「心臓が大きい」と言われたら?心肥大に関係のある病気
健康診断や人間ドックの検査結果で、胸部レントゲン写真や心電図所見から「心肥大の疑いがあり、精密検査が必要です」と指摘され、心配になって専門外来を受診する方も少なくありません。
心肥大とはどのような状態なのでしょうか。ここでは心肥大の症状や関連する病気について解説します。
心肥大とは
心肥大とは、心臓の壁が厚くなって通常よりも大きくなった状態のことを指します。肥大そのものは心臓の4つの部屋のどこでも起こりますが、多くが左心室(左室肥大)、次いで右心室 (右室肥大)に生じて、心房自体の肥大頻度は非常に少ないと言われています。
心肥大を引き起こすもっとも多い原因は高血圧とされています。それ以外にも心臓弁膜症、先天性心奇形、肥大型心筋症など心臓に関連する病気も心肥大の原因となりますし、病気ではないものの、持久力を要するスポーツを続けることで「スポーツ(またはアスリート)心臓」と呼ばれる心肥大を引き起こすことも知られています。
心臓は全身に血液を送るポンプの役割を担っており、ほとんどの心肥大は左心室(心臓に4つある部屋のひとつ)の壁が分厚くなって左心室が正常よりも筋肉質になる状態を意味しています。
正常より心臓が筋肉質になる心肥大という状態は、心臓の出口が狭くなっている大動脈弁狭窄症や心臓を出た後の圧が上昇する高血圧症という病態が主な発症原因となります。
心肥大のリスク
肥大した心臓の筋肉は、本来の筋肉組織の一部が硬い組織に置き換わる線維化と呼ばれる変化が起こることが分かっており、この線維化は電気的に異常な回路を形成することがあります。
そうした観点からも、心肥大の最大の問題は、通常よりも突然死の危険性が高くなるということであり、急に重症で致死的な不整脈が発症するリスクが考えられます。
心肥大がある方の中で命に係わる不整脈を起こす人は必ずしも多くはありませんが、心肥大と初めて指摘されたのであれば適切なタイミングで精密検査を実施する必要性が高いと考えられます。
医療機関では、心肥大を起こす原因疾患の治療が中心となり、肥大そのものに対する直接的治療はあまりなく、一度肥大した筋肉をもとに戻すことも難しいと考えられているため、専門治療の目的としては現状以上に心臓が肥大しないように治療することが原則となります。
心肥大の症状
心肥大そのものは自覚症状が乏しいと言われていますが、日々の生活の中で疲れやすくなる、動悸を感じやすい、息切れや呼吸困難を自覚する、顔面や足が浮腫を起こす、食欲不振や胸痛などの症状が認められる場合には、心肥大を考慮する必要があります。
心筋の肥大が長期にわたって続くと、心臓の収縮力が低下すると共に、身体を動かしたときに動悸や息切れ、全身倦怠感などの心不全に矛盾しない症状が出現します。
心肥大の病状が進展すると、心臓の機能が低下するため全身に十分な血液が送り出せなくなって、胸部圧迫感や全身の浮腫などの症状が現れるようになりますし、種々の不整脈の発症リスクも高くなることが知られています。
スポーツ心臓とは
心臓に負担がかかる病気がない場合でも心肥大が生じることもあります。
その代表的な原因として、マラソンやトライアスロンなど持久力が必要な運動を続けることで、少ない心拍数で多くの血液を送り出すことができるように体が自然に順応して、心臓の筋肉が発達するスポーツ心臓が知られています。
一部のスポーツ選手は心臓が通常よりも大きいことが知られていて、ある種の特殊なスポーツを長期間継続しているうち、スポーツに適する形態や機能に変化したスポーツ心臓では、筋肉が発達しています。
そのため、1回あたりの心臓の収縮でたくさんの血液を送り出すことができて、安静時の脈拍数が1分間当たりで40台であることも決して稀ではありません。
アスリート心臓と言われることもあり、高い負荷がかかる運動中は血圧が上昇するために心肥大を招くことが知られていて、自転車競技など高い持久力を求められる競技を行っている選手などにおいて心肥大の発症リスクが高いと指摘されています。
心肥大に関係のある病気
心肥大に関係のある病気としては次のものが挙げられます。
高血圧
数々の心臓病で心肥大が起こりますが、特に著しい肥大を起こす病気は、心臓に高い血圧の負荷がかかる高血圧症です。
心臓の壁に負担をかけて心肥大を引き起こすもっとも多い原因は高血圧と考えられていて、高血圧によって全身へ血液を送り出すのに心臓に過度な負担がかかり、自然と心筋が厚くなって心肥大を引き起こします。
高血圧において心肥大を助長するのは、十分な血液循環を維持するための代償反応によるものです。
高血圧が改善されずに心肥大が進行すると、次第に心臓が弱ってきてポンプ機能が低下し、動悸や息切れなど心不全に準じた症状が出現しやすくなります。
心臓の病気
心臓弁膜症や心室中隔欠損などの先天性心疾患といった心臓に負担がかかる病気も心肥大の原因となりますし、狭心症や心筋梗塞が存在すると心肥大が発症する確率が高まり、病状が進展すると心不全に陥る場合があります。
心臓病の死亡率のうち約半数を占める狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、生活習慣病でもあり、動脈硬化や心肥大が関連して発症する病気として知られています。
大動脈の病気
心肥大に関係する大動脈の病気の一つに、大動脈瘤が挙げられます。
大動脈弁の機能不全が引き起こされて血液が心臓に逆流する疾患である大動脈弁閉鎖不全症は、大動脈の一部が拡大する上行大動脈瘤などが原因となることもあります。
大動脈弁閉鎖不全症は、心臓に近い大動脈基部が瘤化して大動脈弁が拡張し、大動脈から血液が逆流することによって増加する心臓の負荷を補うため、心臓の筋肉が厚くなり、心肥大に至ります。
そして、肥大した心臓は虚血状態になりやすく、狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患の発症や命に直結する不整脈などを含めて心臓病につながる恐れがあります。
まとめ
これまで、心肥大とはどのような状態か、スポーツ心臓や心肥大に関係のある病気などを中心に解説してきました。
心肥大は、心臓の壁が厚くなって心臓自体が大きくなった状態のことです。
心臓の壁は筋肉でできており、血液を常に全身に送り出す役割を果たしているため、心臓の壁を形成する筋肉には大きな負担がかかっています。何らかの原因でさらに大きな負担がかかると筋肉の細胞が大きく変性して心肥大を招きます。
心肥大を引き起こす原因で最も頻度が多いのは高血圧症であり、それ以外にも大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などが考えられます。
心肥大の多くは自覚症状がなく、健康診断などで偶然発見されるケースも少なくありません。放置すると心機能低下を招くこともあるため、異常を指摘された場合は適切なタイミングで専門医の診察を受けて相談することが大切です。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。