので高血圧を予防して動脈硬化を改善するのに役立ちます。

また、たんぱく質が含まれる脂身の少ない鶏肉、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれているいわしやさば、さんまといった魚介類、豆腐や納豆などを代表とする大豆製品を食べると動脈硬化を予防改善することが期待できます。

体重のコントロール

もともと肥満である人が1kg減量すると、血圧は約2㎜Hg程度下降するといわれます。 

日々の運動などを実践して減量することで血圧は下がりますが、急激な減量には弊害もありますので、適度に運動することで長期的な計画を立てて減量を目指しましょう。

大動脈解離の発症を効率的に予防するためにも常日頃からバランスの取れた食事だけでなく定期的な運動に取り組み、体重をコントロールすることが重要です。

飲酒・喫煙を控える

血圧を上昇させる原因のひとつといえば、タバコを吸う、あるいは過度に飲酒することが挙げられます。

飲酒や喫煙が血圧に与える影響はすさまじく、1本吸うだけで上の血圧が20mmHg程度上がり、1日に30~40本吸うヘビースモーカーでは1日中血圧が高い状態となって血管壁の劣化や動脈硬化が進展すると考えられています。

過去の研究でも、飲酒および喫煙と高血圧の発症との間に有意な正の関係が認められており、飲酒量を減らして禁煙することで、高血圧の発症リスクを抑制できるのではないかと考えられています。

薬物療法

高血圧があると血管の動脈硬化が起こりやすく、慢性的に血圧が高いと心臓や血管への負担が高く大動脈解離の発症に繋がります。

慢性的な高血圧症に対して、生活習慣の見直しだけで血圧値の改善が認められないケースでは、降圧剤を用いた血圧管理を実行する必要があり、基本的には高血圧の治療については生活習慣の改善と、薬物療法を組み合わせて実践されることが多く見受けられます。

広く用いられている降圧剤の種類には、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体拮抗薬、カルシウム拮抗薬、利尿剤などが挙げられます。

まとめ

これまで、大動脈解離になりやすい人の傾向や予防法などを中心に解説してきました。

大動脈解離の発症原因は、動脈硬化や糖尿病、高血圧、喫煙、高脂血症、ストレス、睡眠時無呼吸症候群、マルファン(Marfan)症候群をはじめとした先天的な遺伝性疾患などが考えられており、特に高血圧は重要な危険因子となっています。

高血圧症を発症させる要素としては、塩分過多、肥満、運動不足、アルコール、喫煙などが知られています。

高血圧症を患うと血管に常に多大な負担がかかるため、血管内壁が傷ついて動脈硬化を起こし、大動脈解離などの重大な病気の発症につながります。

高血圧症は治療によって改善することが期待できますので、大動脈解離の発症を事前に予防するためにもかかりつけ医に相談し、適切な診断、治療につなげられるようにしましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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