HDLコレステロールが高いときと低いとき…原因と数値の改善方法
脂質であるコレステロールはそのままでは血液に溶けずに、蛋白質が結合したリポ蛋白という形で血液中に溶け込んでいます。
HDLコレステロールはリポ蛋白のひとつで、血液中の余分なコレステロール成分を肝臓に運搬する役割を担っています。
善玉コレステロールとも呼ばれるHDLコレステロールですが、数値が高い、または低いとどのような問題があるのでしょうか? ここではHDLコレステロールについて詳しく解説します。
目次
HDLコレステロールとは
コレステロールは人の体内に存在している脂質であり、タンパク質などと結合してリポタンパク質として血液中に溶け込んでいます。そのリポタンパク質のひとつにHDL(High Density Lipoprotein、高比重リポタンパク)があります。
HDLによって血中を運搬されるコレステロール成分をHDLコレステロールと呼んでおり、
そのHDLコレステロールは血管や末梢組織に蓄積した余剰コレステロールを引き抜いて肝臓に運搬し、最終的に糞便として排泄する役割を担っています。
HDLコレステロールの基準値
体内に溜まったコレステロール成分を肝臓に運ぶ代謝的な役割を持つ観点から、HDLコレステロールは「善玉コレステロール」とも呼称されており、基準値は男性で40~86mg/dL、女性で40~96mg/dLとなっています。
基準値の範囲はそれぞれの医療機関や医師の見解によって異なることもありますが、基本的には40mg/dlより値が少ないと低HDLコレステロール血症であり、中性脂肪が高い人や運動不足の人などに多い脂質異常症の状態であると考えられています。
通常では、男性に比べて女性の方が約10mg/dL 程度高い値を示すことが多いですが、近年ではHDL コレステロールが100mg/dL 以上と著明に高値になると心血管系疾患の発症リスクが上昇することが判明してきました。
non-HDLコレステロールとは
non-HDLコレステロールは、総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値であり、これまでの研究からその値が高い人ほど虚血性心疾患の発症リスクが高まることが知られています。
現在は「non-HDLコレステロール」という値が特定健診の項目に加えられていますし、non-HDLコレステロールの値は脂質異常症の診断基準にも含まれています。
日本動脈硬化学会のガイドラインでは、non-HDLコレステロールの数値が170mg/dL以上であれば「高non-HDL-C血症」、150~169mg/dLは「境界域高non-HDL-C血症」と診断されます。
健康診断などの検査でコレステロールが正常だった人も、non-HDLコレステロールでは異常となる場合があり、特定健診にもnon-HDLコレステロールの項目が導入され、動脈硬化の指標となる血中コレステロールのバランスがより正確に調べられるようになっています。
HDLコレステロールの数値が高くなる原因
HDLコレステロールの数値はいくつかの遺伝性疾患で上昇する可能性が指摘されており、このような疾患においてはHDL値がたとえ高値であっても通常とは異なり、心臓病や脳卒中などの疾患予防とは無関係である可能性があります。
一部の遺伝性疾患によって脂質値以外にも、生体にとって他の影響が引き起こされる、脂肪分を含む食べ物を消化する過程で別の代謝的な異常が生じる、といった可能性が指摘されています。
HDLコレステロールの数値が高くなる背景には、HDLの過剰産生やHDL除去の減少に伴う遺伝子変異によるもの(原発性)、そして慢性アルコール中毒など他疾患によるもの(続発性)が考えられます。
CETP欠損症
HDLコレステロールが原発性に高値を示す際には、遺伝的に異常変異するコレステリルエステル転送タンパク質(CETP)の欠損症が考えられ、この場合にはHDLコレステロール値が130~250mg/dLと顕著に増加するといわれています。
CETP欠損症は、CETP遺伝子の変異によって引き起こされる稀な常染色体劣性遺伝疾患であり、心筋梗塞など動脈硬化が関連している疾患に罹患しやすくなります。
CETPはHDLから他のリポタンパク質へのコレステロールの転送を補助する役割を担っており、CETPが欠損していると低比重リポタンパク質のコレステロール値に影響が生じる以外にも、血液からHDLコレステロールを除去する速度が遅くなると考えられます。
家族性高アルファリポタンパク血症
家族性高アルファリポタンパク血症は様々な遺伝子変異によって引き起こされる常染色体優性遺伝疾患であり、健診などで実施される血液検査にてHDLコレステロールが高値として指摘されたときに疑われますが、特に治療の必要はありません。
続発性HDLコレステロール高値
続発性HDLコレステロール高値と関連し、日々の生活においてアルコールを過度に摂取すると、特にHDLコレステロール値が元来高い人はさらに上昇すると考えられます。飲酒は適度にして、休肝日を設けることが大切です。
アルコール以外にも、原発性胆汁性肝硬変や甲状腺機能亢進症、あるいはコルチコステロイド、インスリンなどの薬剤が関連して、続発的に高HDLコレステロール血症が引き起こされるといわれています。
HDLコレステロールが高いと健康に悪影響はある?
善玉コレステロール(HDL)に関しては、正常値下限の40mg/dLを下回ると動脈硬化疾患の発症リスクが高まることがこれまでに判明していますが、その反対に適正範囲の上限値を上回るとどういう健康被害が認められるかは、統計学的に証明されていませんでした。
昨今では、段々とHDLコレステロールに関する研究知見が進んできて、HDLコレステロールの数値が高過ぎても、心臓病や脳卒中のリスクがある程度上昇することが分かってきました。
HDL成分は血管内のコレステロールを引き剥がして、肝臓に運搬する役割を有していますが、他の体内物質に転送して肝臓に送り込む場合もあることが知られています。
ところが、その転送する役割を持つコレステロールエステル転送タンパク質が遺伝的に少ないCETP欠損症では、HDL自体がコレステロールを抱えた状態で転送しにくくなるため、血管からコレステロールを剥がす機能が低下して、動脈硬化リスクが高まります。
HDLコレステロール値が高いときの対処法
HDLコレステロールの数値が高いときの対処法を紹介します。
動脈硬化などの検査を行う
HDLコレステロールの数値が高いと指摘されて、特に40歳以上の男性、あるいは閉経後の女性でHDLコレステロールが100mg/dL以上の際には、医療機関で頸動脈エコーなどを実施して動脈硬化性変化の有無を評価してもらうことをおすすめします。
HDLコレステロールが高い人に対しては、専門施設においてこれまでに狭心症や心筋梗塞を発症した経験があるかどうか、脳梗塞に罹患していないかなどの項目を聞きます。
そのうえで、頸動脈にエコープローベを当てて頚部を走行している血管の状態を調査して、実際に血管壁が肥厚してプラークがあるかどうかなどを中心に検査することになります。
漢方薬による動脈硬化の対策
漢方医学では、身体の血行を促進して血液中の老廃物を代謝して排出することで、大病にならない体質づくりを目標としています。
動脈硬化対策に活用される漢方薬としては、大柴胡湯(だいさいことう)が挙げられ、高血圧や肥満に伴う動脈硬化疾患の予防や治療に処方されることがあります。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、冷え性で身体がむくみやすいタイプの人に、頭痛、肩こりなどの症状に対して効果的であるだけでなく、脂質異常症に伴う体質改善に寄与することが期待されています。
また、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は他の漢方薬の補助的な役割として、血液をきれいに保って全身の血流を良好にし、動脈硬化の進展を予防する働きが期待されています。
漢方薬は効果が出現するまでに個人差があり、ある程度体質が改善するまでに時間がかかることもあるので、継続して調整していくことが大切です。
HDLコレステロールの数値が低い場合
HDLコレステロールは善玉コレステロールとも呼ばれ、余分なコレステロールを回収して血管をきれいに保つ役割があり、その基準値は40㎎/dl以上で、これを下回ると血管の弾力性が低下するリスクが高まると考えられています。
HDLコレステロールが低いと、動脈硬化性疾患になりやすいと⾔われていて、HDLコレステロール値が40mg/dL未満になると冠動脈疾患の発症の危険性が急に上昇すると指摘されています。
さらに、HDLコレステロールが20mg/dL未満と著しく低下している場合、喫煙、肥満、運動不⾜などの⽣活習慣以外の原因として、⽣まれながらに低い場合、あるいはHDLコレステロールの著しい低下をもたらす疾患(重度な肝臓病や腎臓病)を患っている可能性があります。
HDLコレステロール値の低下に関連する疾患としては、慢性腎不全や肝硬変だけでなく、糖尿病や甲状腺機能異常なども含まれています。
HDLコレステロールを効果的に増やすためには、毎日の食生活を見直すことが大切です。例えば、不飽和脂肪酸が多く含まれているオリーブ油や青魚を取り入れるのも効果的です。
不飽和脂肪酸は、HDLコレステロールを減らすはたらきはなく、LDLコレステロールのみを下げてくれる効果が期待できますので、日々の食生活で使用している油をオリーブ油に変える、あるいは鰺や秋刀魚などの青魚を食べるように心がけましょう。
まとめ
HDLコレステロールが高いのは問題なのかどうか、その数値が高くなる原因と対処法などを中心に解説してきました。
HDLコレステロールは「善玉コレステロール」とも呼ばれており、その基準値は男性の場合には40~86mg/dL、女性で40~96mg/dLであると定義づけられています。
高HDL血症を含め、脂質異常症は日常生活習慣などが反映されやすいともいわれています。食生活を見直したり、運動習慣を取り入れたりすることも大切です。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。