アルコールによる病気を防ぐ!休肝日の効果と目安とは

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アルコールの飲みすぎが肝臓の病気につながることはよく知られています。アルコールの摂取量を減らし、肝臓への負担を軽くするために「休肝日」を設けるとよいと言われています。

ここではアルコールの飲みすぎによって生じる病気や、それらを未然に防ぐことが期待できる休肝日の考え方について解説します。

アルコールの飲みすぎで引き起こされる病気

アルコールの飲みすぎは次に挙げるように、アルコール依存症やさまざまな肝臓の病気を引き起こします。

アルコール依存症

アルコール依存症とは、長期間にアルコールを大量に飲み続けることに伴って、アルコールを摂取しないと居ても立っても居られなくなる状態のことです。現在のところ日本では約80万人以上がアルコール依存症に罹患していると推定されています。

アルコールは適量の摂取であれば深刻な健康被害を引き起こすことはありませんが、大量の摂取を長期に渡り継続していると脳の構造や仕組みが変化して、猛烈にアルコールを欲する体質に陥ってしまいます。

アルコール依存症になると、慢性的に気持ちが高ぶり、常日頃からイライラする、あるいは動悸や発汗、手の震え、頭痛、不眠などの身体症状が出現しやすくなると考えられています。

本疾患においては、アルコールの過剰摂取に伴う肝障害などを発症するばかりでなく、朝から飲酒をする、仕事中に隠れて飲酒するなど日常の社会生活に大きな支障をきたすケースも少なからず存在します。

アルコール依存症の原因は、本人の意志の弱さや特定の性格傾向が直接的な原因ではなく、長期間続けてエチルアルコールという依存性薬物を過剰に摂取してきたことです。
通常、アルコールは適量の摂取で留めておけば適度な高揚感や食欲増進などをもたらして、健康に大きな被害を与えることはありません。

ところが、長期間過剰にアルコール摂取を続けるとアルコールが常に体内に存在することが正常な状態であると誤認識されて、神経系の神経細胞の性質が変化し、血液中のアルコール濃度が低下すると、神経のバランスが破綻して離脱症状が出現します。
そして、アルコールへの欲求が過剰に高まり、アルコールを摂取するためにはなりふり構わず行動するなどの異常変化が認められることも稀ではありません。

脂肪肝

アルコールに関連する脂肪肝は、アルコールを大量に飲むことによって、肝臓の働きに変調をきたして、肝臓の細胞の30%以上に中性脂肪が貯留して肝臓が大きくなった状態を意味しています。

近年では、過栄養や運動不足、肥満傾向のため本邦において脂肪肝の罹患者数は増加していて、脂肪肝の一部は、慢性肝炎(脂肪肝炎)や肝硬変に至り、さらに病状が進展すると肝不全や肝臓がんを発症することも想定されています。

一般的に、脂肪肝をきたす原因としては、アルコールの過剰摂取、肥満症、糖尿病以外に、中性脂肪高値などの脂質異常症、甲状腺機能亢進症、ステロイドなどの薬剤によるものがあります。

通常、アルコールは肝臓に運ばれて分解されますが、過剰にアルコールを摂取した場合は肝臓でのアルコール分解処理能力を低下させて、肝臓に中性脂肪が溜まることに繋がって、アルコール性脂肪肝が生じると考えられます。

いわゆる大酒家(エタノール摂取が1日100g以上で週5日間以上飲酒する人)のおよそ8割以上の方に脂肪肝が認められますし、BMIが25以上では30%以上、BMIが30以上の場合には約80%以上の方に脂肪肝が認められます。
脂肪肝に関連する症状としては、慢性的な倦怠感や疲労感、食欲不振、嘔気、右肋骨下周囲の痛みなどが挙げられます。

アルコール性肝炎

アルコール性肝炎は、アルコール性肝障害のひとつであり、長期にわたる大量の飲酒が原因で肝臓に炎症を起こす病気として認識されています。

一般的に、アルコール性肝障害のなかには、脂肪肝、肝線維症、アルコール性肝炎、肝硬変、肝細胞がんなどが挙げられますが、そのなかでも特にアルコール性肝炎は炎症が強い病型と言われています。

アルコール性肝炎では、常習的に飲酒する人が食欲不振を自覚して、発熱、肝臓の腫れ(肝腫大)、右上腹部痛、黄疸、尿の色調が紅茶色に変化するなどの臨床的な所見を認めることがありますし、病状がさらに悪化すると、腹水や浮腫性変化も出現します。
血液検査を実施すると、白血球が増加し、肝酵素であるAST(GOT)が200IU/L以上に上昇する、あるいは貧血や血小板減少、アルブミン減少、プロトロンビン時間の延長、クレアチニン上昇など多臓器に関連する血液検査異常を示すこともあります。

アルコール性肝炎における診断は飲酒歴がはっきりしていれば容易ですが、多量に飲酒する人全員が必ずしもアルコール性肝炎を発症するわけではありません。

傾向として、男性より女性のほうが少ない飲酒量でアルコール性肝炎を引き起こしやすいと考えられていて、一度過去にアルコール性肝炎を発症した場合は度重なる飲酒機会によって繰り返しアルコール性肝炎となり、肝硬変へと進行していきます。

アルコール性肝線維症

アルコール性肝線維症は、慢性的な飲酒行為を続けることによってコラーゲンの過剰産生が起こって、肝臓領域で脂肪変性や線維化が生じる状態を指しています。

一般的には、肝炎や肝細胞の壊死を引き起こす程度は軽度であると言われていて、禁酒することにより肝機能は改善することが期待されます。

前述したアルコール性脂肪肝の状態になってもアルコールの摂取を長期的に継続するとアルコール性脂肪肝はさらに進行して、肝細胞や肝臓を取り巻く静脈に細い線維性変化が引き起こされるアルコール性肝線維症に進展することになります。

休肝日とは

休肝日とは、もともと肝臓を休めるために少なくとも週に1日以上飲酒しない日を設けることを推奨する目的で作られた概念です。

アルコール自体が依存性を有するため、習慣的な飲酒を継続していると耐性が発生して徐々に飲酒量が増加する危険性が指摘されていて、休肝日を設けることによって飲酒する総量が減り、アルコール性肝障害の発症を予防できる可能性があります。

週に何日必要?休肝日の目安

アルコール性肝障害を事前に予防するためには休肝日を設けてアルコールの摂取量を抑えて肝臓を休めるとともに、良質なタンパク質を摂取してビタミンの豊富な食事をとりながら、食品メニューを脂肪分の少ないバランスの取れたものにすることが重要です。

肝臓に過度の負担をかけないように飲酒するには、日本酒であれば1日に1から2合(180から360ミリリットル)までの飲酒量にすることが好ましく、適量を超える飲酒量を毎日摂取する場合には、週に2日連続した休肝日が必須とされています。
明確に休肝日を設定することで、酒浸りが発症要因と認識されているアルコール依存症に陥らない歯止めとしての予防効果も期待できます。

まとめ

これまで、アルコールの飲みすぎで引き起こされる病気、休肝日の効果と目安などを中心に解説してきました。

5年以上など長期にかけて過剰な飲酒を常習的に続けることによって、さまざまなアルコールに関連する肝障害を合併することが知られています。

代表的なアルコール性肝疾患として、大量の中性脂肪やコレステロール成分が肝臓に蓄積するアルコール性脂肪肝、肝臓に強い炎症を引き起こすアルコール性肝炎、脂肪肝や肝炎が進行して肝臓内に線維が蓄積されるアルコール性肝線維症などが挙げられます。

習慣的に大量の酒を飲むことがアルコール性肝障害の主な原因となるため、そうした肝疾患を予防するためには一日あたりの飲酒適正量を遵守する、そして週に数日はアルコール摂取を控える休肝日を設定するなど日々の飲酒習慣を管理することが重要です。

同時に、規則正しい生活を送って、栄養バランスの優れた食事を摂取する、あるいは十分な運動や睡眠など生活習慣を整えて飲酒以外に自分なりのストレス発散法を発見することもアルコール性肝障害を未然に防ぐためには有効な手段となります。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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