気象病かも?季節の変わり目の体調不良の特徴と効果的な漢方薬
季節が変わる時期はどうしても体調が悪くなりがちです。風邪をひかないまでもなんとなく体調が悪く、体がだるいといった症状を感じる人はよくいます。
ここでは季節の変わり目に体調不良になる理由と対処法について解説し、気象病について紹介します。
目次
季節の変わり目に体がだるくなるのはなぜ?
季節の変わり目には体がだるくなる、ということはよくいわれます。子どもの頃から周りのおとなによく言われて、なんとなくそうなのだなと思っている方も多いでしょうが、実際にはなぜ季節の変わり目には体がだるくなるのでしょうか。
恒常性を保つ人の体
もともと人の体は、恒常性を保つ機能を持っています。恒常性というのはいつも同じような状態で体を維持しようとする機能のことです。人は暑くても寒くても、朝起きて昼間活動して、夜寝る。そしてその間に食事をし、消化をしながら、さまざまな生産活動を行うようになっています。
もし人間が、周りの気温が変化したり、食事の量が変化したりするだけですぐに活動量が低下したり、栄養が足りなくて動けなくなってしまったりしたら大変です。そのため、人の体は常に体温を一定に保ち、血液中の成分が一定に保たれるようにコントロールされているのです。
例えば、暑ければ汗を分泌したり、体表面への血液の流れを増やして体温が下がりやすいようにしたりします。逆に寒ければ体表面の血管を収縮させ血流を減らす事で体温の放出をなるべく減らし、必要であれば体を震えさせることで熱を産生させ、体温が下がらないようにします。
また、血液中の糖分や他の栄養素が急に上下しないように、肝臓や他の器官は栄養素を蓄え、血液中の成分が減少したらそれらの器官から栄養素を放出することで常に血液中の濃度を一定に保とうとします。他にもさまざまな体内活動が、緻密なコントロールによって常に一定になるように保たれているのです。
そして、これらのコントロールをしているのが自律神経です。
自律神経の働き
自律神経は交感神経と副交感神経という二種類の神経が互いに力関係を強めたり弱めたりすることでバランスを取っています。
一般的に交感神経が強く作用すると体の各器官は活動的となり、逆に副交感神経が強く作用すると体の各器官は休むようになります。このバランスは一日中それぞれ強くなったり弱くなったりする事で、体全体のバランスをうまく保っています。
しかし急に外気温が変化すると、このバランスをうまく保てなくなります。例えば急に寒くなってしまうと、いつもだったら体温を放出しようとして血管を拡張させたり汗を分泌させようとしたりするときに、急に寒さを感じて血管を収縮させ、震えを起こさなければならなくなるため、自律神経系のコントロールが不安定になります。
その結果、体温のコントロールだけではなく他の自律神経の作用にもアンバランスさが伝搬してしまい、体全体の各所で異常が起こってしまうのです。
また、そのアンバランスに対応するためにさまざまな活動が必要になり、体力を多く消費してしまい簡単に疲れてしまったり、だるさを感じてしまったりするようになります。
季節の変わり目には天候も変化しやすく、気圧の変化も大きくなります。人の体調は気圧によって大きく影響されますので、気圧の変化による体調変化も症状としてよくみられます。
季節の変わり目に表れやすい症状
では、実際に季節の変わり目にはどのような症状が見られるのでしょうか。具体的な症状と、その症状が起こる理由について解説します。
頭痛
もともと偏頭痛を持っている人は、気圧の変化によって頭痛が増悪することがあります。季節の変わり目には気圧の変化が激しくなりますから、偏頭痛の症状がひどくなります。
肩こりからくる頭痛である緊張性頭痛も気圧の影響を受け、季節の変わり目にひどくなることがあります。
また、頭痛の中には頭蓋骨の中の血管が拡張することで周囲の神経が圧迫され、痛みを感じる頭痛もあります。自律神経の調節がうまくいかないと血管拡張によって頭痛がひどくなる人もいます。
めまい
めまいが起こるのは、耳の奥にある内耳という器官がうまく働かないことによります。内耳はもともと平衡感覚を保つための器官ですが、ここの調子が悪くなることで、水平が認識できなくなり、ふらつき、めまいが起こります。気圧の変化が激しくなると内耳の圧が変化し、機能が低下することからめまいが起こります。
また、立ちくらみの症状も季節の変わり目にはよく起こります。もともと人は立ち上がったときに、足に血液が流れすぎて頭の血流が減少してしまうことを防ぐために、自律神経が働いて足の血管を収縮させて頭の血流を維持します。しかし自律神経の機能が低下しているとこの働きが弱くなり、頭への血流が減ってしまって立ちくらみが起こってしまいます。
消化器官の不調
消化器官の不調は、自律神経の失調によってもっともよく起こる症状です。消化器は安静時によく動き、体を動かすようなときにはあまり動かないようになります。
消化には血液が多く必要ですから、体を動かすときには血液を筋肉など他の部分に回し、逆に安静にしていて血流に余裕があるときに腸管への血流を増やすことで消化を進めます。この調節は自律神経によって行われますから、自律神経の失調によってこの調節がうまくいかなくなり、便秘や下痢、消化不良などの消化器症状が起こってきます。
吹き出物などの肌荒れ
肌の環境は、皮脂や汗の分泌によって保たれます。これらの分泌は血流によって左右され、この血流は自律神経系によってコントロールされています。外気温が低く乾燥している際には汗はあまり分泌されず、代わりに皮脂が多めに分泌されて肌のうるおいを維持します。
一方で、暑いときには汗を多く分泌し、汗が乾いたときに乾燥が防がれる程度のちょうどいい量の皮脂が分泌されます。しかし寒暖の差が大きいと肌からの分泌量が大きく狂いますし、それに合わせて自律神経系が働こうにも体全体で自律神経の乱れがあれば、肌での調節もうまくいきません。
そのため、皮脂が異常に多くなったり、逆に少なくなったりすることで肌にダメージが蓄積し、吹き出物などさまざまな肌の異常が出てきます。
季節の変わり目に起こる気象病
天候が悪いときに、なんとなく体調が悪くなってしまうことはないでしょうか。気のせいだと思われるかもしれませんが、実際に悩んでる人は多くおり、天候の変化によって心身に不調をきたすことを気象病と呼んでいます。
潜在的に気象病を持っている人はかなり多いとされ、日本国内の潜在的な患者数は1000万人にも上ると言われています。
気象病の中でも、うつや不安といった気分障害にまつわるものを特に天気痛と呼んで研究している人もいます。このような気象病や天気痛は、天候が変わりやすい春や低気圧が続く梅雨の時期、台風の多い秋などによくおこってくるとされています。
代表的な症状には、めまいや頭痛、疲労感、吐き気、首や肩こり、低血圧、関節痛、古傷が痛む、手足がしびれる、うつ症状が出る、喘息発作や狭心症の症状が悪化するなどがあります。
女性に多く見られる病気
気象病は女性によく見られるとされています。女性は生理周期によって自律神経が乱れやすくなっています。そこに天候の影響を受けるために、様々な症状が出やすくなっていると考えられています。
女性の中でも、特に40歳を過ぎたぐらいから症状が出やすくなる人が多くなります。40歳を超えると副交感神経の機能が低下し、交感神経が活発化しやすくなるため、症状が出やすくなると考えられています。
原因は自律神経の乱れ
気象病の原因は、気圧や気温、湿度などが大きく変化することによって自律神経が乱れることが原因となって起こってくると考えられています。その中でも特に気圧の変化による影響がとても大きく、気圧が低下する時に症状が出やすいと言われています。
気象病が起こりやすい時期である春や梅雨の時期、秋などは、いずれも急に低気圧が通過することによって気圧が低下し、体に影響が起こりやすい時期と言えます。
そもそも自律神経には、体を活発化させる交感神経と、リラックスさせる副交感神経の2つがあって、2つがバランスを取りながら様々な臓器の働きを司っています。周りの環境に合わせて細かく調整をしていますから、環境の変化が大きいと多くのエネルギーを消費してしまいます。それによって、自律神経の働きが乱れ、体調不良に繋がってしまうのです。
特に自律神経の乱れの中でも、原因として大きな役割を果たしているのが耳の奥にある内耳の部分と考えられています。内耳の部分には、三半規管や前庭など、体のバランスを保つ機関が多く集まっています。内耳が感じ取った気圧低下の情報は、前庭神経という神経を通って脳に伝えられ、それによって自律神経が反応します。自律神経が反応すると、特に交感神経が活発化します。
通常であれば、交換神経が反応しても体に影響は出ない程度に抑えられます。しかし自律神経が疲弊していると、交感神経の活発化が非常に強くなり、体に様々な悪影響が出るほどになってしまうのです。この交感神経の活発化によって、うつやめまいが悪化したり、心拍数が増加したり、血圧が上昇したり、慢性痛が悪化すると考えられています。
季節の変わり目のだるさ対策
季節の変わり目にはさまざまな体の異常が出てくることを説明しました。体調不良への対策を紹介します。
室温と外気温の差を小さくする
急激に気温が変わることは、自律神経系の負担を大きくします。毎日の気温の上下が激しいことはもちろんですが、温かい部屋から急に寒い室外へ出るような、激しい気温差を急に感じると、体のさまざまな場所に負担がかかり、自律神経系の失調をひどくします。
夏は冷房の設定温度を下げすぎないようにしたり、冬は暖房を強くしすぎたりしないようにし、着衣である程度の調節をすることで、室外に出たときの体への負担を少なくすることができます。
起床後に朝日を浴びる
自律神経の失調は、体の日内リズムの異常によっても起こってきます。毎日同じような時間に起きて、同じような時間に活動し、同じような時間に食事をし、同じような時間に眠ることで体の中にリズムができ、自律神経系のスイッチの切り替えがスムーズになります。
起床後にすぐに朝日を浴びることで朝が来たという日内リズムを体に感じさせることができ、自律神経系のスイッチをうまく切り替えられるようになります。
同じように、遅い時間まで強いライトを浴び続けると夜間へのスイッチ切り替えが上手くできなくなってしまいますから、夜間は電気を暗めにして、スマホやモニターなどの強い光の刺激を避けると良いでしょう。
睡眠の質を高める
睡眠は自律神経系のリズムを整えるうえで重要です。自律神経系のスイッチを切り替える時間を設定するという意味はもちろん、睡眠中にさまざまな自律神経活動を行う事で、自律神経系の活動をうまく調節します。
明るい部屋で寝たり、座ったままで寝たりして質の悪い睡眠を取ってしまうと、睡眠時間を確保したとしても自律神経系の活動がうまくいかず、日中起きている間のだるさにつながります。夜間はしっかりと睡眠時間を確保し良質な睡眠を取ることが大事です。
朝食をとる
先ほども説明した通り、腸管の運動は自律神経系に非常に影響されています。また、腸管運動自体も自律神経系に非常に大きな影響を与えています。特に朝は、一日活動するスイッチを入れる非常に重要な時間です。
この時間に食事をすることで腸管の動きを活発化し、自律神経系の活動を調節し、一日の自律神経系のリズムを整えます。
一日の中で、朝の時間帯に食事をするという事自体が重要であるのはもちろん、毎日食べることで毎日のリズムをテンポ良く調節することができます。
漢方薬を活用する
上記の対策に加えて、漢方薬の使用も効果的です。漢方薬は、「このような症状に対してこのような効果のある薬剤を使用する」という西洋医学の観点とは違い、「体はこのような状態だから、効果的な介入をすることで体の不調をただそう」という観点で使用されます。
ですから、季節の変わり目など自律神経系の不調がある場合は、体全体の調子が崩れているので、体全体の不調にアプローチする漢方薬が使用しやすいのです。
具体的な薬剤を見てみましょう。まず補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は、体全体のだるさ、しんどさを改善する漢方薬です。漢方医学的には、生命活動のエネルギーである「気」という概念があります。この「気」は、人の体を支えるエネルギーの様なもので、この「気」の量が不足した状態を「気虚(ききょ)」の状態といい、補中益気湯はこのような場合に用いられます。
具体的には胃腸のはたらきを高め、食欲を出すことで「気」を増やすことを目指します。それによって疲れを改善しようとします。
帰脾湯(キヒトウ)は「気」に加えて、「血」も不足しているときに用いられる漢方薬です。血は血液を主として、体全体を巡って体中に栄養を与えるものです。帰脾湯はとくに、臓器で言う「脾」の働きが低下した「脾虚」を改善します。
酸棗仁湯(サンソウニントウ)は体力が低下し、からだはもちろん、心も疲労している人の不眠の改善によく用いられます。睡眠の改善によって自律神経失調症の改善も目的としています。特に自律神経系の乱れが原因で起こると考えられる、覚醒と睡眠のリズムが乱れるタイプの不眠に対して使用されます。
このような漢方薬を症状に合わせて使用することで、季節の変わり目のだるさ、ふらつきなどの対策ができるでしょう。